2022年9月20日無料公開記事ONEから見た未来

《連載》ONEから見た未来①
コロナ禍の国際物流、いかに支え続けたか

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 パンデミックを通じ、コンテナ船事業が社会で果たす役割の大きさが改めて鮮明になった。日々の生活や医療、生産活動。どれもコンテナ船輸送の存在なしには成り立たない。ただこの間、未曽有の好業績に注目が集まる一方で、サプライチェーン維持のためにコンテナ船社がどれだけ力を尽くしてきたかは、あまり知られてこなかった。この連載では、コロナ禍におけるオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)の舞台裏を取り上げる。日本に起源を持ちながら、コンテナ船という完全グローバル競争に挑むONEがコロナ禍にどう対応し、そして何を目指そうとしているのか、その実態に迫る。

■リーマン・ショックの教訓

 コロナ禍初期の2020年、中国発輸出需要の急減という最初の危機を乗り越えたコンテナ船業界が次に直面したのは、過去に類を見ない規模の世界的なコンテナ不足だった。
 まず米国で、次いで欧州で急激に消費需要が急増し、アジアからの輸出需要が一気に膨れ上がったが、肝心のコンテナがアジアで手に入らない。多くの船社は、コロナ禍初期に輸送需要の急減に直面した際、予想される損失を少しでも減らすべく、多くのリースコンテナを急きょオフハイヤーするという選択を取った。当時、まだまだ業績安定化の見通しも不確かだったコンテナ船業界にとっては無理からぬ判断とも言える。ただ結果として大量のコンテナがアジアに戻されぬまま、世界各地で滞留することとなり、その後アジアでコンテナ需要が急増したことで、一気に世界的なコンテナ不足として顕在化することとなった。
 しかし、ONEはこれとは全く異なるアプローチを取った。「コンテナのオフハイヤーは一切しなかった。反対に私たちがやろうとしたのは、とにかくできる限りの空コンテナをアジア側にため込むことだった。」ONEのシンガポール本社で、コンテナフロー管理を担うGCFM(Global Container Flow Management) の責任者、マギー(Maggie Zhan)は当時をこう振り返る。頭のなかにあったのは、リーマン・ショックの教訓だ。当時、金融危機の影響で米国の消費は大きく冷え込み、コロナの時と同様、アジアからの輸送需要は急減した。しかしその後、政府の需要喚起政策によって消費需要は急速に回復。このため、北米トレード限定の話ではあったが、急激な需給ひっ迫がコンテナ不足を引き起こしたというケースが過去にあった。
 「今回も必ず、同じことが起きる。」
 そう予測したマギーらは、各地域や他部署と連携して、実際に輸送需要が回復し始めるはるか前から、できる限り多くのコンテナをアジア側へ戻す作業に着手した。当時、コンテナ輸送需要は極度に冷え込んでおり、必要な追加船腹は用船マーケットから安価に調達できる。通常のサービスに投入する本船に加え、これらの追加調達した船腹をコンテナ回送のための専用船(スイーパーと呼ばれる)として次々に北米や欧州に送り込み、アジアへのコンテナ回送を進めていった。

■コンテナ供給で常に優位に

 アジアへ大量の空コンテナを回送するとなると、新たに必要となるのが空コンテナ置き場所だ。実際に需要が回復してくるまでは、中国はもちろんアジア各地でコンテナをストックしておく必要がある。このためONEでは、各地の拠点と連携し、アジアのなかで利用可能なコンテナデポを片っ端から確保。「詳しい数字は覚えていないけれど、日本を含めてアジア全体で数百カ所は利用したのではないかと思う」。しかし、それでも場所が足りない。そこで出てきたのが、コンテナ船をそのまま空コン置き場として利用するというアイディア。実際にこのアイディアは実行に移され、計10隻のコンテナ船が、空コンテナを積んだまま“洋上空コンデポ”として海上で待機していた時期もあったという。大胆な取り組みではあるが、しかし一か八かの賭けでもない。コンテナをアジア側で大量にストックするにはコストがかかるが、コストがかかるという点では契約途中でオフハイヤーするのも同じ。事前にさまざまなシナリオを用意し、さらに実際に需要動向に応じて計画を細かく修正しながら、来るべき需要回復期に備えた。
 数カ月後。実際にまず北米向けで、その後次いで欧州向けで輸送需要が急激に回復してきたことで、ONEの狙いはずばり的中。完全とはいかないにせよ、顧客への安定的なコンテナ供給という点において、ONEは業界内でも常に比較優位の立ち位置を確保することができた。
 さらに、新造コンテナの調達でも先手を打った。まだ新造コンテナの価格が上昇し始める前の20年後半に、10万本の新造コンテナ調達を決定。実際の投入は21年 春以降に入ってからだが、この10万本のコンテナ新規投入は、コロナ禍の混乱が本格化するなかで重要な役割を果たすことになる。
 当時、世界各地でコンテナ不足が同時多発的に起きるなか、どの船社もコンテナ供給で多大な苦労を強いられることとなった。米国ではコンテナ不足が政治問題化し、「コンテナ船社は米国の輸出貨物を積もうとせず、実入りのいいアジアにばかりコンテナを持っていこうとしている」と批判が出たことは記憶に新しい。ただONEに関する限り、コロナ禍を通じ、米国発貨物に対してコンテナ供給を断らざるを得なくなるような状況は、ほとんど生じなかった。「一体どうやってコンテナを回しているのか?」とコンテナリース会社から聞かれたこともあるという。初期段階で素早くコンテナ確保に動いたこと、そして組織・地域間で徹底したマイクロマネジメントが、コンテナ供給の最大化に大きな役割を果たした。
 SYM(Strategic Yield Management)の道田は、「10万本の投資額は決して小さい額ではないが、これを決めたスピードは統合前には考えられないような早さだったと思う。大筋で考え方に間違いがなければそのままゴーサインが出る。この10万本があったおかげで、各地のセールスは本当に助けられた」と振り返る。

