2026年1月8日無料公開記事
リーン&アジャイルで変化に対応
ONE・ニクソンCEOに聞く
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変化に柔軟に対応していく
米国の関税政策や、紅海情勢悪化に伴う喜望峰経由への迂回継続、コンテナ船社アライアンスの再編など、2025年も激動の1年となったコンテナ船業界。今年も先行き不透明感が強く、変化に対して柔軟な思考と迅速な対応が求められる。オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)のジェレミー・ニクソンCEOは、リーン&アジャイルな取り組みによって変化に対応し、持続可能な成長を目指していく考えを示す。今年のONEの事業方針とマーケットの見通しについて聞いた。
■スエズ回帰と港湾混雑がポイント
― 25年を振り返ると、どのようなコンテナ船マーケットだったか。
「米国新政権の発足に伴う関税政策などの見直しが、世界貿易の枠組みやONEの事業環境に大きな影響をもたらした。ONEにとって米国は主要市場であり、コンテナ輸送量全体の約30%を占める。昨年4~6月期は関税引き上げ前の前倒し出荷の効果もあり、コンテナ輸送量は好調に推移したが、7~9月期は例年のようなピークはなく、コンテナ輸送量は例年と比較して低調に推移した。マーケットの変化に柔軟に対応することに注力した。このほかにも、紅海情勢やロシア・ウクライナ紛争といった地政学リスクもあり、不確実性の高い1年だった」
「ONEはリーン&アジャイルという価値観を大切にしている。今後の予測は難しいが、リーン&アジャイルに顧客や社内でのコミュニケーションを緊密に取り、状況に合わせて柔軟に投入船腹量やマーケティング戦略、オペレーション戦略を変化させることで対応していく」
― 26年の見通しは。
「25年度(25年4月~26年3月)の事業計画では、世界全体のコンテナ荷動きの成長率は約4%と想定していた。26年度も同程度で推移すると予想している。船腹供給に関しては、新造コンテナ船の就航に伴う供給量の増加が注目されているが、世界的に深刻化している港湾混雑と紅海情勢の動向もポイントになる」
「主要港湾における混雑と稼働率の高止まりにより、新規サービスでの寄港が困難になっている。船腹供給量を増やすには大型化しかないため、来年は全体的にループ数が増えないと予想している。スエズ運河への回帰の可能性に関しては、主要コンテナ船社は慎重に見ている。紅海情勢は流動的で先行きが不透明だ。船舶や乗組員、顧客の貨物への攻撃がないという明確な兆候と明確なタイムラインがあれば、スエズ運河に戻ることを再検討するが、現時点では状況を注視する。喜望峰経由の迂回によってサービスに必要な隻数が増えているが、スエズ運河に回帰することで必要隻数が減る。ONEにとっては船舶が不足しているため、スエズ運河への回帰は有益だと考えている」
― HMMやヤンミン・マリン・トランスポートとともにプレミアアライアンスを立ち上げた。1年目の評価は。
「アライアンス3社間の連携は非常に良好だ。また、アジア―欧州航路ではMSCとスロット交換を実施し、大西洋航路ではオーシャン・アライアンスと提携した。初年度は順調に推移したと評価している。26年はネットワークにいくつかの調整を加え、定時運航率の向上や、主要成長市場におけるカバレッジの拡大、スロットコストの低減を図っていく」
― 中南米やアフリカなど新興市場の成長も著しい。
「東西航路と南北航路・域内航路の比率を現在の60対40から、50対50に近づけていく。市場が成熟している東西航路は、マーケットの伸びに合わせて船腹量を増やしていく。他方でインドや中南米、アフリカなどの新興市場に対してはサービスを強化し、成長を取り込んでいく。中南米航路は、幅広で豊富なリーファープラグを備える1万3000TEU型新造コンテナ船シリーズを投入した効果で25年は20%以上伸びた。インドやアフリカもカバレッジや輸送能力の拡充を進めていく」
― インドでは内陸への輸送サービスも開始した。
「ハイデラバードとナバシェバを結ぶ冷蔵貨物の鉄道輸送サービスを開始した。温度管理が必要な製薬業界や付加価値の高い食品貨物で好評をいただいている。内陸輸送サービスは規制などにより一部の国では許可されていないが、欧州や北米、タイなどではこの種のサービスを展開できる。検討を進める」
■新造船、日中韓をバランス良く起用
― コンテナ船隊の整備方針は。
「ONE設立当時は、株主3社などからの用船でコンテナ船隊を確保していたが、2020年以降は自社保有と長期用船で定時・定量による調達を進めている。これまでに2万4000TEU型や1万5000TEU型、幅広で効率的な7000TEU型、1万3000TEU型など、さまざまな船型を整備してきた。25年9月末時点の発注残は52隻となっている。今後は自社保有船と長期用船の比率が高まっていく」
― 造船所の選定方針は。
