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2023年3月14日無料公開記事洋上風力発電

SEP船、日本の洋上風力に続々現る

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“BLUE WIND”

 風力発電設備を洋上に建てる時に力を発揮するSEP船(洋上風力発電設備設置船)。発電所の建設を担うマリンコントラクターが中心となり国内外で新造したり、海外で活躍している船を外国籍から日本籍へと転籍して持ってきたりして、日本市場にその姿を続々と現し出した。タグボートや支援船によって曳航される非自航のほか、自航する船舶タイプを含め10隻弱の投入が決まっている。

洋上風力工事のトップランナーへ
清水建設/JMU、世界最大級のSEP船竣工

 カーボンニュートラルの実現を見据えて洋上風力発電施設の建設プロジェクトが本格化するなか、清水建設がジャパンマリンユナイテッド(JMU)で建造したのが、世界最大級の自航式SEP船“BLUE WIND”だ。同船は、世界最大級の揚重能力となる2500トンクレーンを搭載することで14~15MW級の大型洋上風車建設に対応し、作業効率の大幅な向上を実現した。清水建設はこのSEP船を活用し、年々大型化する洋上風車を採用する洋上風力発電施設の建設工事におけるトップランナーを目指す。

■洋上風車大型化の波

 発電能力の規模や安定性から、洋上風力発電は再生可能エネルギーの中でも期待が高まっている。洋上風力発電は基礎構造の違いによって風車の基礎部分を海底に固定する着床式と、海上に浮かべた構造物の上に風車を載せる浮体式の2種類があり、大型の着床式風車は、SEP船を使って建設する。SEPはSelf-Elevating Platformの頭文字で、SEP船は目的地に到着後、4本の脚を海底に着床し、ジャッキアップさせて船体を海面から浮上させることで、波の影響を受けずに自立して作業を行う。洋上での施工工事は、まず基礎(モノパイル等)を施工した後、風車のタワー、ナセル(駆動部)、ブレード(羽)をSEP船に搭載・運搬し、基礎上に据え付けるという流れだ。
 洋上風力発電のニーズが高まる中でトレンドとなっているのが風車の大型化だ。2014年以降、洋上風車は年間約1MWの割合で大型化している。洋上風力発電の事業性向上のため洋上風車の大型化が進行するなか、清水建設は12MW以上の大型風車を確実かつ高効率に施工できる最大揚重能力2500トン(最大伸長時1250トン)・揚程最大158mのクレーンを搭載した大型船の整備に踏み切った。

■世界最高峰の作業性能

 建造した“BLUE WIND”の特徴は、大型風車の施工工事での世界有数の作業性能を持つことだ。“BLUE WIND” はクレーンの吊り能力を2500トンに大型化することで、14~15MW級の大型風車の基礎や風車据付工事が可能なうえ、4600㎡の広々としたデッキに8MW風車ならば7基、12MW風車ならば3基の全部材(タワー、ナセル、ブレード)を一度にフルサイズで一括搭載でき、予備日をみても8MW風車の場合は7基を10日、12MW風車の場合は3基を5日で据え付けることができる。通常のSEP船のように分割して搭載する場合と比べて、施工効率が約5割向上し、大幅な工期短縮や作業コスト低減を実現する。
 SEP船に搭載したクレーンの作業範囲が大きいのも特徴だ。クレーンの作業半径は60mあり、岸壁のそばに障害物がある場合でも、岸壁から離れた場所で大型風車のフルタワー部材を吊り上げられる。洋上風車の積み込みの拠点となる港の幅広い作業環境に対応した。

■国内建造初の自航式SEP船

 作業能力に加えて、日本の厳しい自然条件・海象条件での作業にも対応した仕様となっている。SEP船は波浪に左右されない環境での工事を可能とするためのものだが、本船のジャッキアップレグの長さは109mまで改造可能で、水深10~65mの海域の作業に対応できる。海が荒れて波が高い時でも影響を受けないため、厳しい海象条件下でも安定した作業が可能だ。特に世界でも厳しい海象条件とされる周期10秒の長周期波、2.5mの最大有義波高という日本特有の厳しい条件でも、85%以上の高い稼働率を誇り、既存のSEP船と比べて稼働できる期間が長い。地震やマイナス10℃の寒冷地での安全性も確認した。
 作業性の向上に寄与しているもう1つの大きな特徴が自航式の採用だ。日本国内で建造されているSEP船はいずれも非自航式だが、“BLUE WIND”は欧州で一般的な自航式とした。推進システムにスラスター6基(3800kW3基、3200kW3基)を搭載し、航海速力は最大11ノットと、タグボートで曳航される場合と比べて2倍以上の速力で航行でき、施工海域と拠点とする港の距離が離れているほど優位性を発揮できる。機動性の向上による工期短縮に加えて、タグボートでの曳航時と比べて、荒天時の対応力も高い。ジャッキングアップ時の位置決めや、位置を保持するダイナミック・ポジショニング・システム(DPS)も搭載した。

■洋上風力工事市場を席巻へ

 “BLUE WIND”を建造したJMUは、本船が引き渡しベースで2隻目のSEP船建造となった。一般商船から艦艇、特殊船まで幅広い船種の建造実績と技術力を持ち、着床式洋上風力発電の建設で不可欠なSEP船の建造においても国内トップの実績を誇っている。
 船名の“BLUE WIND”には、清水建設のコーポレートカラーを基調とするSEP船が風のように海原を駆け巡り、洋上風力発電施設の建設市場を席巻する、との思いが込められているという。日本政府による2050年カーボンニュートラル宣言を踏まえた再生可能エネルギーの切り札として日本各地で洋上風力発電施設の建設プロジェクトが本格化することに加え、欧州や米国、アジアでも、大規模な洋上風力発電施設の建設プロジェクトが次々と着工している。世界的にSEP船需要が高まり、大型のSEP船への注目が集まるなか、清水建設はこうした洋上風力発電のニーズに最新鋭の新造船で応えていく。

【主要目】全長142.8m、幅50.0m、深さ11.0m、2万3539総トン、航海速力11ノット、最大搭載人員130人、船級:NK、船籍・船籍港:日本・東京、その他設備:アジマススラスター3800kW×3台、昇降式アジマススラスター3200kW×1台、トンネルスラスタ 3200kW×2台、発電機(4630kW×4台、1425kW×2台)、ジャッキングシステム(ラック&ピニオン電動駆動式)、レグ(92m×4本)、テレスコピック型旋回式クレーン最大揚重能力2500トン(収縮時)、1250トン(ブーム伸張時)

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