4月から5月にかけて国内で、海運会社がかかわる洋上風力発電分野の人材訓練施設が相次いで完成や稼働に至った。1つが、日本郵船が日本海洋事業と共同で運営する秋田県男鹿市の「風と海の学校 あきた」。もう1つが、商船三井と同社が出資する北拓が運営する福岡県北九州市の施設になる。これらは洋上風力発電が先行する地域にあり、国内で新たに立ち上がる洋上風力発電産業の人材づくりに貢献するものになる。
全国に訓練施設
司会 5月は邦船社が関与する洋上風力人材の養成施設の式典ニュースが目立った。この話題から振り返ろう。
— 日本郵船/日本海洋事業の秋田の施設と、商船三井/北拓の北九州の施設で、それぞれ開所式、竣工式が行われた。私たちは10年以上前から国内の洋上風力産業の立ち上がりを今か今かと報道してきているけれど、秋田や北海道で洋上風力発電が実際に稼働したり、今回のように人材養成施設が各所に立ち上がったりするのを見ると、いよいよ本格的に新産業が日本に誕生することを実感するよ。
— いわずもがなだが、新産業を立ち上げ、それを長期的に運営していくために欠かせないのが「人材」だ。洋上風力発電の分野で現場を担う人材として代表的なのが、洋上風車を数十年間という長期にわたって安定的に稼働させるために不可欠なメンテナンスを担う人材。また、そのメンテナンス人材を海に立つ風車に送り届けるCTV(クルー・トランスファー・ベッセル)をはじめとする各種作業船の乗組員の養成・確保も欠かせない。それらの人材を養成するため、今回の2つの施設のほかにも全国にトレーニング施設が立ち上がってきている。
— 東北や関東、九州など全国で10カ所近く計画され、一部は稼働を始めている。資源エネルギー庁もこれらの人材育成を後押ししていて、実際に日本郵船/日本海洋事業、商船三井/北拓の施設も助成を受けている。
提供するのは訓練プラスα
司会 今回の2つの施設はそれぞれ特徴的なようだな。
— 日本郵船らの「風と海の学校 あきた」の大きな特徴といえば、やはり地元の高校の中に施設があるということかな。学校にある水深の深いプールをはじめ既存の設備を有効活用しつつ、最新鋭の操船シミュレーターを新たに導入するなど設備を整えた。操船シミュレーターが置かれた部屋は廊下側を大きくガラス張りにして、廊下を歩く生徒や先生の目に触れる機会を意識的に増やした。プロの訓練を身近に日常的に見せることで、洋上風力や海事産業を目指す若い人たちが増えることも期待されている。
— 北拓の施設は何といっても、巨大なトランジションピース(TP)を設置していることが目を引くよ。TPは洋上風車の基礎と風車タワーの接続部分に当たるもので、国内で初めてTPを設置した訓練施設になる。施設の大きさは高さが約23m、直径は6~7mで、8MW(メガワット)級の風車を想定している。
— 訓練の内容もそれぞれ特徴がある。日本郵船らの施設は、国際風力機関(GWO)が定めた作業員向け基本安全訓練や、STCW条約に基づく船員向け基本安全訓練、操船シミュレーターによるCTVなどの操船訓練を提供する。協力企業の東北電力リニューアブルエナジー・サービスが秋田市内で提供する風車作業員向けの保守作業訓練とも連携するというよ。
— 北拓はGWOの訓練施設を福島に置いていて、今回の北九州の施設はより実践的な訓練を提供していく。北拓が1999年に風力発電メンテナンス事業を開始して以来、陸上風車保守を中心に培ってきたノウハウと、洋上風力発電事業で先行する欧州の事例を参考にして組み立てたメンテナンストレーニングを提供していくことになる。
司会 養成人数もかなり多い。
— 日本郵船らの施設では、4月から訓練が始まっていて、これまでに県内外の受講者は数十人に上る。将来は年間1000人程度の訓練修了生の輩出を目指している。北拓の施設では、10年間で1500人を同設備で訓練する計画だ。
— 両施設とも自社の洋上風力関連事業に従事する人材の養成にとどまらないということも特徴に挙げられるだろうね。外部の人材に対しても訓練を提供することで、国内の洋上風力発電の発展に貢献していくことになる。
— 加えて言うと、地方創生に貢献する取り組みにもなる。洋上風力発電はもともと全国各地の風況のよい海上が舞台になるから、地元に人材や関連産業の集積が欠かせない。さらに、訓練施設を1つの起点として人の流れが生まれることは、地域活性化の一助になりそうだ。
(海運、つづく)