「世界の船舶建造能力のうち中国が約70%を有し、韓国と日本で残り約30%を占める。米通商代表部(USTR)による中国建造船を対象とする政策方針なども念頭に置きながら、3つの国の造船所に適切な形で発注していく必要がある」
― 日本の造船所に対してどのように見ているか。
「日本の造船所の強みは、非常に長い伝統と優れた品質、新しい技術への適応力だ。しかし、現時点では船台が埋まっており、28~29年の船台を確保することが難しい。労働者不足も課題で、建造に一定の制限がかかっている。一方、日本造船に対して官民で1兆円規模の投資を行う方針が決まったことは、非常に前向きな展開だと捉えており、期待している」
― 日中韓以外の選択肢はあるか。
「インドや米国といった新たな建造国の可能性も探っていく。これらの国で建造された船舶の性能や品質が実際にどうなるのかを見極める必要がある。将来的には、船舶運航者の国籍や船籍に基づいて取引や活動に一定程度の制限が課されることも想定しなければならない。こうしたリスクに備えるためにも新たな造船国を視野に入れる必要性はあり、検討していく」
― シースパンと24年に船舶管理会社「ONESEA SOLUTIONS」を立ち上げた。
「25年1月に最初の5隻の保有を開始した。25年11月時点で47隻を管理し、年度末までに74隻に拡大する予定だ。非常に速いペースで事業を軌道に乗せている。今後もONEの自社保有船が増え、ONESEA SOLUTIONSの管理船も増えていく。質の高い船舶管理・技術管理を生かして、さらに成長させていく」
■専門人材の確保・育成も推進
― 国際海事機関(IMO)は、国際海運の温室効果ガス(GHG)削減に向けた中期対策(NZF)の議論を1年延期した。ONEのグリーン戦略に影響はあるか。
「IMOが1年延期したことは予想外だった。IMOの動向を引き続き注視しつつ、これまで進めてきた脱炭素化に向けた取り組みは当面継続する。現在、ONEのコンテナ船隊における炭素強度は08年と比べて約65%減少している。最新鋭の大型船の建造を進めており、船隊の効率を高めた効果が出ている。また燃料戦略に関しては、アンモニアやLNG、メタノールといった二元燃料対応の船隊整備を進めており、今後も周辺環境に注視しながら柔軟に進めていく」
― デジタル戦略の方向性は。
「社内においてはITシステムを効率化し、データの品質を可能な限り向上していくことに努めている。全てのプロセスを可能な限り効率化し、データドリブン型の企業に移行していく。新たな基幹業務システム『CHORUS』は開発が進捗中だ。同システムは、従来のビッグバン型の開発ではなく、モジュラー型のシステムとなるため、段階的に移行していく。今後1年以内に大部分のシステムを稼働できる見通しだ。コンピューティング能力が高まり、豊富なデータにアクセスできるようになるだけでなく、カスタマーサービスも向上し、より多くの情報をより迅速かつ効率的に提供できるようになる。社外に対しては、ビジネスパートナーとのシステムのAPI連携や、顧客に対するEコマースソリューションの拡充を進めていく」
― 港湾混雑でスケジュール遅延が発生している。バースウインドーを確保するために自社ターミナルを確保する動きが相次いでいるが、ONEのターミナル戦略は。
「主要なゲートウェーでは十分な貨物処理能力を確保する必要がある。既にシンガポール港やロサンゼルス港、ジャカルタ港、ロッテルダム港などでターミナルを所有しており、ターミナル投資は徐々に増やしていく。100%の所有権取得や長期的な資本参加、長期の運営契約の締結など、さまざまな選択肢があり、最適な手法を選択していく。一方で全てのターミナルを自社保有することは不可能だ。サードパーティのターミナルとも長期的な関係を構築し、バースウインドーの確保を進めていく」
― 人材戦略も持続可能な成長に向けて重要となる。今後の方針は。
「持続可能な成長に向けて、人材は重要な要素だ。過去を振り返ると、邦船3社がコンテナ船事業を展開していた時代は、上級管理職は日本人で、地域・現地のスタッフは外国人であるケースが多かった。しかし、コンテナ船業界は過去8年間で大きく変化した。よりダイナミックで国際的になり、より専門性が問われるようになった。こうした中で、法務や広報、ターミナル、オペレーション、マーケティングなどさまざまな部門で、専門性を持つプロフェッショナルの採用に力を入れている。国際的な人材プールを拡大し、育成・強化と定着を目指していく」
「優秀な人材を惹きつけても、会社で成長する機会を与えていかなければ定着しない。ONEで長期的なキャリアを形成したいと思えるような、本当に働きがいのある職場環境を作ることが重要だ。コロナ禍が収束したことで、多くの社員に短期も含めて海外勤務を検討するよう促している。特にシンガポールには、優秀で才能豊かな人材が多く存在する。彼らにもっと多くの経験を積んでほしいと考えている。社内人材の育成に力を入れつつ、専門的なスキルを持ち、社内だけでは育成できない人材や能力を持つ人材の採用を継続していく」
(聞き手:中村晃輔、インタビューは2025年11月17日に実施)