■「今は危機」地域超え支え合い

 ただ、いかに初期対応で成功したとは言え、長引く混乱のなかでONEも徐々に、コンテナの安定供給で苦労することとなる。中国はもちろんのこと、タイ、ベトナム、インドネシア、日本とどの国でもコンテナが足りず、一方で各地にコンテナを供給するコンテナ船の運航体制は、コロナの影響で大きく乱れていた。マギーと同じGCFM に属する松岡は、「日々変わる状況に対処するため、常にコミュニケーションとマイクロマネジメントを意識して取り組んだ」と強調する。
 コロナ禍初期の20年4月には、既にONE社内でタスクフォースが発足。当時はまだ急減した需要への対応と、アジア側への回送体制の整備が主なテーマだったが、GCSに加えて船隊の運行管理を担うGVO(Global Vessel Operations)やFM(Fleet Management)などから担当者が出席。当初は週ごとに情報交換を行い、それぞれの立場で何ができるかを話し合っていたが、その後サプライチェーンの混乱が本格化するなかで、部署を超えた連携と調整を行う密度は加速的に濃さを増していった。各国の規制、本船の運航状況、スケジュールが文字通り日替わりで変わっていくため、新たな変化に対応するにはとにかく連携と情報共有を繰り返すしかない。「船員のなかで陽性者が見つかれば、目的地を急きょ変更しなければならないが、そうなると寄港するはずだった地域への空コンテナの供給予定も一気に変わる。また、その国の輸出を守るため政府が直接コンテナの動かし方に介入してくるケース、予想外の欠便などさまざまな事態な頻繁に起きるため、どう代替プランを用意するか、その手配をどのようにして行うのか、日々調整を繰り返した。」(松岡)
 連携は本社内の組織だけでなく、地域間にもおよんだ。コンテナ不足が最も深刻だった時期、アジア各国のコンテナ在庫は1週間分もあるかないか、という危機的な状況に陥っていた。どの国もより多くのコンテナを求めているが、どうやってもそれら全てを満たすだけの数はない。少しでも余裕があれば、他の国へ回送してもらう。営業を通じて顧客にコンテナタイプの変更を打診する。それでもどうにもならなければ、話をマーケティングのラインに戻して、その国のブッキング受付に制限をかけるほかはない。「無理なお願いもたくさんあったが、今は危機なのだと誰もが良く分かっていた。難しい状況ながらも、みな協力してくれた」とマギーは話す。
 現在、コンテナ不足問題は沈静化しているが、新たな課題もまた浮上している。これまではコスト度外視で、とにかくいかにアジアにコンテナを持ってくるかが重要だったが、現在は市況が軟化しつつある一方、オペレーションに係わるあらゆる分野でコスト増に直面している。サプライチェーンの緊張が続くなか、効率的なコンテナ回送は引き続き必須だが、一方でコスト削減にも目を配らなければならない。「これまでとは違うアプローチが再び必要になるはず。新たな変化の可能性に備えなければ」(マギー)。GCFM の新たな挑戦がもう始まっている。(この連載は小堺祐樹が担当します)

Maggie Zhan:General Manager

道田賢一:Senior Vice President

松岡秀健:Deputy General Manager

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