2024年5月8日無料公開記事洋上風力発電

記者座談会/海運この1ケ月<中>
商船三井、モジュール船新造整備
洋上風力部材輸送強化、JFEエンジと契約

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商船三井は4月15日、モジュール船(フラットデッキ型特殊重量物運搬船)を中国の泰州三福重工集団に発注し、同船を対象にグループの商船三井ドライバルクがJFEエンジニアリングと洋上風力発電所基礎部材の内航輸送契約を締結したと発表した。新造船は2026年春に竣工後、4月に操業を開始したJFEエンジニアリングの岡山県笠岡市のモノパイル製造拠点などから国内の洋上風力発電建設地への海上輸送に従事。商船三井ドライバルクの管理の下でグループの商船三井内航が運航する予定。
 

モジュール船新造、数年かけ準備


司会 商船三井がモジュール船の新造発注とJFEエンジニアリングとの洋上風車基礎部材の輸送契約締結を発表した。モジュール船はあまり聞きなれない船種だが、洋上風力発電向け部材輸送も含めて今回のニュースについて話そう。

— まずモジュール船について説明すると、フラットで広い甲板が特徴の特殊な重量物船で、港湾クレーンや建設重機械、油田プラットフォーム、プラントモジュールなどの超大型貨物の海上輸送に使われている。クレーンで吊れない超巨大貨物を、船尾・船側方向から多軸台車などを用いて直接積み込むことができる。邦船社が運航するモジュール船としては、日本郵船グループのNYKバルク・プロジェクトの“Yamatai”と“Yamato”がある。けっして新しい船種ではないが、モノパイル、タワー、ブレード、ナセル、浮体基礎といった洋上風力発電所の部材輸送にも適していることから、近年改めて注目されている。

— 商船三井とグループの商船三井ドライバルクは、洋上風力発電向けの部材輸送を手掛けるために、数年前からモジュール船の新造整備を検討していた。知ってのとおり、商船三井グループでは新規事業の開拓を再生可能エネルギー分野を中心に推進し、特に洋上風力発電関連の事業に力を入れている。洋上風力発電のバリューチェーンに対して、建設前の立地環境調査、建設部材海上輸送、設備設置、運用・保守などの幅広いサービスを提供する戦略だ。このうち部材海上輸送について、日本の洋上風力発電の進展とともに国内での輸送需要拡大が見込まれることから、今回日本籍モジュール船の新造整備を決めた。商船三井によると、内航モジュール船の洋上風力発電基礎部材輸送は日本初になる。

新造モジュール船のイメージ図

— 商船三井の一般不定期船、チップ船部門と商船三井近海が統合して2021年4月に発足した商船三井ドライバルクは、22年に「プロジェクト貨物部」を設置し、さらに日本・アジアで拡大する陸上・洋上風力発電所向けの部材輸送を強化するために同部内に「風力プロジェクトチーム」を置いた。同チームは特殊なモジュール船に関する知見とノウハウを得るために、22年4月から3700重量トン型モジュール船“New Dragon”を用船して運航を開始した。“New Dragon”は23年に中国から北海道向けの陸上風力発電用ブレードとタワー、韓国から台湾向けの洋上風力発電部材を輸送した。同船では、中国から日本の造船所向けのLNG燃料船の燃料タンクなど、風力発電関連以外の貨物の輸送も積極的に行っている。これには、風力発電の建設がない冬場の閑散期も稼働率を落とさないために、さまざまな産業でモジュール船の認知度を高めるというねらいがある。

— 商船三井が今回発注したモジュール船の仕様について説明すると、1万3000重量トンで、全長約150m、全幅約30m、計画喫水5.2m。一般貨物と同様に洋上風力発電部材の内航輸送もカボタージュ規制の対象になるため、日本籍船とする。洋上風力発電の本場の欧州市場で主流の船型をベースに設計し、バージと比較して高い耐候性能を有することに加え、ダイナミックポジショニングシステム(DPS=自動船位保持装置)を搭載し、貨物を風車建設サイトのSEP船へも直渡しも可能という。また、貨物積載部に突起の無い全面フラットな甲板「フラッシュデッキ」を採用。さらにバッテリーを搭載した電気推進システムも備える。

— 商船三井ドライバルクは“New Dragon”の運航でモジュール船のノウハウを蓄積して新造船に生かすが、新造船就航後も“New Dragon”の運航を続ける考え。今後国産の洋上風力発電基礎構造物の内航輸送が増えてきた場合、洋上風力拠点港からの輸送などに“New Dragon”のような小回りが利く船も必要になると見ているためだ。将来的に3000〜5000重量トン・1万3000重量トン・3万重量トンといった形でさまざまな船型のモジュール船と取り揃えて多様な輸送ニーズに応えていく戦略を描いている。

— 商船三井ドライバルクはパナマックスからハンディサイズまでの中小型バルカー、チップ船と1万3000〜1万7500重量トン型のツインデッカーまでの幅広い船型を運航していることを強みとしているが、そこにモジュール船というメニューが加わることになる。

 

1航海でモノパイル3本程度輸送


司会 商船三井ドライバルクは新造モジュール船を対象にJFEエンジニアリングと洋上風力発電基礎構造物の内航輸送契約を締結したが、この契約に至った経緯と契約の具体的な内容を説明してくれ。

— JFEエンジニアリングは国内初のモノパイル製造拠点として、岡山県笠岡市のJFEスチール西日本製鉄所福山地区内に「笠岡モノパイル製作所」を建設し、今年4月1日に稼働を開始した。同社は長年の大型鋼構造物製造で培ってきた加工・溶接技術をベースとして、欧州で数多くのモノパイル製造実績がある最新鋭設備を導入した。JFEスチールから供給される大単重厚板を活用するとともに、同社と共同開発した高能率・高品質で世界最先端の溶接技術を融合。世界最新鋭の工場で製造する世界最高水準のモノパイルを安定供給することで、 急拡大する日本の洋上風力発電事業発展に大きく貢献していくとしている。

JFEエンジニアリング笠岡モノパイル製作所

— モノパイルは、洋上風力発電の支柱と風車を海中で支える巨大な基礎構造物だ。JFEエンジニアリングは、モノパイルと風車の接続部であるトランジションピースも津製作所で製造する。笠岡製作所では最大で直径12m程度、長さ約100m、重量約2500トン/基の製造が可能で、年間生産能力は10万トン程度(モノパイル/トランジションピース約50セット)になるという。

— そのように巨大なモノパイルを生産拠点から洋上風力発電所の建設予定地まで安全に輸送しなければならない。JFEエンジニアリングは商船三井の新造モジュール船の採用を決めた理由を「さまざまな輸送方法を検討した結果、この方法が最適と判断した」と説明している。モノパイル/トランジションピースを国内洋上風力発電所建設予定地へ必要本数を適時に供給するためには、輸送スピードと厳しい海象条件への適応力が求められる。JFEエンジニアリングはそれらの条件を満足する商船三井の新造モジュール船を専有活用することで、国産モノパイル/トランジションピースを効率的に目的地に輸送できるとしている。同社はモジュール船1航海でモノパイル3本程度を輸送する計画だ。

モジュール船によるモノパイル輸送のイメージ

— JFEエンジニアリングが製造するモノパイル/トランジションピースの納入先はまだ決まっていないが、仮に国内洋上風力発電のいわゆる「ラウンド1」の事業で採用された場合は、輸送先は秋田県沖、千葉県沖になる。日本国内の洋上風力発電の進展に引き続き注視しつつ、これに伴う部材輸送の動向と邦船社の取り組みにも注目してきたい。
(海運、つづく)