2023年9月12日無料公開記事洋上風力発電
ハイブリッドスパー型の導入進む
戸田建設、五島市沖で洋上風力発電所建設
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戸田建設は長崎県五島市の沖合で2016年3月からハイブリッドスパー型浮体式洋上風車の商業運転を開始し、昨年4月には同海域に新たに浮体式洋上風車8基を建設する洋上風力発電所の計画が、再エネ海域利用法に基づく一般海域での最初の事業として、認定を受けた。同発電所は昨年9月に海上での建設工事を開始、着々と展開が進んでいる。
同社は07年から浮体式洋上風力発電の技術開発に取り組んでおり、環境省の実証事業として13年に2MW(メガワット)の風車を搭載した実証機「はえんかぜ」を建設、16年に五島市沖で商業運転を開始した。同社は現在、「はえんかぜ」の維持管理を担っている。続く新たな洋上風力発電所の建設では2.1MWの風車を8基建設する計画で、このうちすでに3基が設置された。
実証機を設置した13年当時、浮体式洋上風車は世界でも2例目と珍しく、先行した取り組みだった。また、台風や地震が多い日本で実証を行うという点でも風力発電業界に大きな影響を与えたという。設置工事を行う直前に大型台風が通過したことで設計要件がより厳しくなった経緯もあり、「かなり良いものに仕上がった」(戸田建設戦略事業本部GX統轄部浮体式洋上風力発電事業企画営業部の原田卓担当部長、以下同)。「はえんかぜ」の設置以降も毎年台風が通過しているが、特に大きな被害がないことを確認できているという。
実証にあたっては長い年月をかけて地元の漁業関係者からの理解を醸成してきた。「当初漁業関係者の方からは事業に対する心配もあり、理解いただくために丁寧に説明を行った。その後、実際に風車が立ち漁業への影響が小さいことを確認し、この事業に対して理解いただいている」。実証を経て、現在進めている浮体式洋上風力発電所の建設にも地元からの同意を得た。「長い時間をかけて漁業関係者の方々の理解を得てきたことも、これまでの取り組みの大きな成果の1つだ」。実証事業の風車は浮体式洋上風力事業への理解促進も担っており、現在でも国内外から見学者が訪れている。
ハイブリッドスパー型は下部がコンクリート、上部が鋼で構成された円筒状の浮体だ。スパー内部を空洞にすることで、船と同じように浮力を保っている。また、水圧に強く重いコンクリートを下部に採用することで重心を低くし、強度と安定性を保つとともにコスト低減を図る。「コンクリートはどこでも手に入る材料のため、ローカライゼーションができるというメリットがある」。一方でコンクリートは細かな加工に向かないことから、上部には加工が容易な鋼を採用し、海面付近は直径を狭めることで波の影響を小さくしている。
「はえんかぜ」は水深100m、建設中の洋上風力発電所は同100〜120mの海域に設置している。ハイブリッドスパー型の適地としては「水深300mまでは今の技術で問題なく対応できる。水深1000mまでは、直近のマーケットとして視野に入れることを考えている」。また、対応する風車の大きさについては、「技術的に制限はない。洋上風車のマーケットが15MW級風車に移行しつつあるので、次の事業ではその規模の風車の導入を視野に入れている」。
浮体の設置にあたって、戸田建設は半潜水型スパッド台船“FLOAT RAISER”を導入している。クレーンを用いずに多軸台車で浮体を積込み、設置海域で半潜水状態にすることで浮体を水に浮かべることができる。浮体の底には重心を下げるためバラスト材を仕込んでおり、沖合で海水を注入しさらに重心を下げ、自動的に浮体が立ち上がる仕組みだ。浮体が立ち上がった後、起重機船などを用いて風車を設置する。「浮体を大型クレーンで荷揚げする必要がないので、さまざまな港を活用できるうえ、クレーン費用も削減できる」。
今後の展開については大型風車への対応を第一に挙げる。「15MW級風車に対応した浮体を設計し、実証していきたい。大型化に対応できた暁には量産化にまい進することになるだろう」。五島市沖の事業で用いる浮体は建造ヤードを整備して造った。今後の浮体の製造手法については、「原則は同様にヤードでの建造を考えているが、さまざまな建造手法があるので、今後より良い方法を検討していく可能性もある」としている。