2023年9月12日無料公開記事洋上風力発電
高い安定性と漁業協調性が特徴
三井海洋開発、TLP型を国内展開
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MODECのTLP型浮体
三井海洋開発(MODEC)はオイル&ガス分野の浮体構造物で培った知見を活かし、洋上風力発電でTLP(緊張係留)型浮体の商用化を目指す。TLP型は高い浮体の安定性に加え、係留索の海面下での占有面積が小さいことから、漁業との協調性の高い浮体としても評価を得ている。海外向けには海域に合わせセミサブ型のメニューも準備し、国内外で事業を展開していく考えだ。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション(GI)基金事業で、JERAや東洋建設、古河電気工業と「低コストと優れた社会受容性を実現するTLP方式による浮体式洋上発電設備の開発」を行っている。MODECが浮体・係留システム、東洋建設が係留基礎、古河電工が送電システムの開発を担い、JERAは発電事業者として実証予定地での観測を実施し発電設備の設計条件の設定を担う。「数年前は10MW級風車を念頭に取り組んでいたが、大型化の流れを受け、15MW級の実証試験にこだわって取り組んでいる」(MODECの小林秀信ビジネス&プロジェクトサポートグループ副グループ長兼事業開発部)。
同社が開発するTLPは、浮体と海底に打設した基礎杭を、係留索の緊張力を利用して係留することでプラットフォームを安定させるもの。オイル&ガス分野で確立されている技術で、MODECはすでに同分野で世界一の実績を持つ方式だ。一方で、オイル&ガス産業が発達していない日本では実績のない技術。このため、「当社のオイル&ガス事業におけるメキシコ湾や西アフリカでのTLPの知見を活かすとともに、東洋建設が杭の打設、引き抜き試験を行うなど実証を通じて、技術の確立と共に国内での理解を醸成していく」(小林副グループ長)との考えだ。
係留索が垂直方向に張られるため、他の係留方式と比べ風車1基あたりの海面下の占有面積が1000分の1程度であることが特徴。浮体式では海面下に係留索が張り巡らされる点が漁業関係者の懸念事項の1つとなっているが、「浮体の安定性が高いことに加え、占有面積が小さいことから漁業への影響も最小限に抑えることができる」(MODECの渡邊茂事業開発部マネージャー<洋上浮力発電>)。TLPは運転開始後に遭遇する荒天時ではなく穏やかな海象時に行われる曳航や係留接続作業時の条件で浮体幅が決まるため、浮体の大きさもコンパクトで、15MW級風車向けの浮体でも日本の造船所で対応可能としている。
また、風車メンテナンスに柔軟に対応するため、浮体と係留の着脱が可能なコンセプトとなっている。接続部にコネクタを付けることで浮体を取り外し、岸壁まで曳航してメンテナンスできるつくり。古河電工も着脱可能な電力ケーブル端部のコネクタを開発している。
浮体下部は喫水を浅くするため浮力体になっており、水深の浅い岸壁にも対応できるようにしている。そのため、造船所内や岸壁で風車を搭載し、風車を搭載した状態で浮体を設置海域まで曳航することができる。「浮体の形は一般的なセミサブ型に近く、コラム3本が水面を貫通するような形で浮いているため、復原力が働き、係留を外した状態でも安定性に優れている」(渡邊マネージャー)。
海外ではセミサブ型浮体の展開も視野に入れている。TLPの場合、米国西海岸など水深が深い海域では波周期との共振の問題が出てくるためだ。「当社はオイル&ガスの顧客が多く、彼らも再生可能エネルギーに向け動き出さなければならない中で、これまでの関係性とオイル&ガスの実績を活かし、海域に合わせてTLPとセミサブの提案を行っていく」(小林副グループ長)。
今後の展開について、NEDOのGI基金事業フェーズ2に応募し、フルスケールでの実証を行い商用化に繋げたい考えだ。設計、実証、商業化の一貫したシナリオの中で実施しているGI基金事業フェーズ1は予定通り進捗しており、2030年代初頭には浮体式洋上風車によるウィンドファームを実現していきたい」(小林副グループ長)としている。