2022年5月25日無料公開記事内航NEXT

国内最大級の内航コンテナ船“のがみ”就航
井本商運、先進技術搭載して戦略港湾に貢献

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 井本商運(神戸市、井本隆之社長)の内航コンテナ船“のがみ”が4月21日、旭洋造船(下関市、越智勝彦社長)で引き渡され就航した。国内最大級となる670TEU型で、シリーズ3隻目となる。同船はデザインや先端技術の搭載で燃費性能を向上させたことも特長。船室も増やして船員訓練にも活用する目的も持っている。京浜/阪神/北九州航路に投入され、国際コンテナ戦略港湾政策で集貨の役割を果たして貢献していくことが期待されている。

 

■省エネ効果高める技術


 “のがみ”は、旭洋造船が開発した球状船首ブリッジを採用したことが外観の特長だ。丸みを帯びた独特のフォルムで、風圧抵抗を少なくする効果がある。井本商運は670TEU型シリーズの第1船として“なとり”(2015年)で同デザインを初採用し、シップ・オブ・ザ・イヤー2015小型貨物船部門賞(主催:日本船舶海洋工学会)を受賞した。第2船“ながら”(18年)でも用いた。今回の第3船でも球状船首ブリッジを採用したが、さらに波の抵抗を少なくする垂直バウを組み合わせることで省エネ効果を高めた。
 ファンネルの形状にもこだわった。流線形とすることで風圧抵抗を低下。特に、斜め前からの風に対しては、煙突に揚力が作用して効果が向上するという。船首部とファンネルの形状で、船全体で風圧抵抗の低減化を図った。
 同船の省エネ効果を高めているのは、船体デザインだけでない。推進部も特長的だ。舵(ラダー)は、特殊な形状の2枚舵をプロペラの両側に配置するゲートラダーを採用した。ゲートラダーは、翼形状を舵板に利用することで大きな推進力を発揮することができ、プロペラ後方に障害物がないので振動や騒音も低減させている。ゲートラダーは、400TEU型コンテナ船“しげのぶ”(17年)で初採用し、すでに効果は立証済みで、今回2隻目となった。なお、国内海運業界でも通算4隻目だ。
 内航フィーダーで貨物を輸送する井本商運は、国際コンテナ戦略港湾政策の中、港での荷役のため離着岸回数が多くなる。離着岸時に、ゲートラダーによる横移動と、船首と船尾のスラスターを組み合わせることで操船性と安全性を高め、船長の負担軽減を図っている。
 

流線形のファンネル

プロペラの左右に装備されたゲートラダー

■フル電子制御の主機関を搭載


 主機関は、内航船ではまだ多く見られない電子制御機関を搭載した。“なとり”では従来の機械式、“ながら”はセミ電子制御。“のがみ”はフル電子制御とした。フル電子制御とすることで、燃料消費量は前2隻よりも抑えることができ、燃費性能は14%の省エネ化を実現した。連続最低出力も前2隻は40%だが、20%とすることが可能だ。港での離着岸が多いため、最低出力を低くすることができるのは大きなメリットだ。
 航海システム関係にも先端技術を取り入れている。航海支援システム「eE-NaviPlan」は、予想される気象・海象状況の情報をもとに、航海で要求される到着時間、燃料削減目標を実現するためのエンジン回転数などの最適航海計画を提供する。船舶支援システム「MaSSA-One」は、主機、補機などの運転状態を船上でシステム統合管理。トラブル発生時、船上で適切でよりスピーディーに復旧対応でき、同様のデータを陸上でも監視・分析し、機器のトラブルを未然に防止する。これにより船員の管理業務を軽減する狙いがある。ブリッジにはGM(復原力)表示付きデジタル傾斜計を設置し、リアルタイムでGMを確認している。

フル電子制御を採用した主機関

ブリッジ

 これら省エネ設備の組み合わせで、“ながら”と比べて大幅なエネルギー削減効果が期待され、国土交通省と経済産業省が連携して行う「内航船の革新的運航効率化実証事業」にも認定されている。
 このほか荷役支援として、外航船と同等のローディングシステム(積付計算システム)を搭載。船体の復原性や、冷凍コンテナや危険物などのコンテナの積載状態、ラッシングの要否を確認できるようにした。船陸間のデータ通信により、本船業務の軽減やターミナル作業、オペレーション業務の簡素化、最適化を目指している。冷凍コンテナ積載個数は120本(艙内36本、甲板上84本)と、前2隻よりさらに増やした。危険物コンテナも積載可能だ。
 

■船員教育にも活用


 “のがみ”の船内は、通常の内航船と異なって船室が多いのも特長だ。定員は11人だが、さらに10人分の部屋が用意されている。これは新卒採用や若年船員の教育の場として、乗船できるようにしたためだ。井本商運は昨年、若手船員を教育することを目的に神戸海洋技術株式会社を設立。社内に操船シミュレータを設置して、船員の育成に力を入れている。そうした実際の内航船での働きを見るために、船員室を増やした。船員室には、シャワー、トイレを完備。女性船員のため専用区画を設けた。
 また、大型モニター付き実習室も備えた。全室にLANを配線。Wi-Fi環境を整備し、船内各所でインターネット接続ができるようにした。

女性専用の乗組員室。イスとソファーの色が、男性用とは異っている

モニターも備えた実習室

■フィーダーやモーダルシフトなど期待


 井本商運の大型コンテナ船は川の名前に由来する。第1船“なとり”、第2船“ながら”、第3船が“のがみ”で、な行で始まるためNシリーズとなっている。江戸時代の北前船が港に寄港すると、川から運ばれてきた荷物を積んで出港するようすが、現代のフィーダー輸送に重なるため、川の名前が付けられている。“のがみ”は社内公募で選ばれた。利根川、木曽川、筑後川の支流に野上川があることが理由だ。
 船体は、省エネ効果を発揮して燃費効率を高め、船内は住環境の快適性を向上させた。国際コンテナ戦略港湾政策でフィーダー輸送に取り組み、トラックドライバー不足も背景としたモーダルシフト需要にも応えることなど活躍が期待される。
(写真提供=井本商運、旭洋造船)

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