2025年11月25日無料公開記事

中計概ね達成へ、ガス船で成果
飯野海運・大谷祐介社長に聞く

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中計最終年度の舵取りは

 飯野海運の大谷祐介社長は本紙インタビューで、今年度が最終年度となる3カ年の中期経営計画の進捗について、概ね達成できる見通しを示した。外航のガス船事業の強化、欧州顧客との契約獲得をはじめグローバル展開などが進展。財務数値目標については「2023・24年度は計画を超過し、最終年度の25年度は利益計画を下回る見通しだが、残り半年で改善に力を注ぎたい」と述べた。

■上期はケミカル船の減益響く

 ― 25年度上期(4~9月期)業績は前年同期比で減収減益だった。評価を伺いたい。
 「不動産業以外の事業が前年同期と比べて減益だった。4月初めに米中問題が表面化し、ケミカル船、ドライバルク船、ガス船などのマーケットは悪い方向に反応した。ただその後、大型LPG船は米中問題の影響が結果的に好転要因になった。米国から中国への荷動きが滞る一方、中国は中東から輸入し、米国はインドなど他地域へ輸出したことで、全体として輸送距離が伸びて需給が引き締まり、市況が改善した。ドライバルク船も同様に、南米発の荷動きが例年より長引き市況が良化した。夏場の猛暑で発電用石炭輸送も増えた。季節需要と米中要因が合わさって底堅さが見られた」
 「一方、上期業績を下押しした最大の原因はケミカル船だった。もともと米中間の荷動きはそれほど多くなく、関税の影響は限定的だったが、想定以上に中国向けの荷動きが弱かった。中国景気の低迷に加え、ケミカル製品の内製化で在庫が積み上がった結果、輸入が一段と減った。同国内のケミカル製品が余剰となり、輸出に回そうという動きすらある」
 「また、為替が前年同期比でやや円高だったことも、業績にとってマイナスに作用した」
 ― 内航・近海海運業が営業赤字だった要因は。
 「内航船の入渠が集中したためだ。外航船は入渠費用の引当て処理で損益への影響を平準化しているが、内航船はそうではなく、入渠が重なると費用計上が大きい」
 ― 通期業績予想を上方修正した背景は。
 「大型LPG船とドライバルク船で損益改善を見込んでおり、下期の為替の見通しも引き上げたためだ。大型LPG船は、米中の入港料措置が1年延期された一方、関税の動向は注意が必要だが、市況は好調に推移している。今年の新造船の竣工量はもともとそれほど多くなく、今年は入渠隻数も多いため、新造船の竣工圧力は限定的で、良好な市況が継続する前提を置いた。ドライバルク船も冬場に向けて石炭の荷動き増加等を加味した。為替の前提を円安方向に見直したことも、通期予想の上振れ要因だ」

■ガス船事業、多面的に

 ― 下期の事業別の見通し、取り組みのポイントを伺いたい。まず、ケミカル船はどうか。
 「市況は横ばいを想定している。前年と比べると中国要因で落ち込んでいるが、コスト割れはしておらず、コロナ禍前と比べると高い水準にある。今のところ、ケミカル船市場へのプロダクト船の流入も進んでいない。米国によるロシア制裁強化で、インドや中国がダークフリートから通常の船へと切り替えれば、正常なトレードの船腹需給がタイトになり、結果としてケミカル船市場を崩すようなプロダクト船の流入は起きないと考えられる」
 「船隊整備については、本来はケミカル船を中心に船隊を増やしたいのだが、船価高に加え、燃料の最適解も見極めが難しい。とはいえ、船台が埋まっていくので、採択が延期された国際海事機関(IMO)の温室効果ガス(GHG)削減への中期対策の決着を待っているわけにもいかず、船隊更新を進め、資産効率を高めていく必要がある。また、われわれはマーケット自体を変えることはできないので、費用抑制と効率運航を徹底することに尽きる。これはケミカル船に限ったことではない」
 ― 中国向けの荷動き低迷は、ケミカルの内製化という構造的な問題にも起因する。対応策は。
 「当社が強みを持つ中東貨物の大半が中国向けだったので、中国の輸入減の影響を受けやすかった。中東一本足から脱却するべく営業活動を強化し、南米向けの硫酸をはじめ新しい航路の需要を掴むことで対応している。また、中国は公表されているGDP以上に実体経済が悪いとも言われ、国内で生産されるケミカル製品の供給過剰を抑える方向に行く可能性がある。一方で、今後中国が輸出国に転じることも考えられるので、その場合の向け地やロットに注目している。中国の輸出貨物も取り込むことで配船効率を高められるかを考えていきたいし、期待もしている」
 ― ガス船事業の運営方針は。
 「ガス船は何でも取り組む、という姿勢だ。LNG船は昨年度末に管理船がなくなったが、機会があれば再開したい。新規事業のエタン船も拡張したい。アンモニアや液化二酸化炭素(CO2)の輸送にも関心がある。ガス船は基本的に長期契約を軸とした安定収益源として位置づけている。LPG船の一部には市況に連動する契約もあるが、そちらに過度に寄せると市況が低迷した時の影響が大きいので、ガス船事業のポートフォリオを意識していく」
 ― VLCC事業も安定収益事業となる。
 「原油や石炭のようにCO2を多く排出する貨物の輸送事業は、顧客と連携した燃料転換や低炭素の取り組みを志向しており、27年竣工予定のメタノール二元燃料VLCCはそれが成就した一例だ。同様のモデルを他にも展開できれば船隊増強も視野に入ってくる。重油焚きの既存船も一定の需要があるので、顧客の要望に沿って船を持ち続けたい」
 「ドライバルク船も、環境性能の高い船に顧客とともに取り組みたい。また、ドライバルク船は市況変動が大きいので、自社船だけで賄うのではなく、新鋭船の用船も進めている。短期の用船で市況変動をしのいでいく。また、従来の重油専焼船であっても、新鋭船に代替するだけでも燃費は大きく改善する」

