2023年9月12日無料公開記事洋上風力発電
本格展開に向け案件充実が鍵握る
日本の浮体式洋上風力
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日本で浮体式洋上風力事業が本格展開するにあたり、インフラの整備不足などさまざまな課題が指摘されている。政府は洋上風力の案件形成について「2030年までに10GW(ギガワット)、40年までに30〜45GW」という野心的な目標を設定している。今後は、総理指示のもと、浮体式の産業戦略と導入目標も策定される見込みだ。ただし目標達成に向けては公募実施スピードの加速による案件充実化など事業環境の整備を急ぐ必要がありそうだ。
浮体式洋上風力の事業化に向けては基地港湾やクレーン、作業船の不足などインフラに対する懸念が残る。「作業船がなければ海外から用船する必要があるが、用船料が高額になる。商業化を目指すうえで、コストを下げるためには作業船やクレーンなどが充実している必要がある」(浮体関連事業者)。
浮体式の設置にあたっては日本の気象海象では、工事が1年の約半分しか実施できない可能性が高い。洋上風力発電所を建設するにあたり、浮体の連続建造が設置スピードを上回った場合、設置工事が休止している間に浮体をとどめておくスペースの確保も必要となる。このほか、浮体式では長く重量のある係留チェーンが使用されるため、これを置くための地耐力とスペースも必要となる。
また、浮体をどこで製造するかも課題の1つだ。「造船所に製造してもらうのが一番いいが、造船業が優先される中で、鉄板工事が主な浮体製造が造船所にとってどこまで魅力のある仕事なのか」と懸念する浮体関連事業者の声も聞こえる。一部海外では岸壁で浮体を製造している事例もあるが、日本国内の岸壁は水深や地耐力の面で不安が残る。「浮体製造面でのインフラがあまりにも課題として大きく、このままだと中国やシンガポールで製造して日本に持ってくることになってしまう。政府はじめ関係者はインフラ整備に尽力しなければならない」(同)
地耐力については、着床式よりも浮体式に要求されるものの方が大きく、着床式向けに整備された基地港湾が必ずしも浮体式で活用できるとは限らないと指摘する声もある。現状、浮体式向けの基地港湾はない。浮体式も視野に基地港湾を整備していく必要がありそうだ。
風車メーカー側のキャパシティ不足も課題の1つだ。浮体基礎に風車を搭載する際は、連携に向けた検証プロセスを経る必要がある。しかし英国を中心に、着床式を含め洋上風力プロジェクトが世界的に増加していることなどから、風車メーカー側のエンジニア不足が指摘されている。浮体式洋上風力事業を実施するための海域を押さえ、実際に浮体式洋上風車を設置する目途が立たなければ、風車と浮体の連携に向け風車メーカーと共同で検討することが難しくなりつつあるという声も聞かれる。
これらの課題解消に向けては日本国内における案件充実が鍵を握る。「浮体式洋上風力産業は技術主導ではなくマーケット主導になりつつある。マーケットを作らなければ技術も進まない」(業界関係者)。海外の浮体関連事業者も日本の案件数の少なさ、形成スピードに懸念を示している。マーケットの見込みがなければ事業投資や開発投資を含め、国内外の事業者が投資活動に動き出すことが難しい。そのため、政府主導で中長期にわたり一定程度のボリュームがある洋上風力発電所の設置計画を示す必要がある。
また、案件形成の加速に向けては排他的経済水域(EEZ)への導入拡大が不可欠だ。そのためには法整備や海洋空間計画の策定が急がれる。ただし、海洋空間計画の策定には10年単位の時間を要する可能性があり、気候変動対策としては遅いのではという意見もある。「全海域の計画を立てるのではなく、まずは小規模な海域を複数指定し、EEZで洋上風力発電所を建設するための整理をしていただきたい」(業界関係者)。
案件充実に加え、浮体式洋上風力関連の投資に対する補助を求める声も多く聞かれる。作業船の建造や浮体量産化に向けた設備投資などが挙げられた。洋上風力の導入拡大に向けては海外でもサプライチェーンがボトルネックとなっている。サプライチェーンの早急な整備に向けて政府が後押ししていく必要がありそうだ。