■投資計画は9割進捗

 ― 中計の最終年度だが、進捗をどう評価するか。
 「非財務数値目標は達成できる見込み。GHG削減率も2030年の目標に向かって着実に進捗している。財務数値目標も、今年度は目標をやや下回る見込みも、3年間を振り返ると現時点で総じて計画を上回っていると評価している」
 「投資計画は3年間で1000億円を掲げ、現時点で9割に相当する900億円まで進捗した。環境対応のケミカル船への投資は不十分だった一方、ガス船は想定以上に進んだ。特に欧州の顧客の環境志向に合致し、長期契約を前提とした投資を進められた。また、不動産業は新船稼働までの間の安定収益としても機能するように投資を進めた。狙ったことは実行できたと思っている。残る半年は、将来のために必要な投資を進めたい」
 「当社には海運業と不動産業という長年培った事業ポートフォリオがある。第3の柱を模索したこともあるし、スタートアップへの投資など新たな取り組みも進めているが、現時点では本業で強みを伸ばすのが現実的だと考えており、中計に沿って既存事業をどう上積みするかに帰着する」
 ― 26年度から開始となる次期中計の方向性は。
 「事業環境は変化しているが、会社としてやるべきことの本質は大きく変わらない。将来世代の社員にも当社のありたき姿を考えてもらい、新中計に反映する取り組みを始めている。若手社員の動機付けにもなると思う。目から鱗の提案が出てくることも期待している」
 「3つのポイントで検討を進めている。1つは普遍的な課題だが、企業としていかに稼ぐか。収益最大化とコスト最小化が必要であり、事業戦略、人材戦略に直結する。2つ目は上場企業としての資本政策・株主対応。投資、回収、再投資・配当の循環を設計していく。3つ目が環境対応。2050年ネットゼロエミッション目標は不変で、やれることから着実に進める」

■足並みそろえた環境規制を

 ― ネットゼロに向けた今後の取り組みは。
 「収益拡大を目指して船隊規模を増やすと、CO2の総排出量は増え、環境に関する評価が悪化するという矛盾が起き得る。環境対応と収益の両立は難題で、投資家とも率直に議論している」
 「特に欧州企業とビジネスをしていくためには環境への取り組みは必須。その意味でもGHG削減で早期に世界単一の物差しができることを期待していた。IMOの規制採択が遅れたことで、国・地域ごとの環境規制が乱立すると、独自規制を導入している国・地域に配船するごとにそれぞれの環境規制対応への負担が増える可能性がある。また、IMO規制の採択延期で、例えばアンモニアプロジェクトへの投資判断が先送りになると、投機発注されたアンモニア船がLPG船マーケットを崩す可能性もある。環境規制は世界で足並みをそろえないと、さまざまなところで大きな影響が生じ得る。船、燃料の供給側、荷主はチェーンでつながっているが、どこが先行して取り組むか見合っている状況。それを解決するのが世界単一の規制であり、それがなければ各主体の取り組みにタイムラグが生じ、さまざまなところで影響が出かねないと危惧している」
(聞き手:中村直樹、日下部佳子)
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