2025年10月14日無料公開記事船舶用船料先物取引(FFA)を知る使う
《連載》船舶用船料先物取引(FFA)を知る・使う③
ヘッジの概念を正しく理解
エクセノヤマミズ 大本博司 氏
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ここからは、実際にFFA取引を行う際の基本についてお話したい。
まず前提として、ヘッジの概念を正しく理解しておくことが非常に重要である。
新聞などで「海外の船社がFFA取引で大きなヘッジ損を出した」とか、「ある企業が先物取引でヘッジ損を出した」といった記事を目にすることがある。しかし、ヘッジで損失が出るということは、その裏側にある現物ポジションでは利益が発生しているはずであり、「ヘッジ部分だけ損失が出た」と報じられるのは本来おかしな話だ。にもかかわらず、「ヘッジ損」という言葉が独り歩きし、先物取引は危険だ、相場を張っているのと同じだ、という誤解を生むことがある。
したがって、FFAを始める前に「ヘッジとは何か」を正しく理解する必要がある。
一般的な定義では、ヘッジとは投資対象の価格変動リスクを回避・軽減することを指す。しかし、この説明だけでは「ヘッジは魔法の杖」であるかのような誤解を与えかねない。そもそも投資とは、価格変動によって利益を得ようとする行為であり、リスクだけを切り離して利益だけを享受することはできない。
典型的な事例を挙げよう。ある船社が「用船料は上昇する」と予想して現物船をロング(価格上昇で利益が出るポジション)したが、反対に下落リスクが生じたため、そのリスクを回避する目的でFFAをショート(価格下落で利益が出るポジション)した。その後、実際に用船料は上昇し、現物ロングでは利益を得た一方、FFAショートでは損失が発生した。これは当然の結果であり、ヘッジとは損失を抑える代わりに利益の一部を手放す行為である。にもかかわらず、「FFAの損失だけ」が社内で問題視されるケースがよくある。背景には、「ヘッジは無償でリスクを消せる」という誤解や、「ヘッジをしなければもっと利益が出たはずだ」という後出しの発想があるのだ。
また、ヘッジの概念を理解していても、現物の利益よりもFFAの損失の方が大きかったために問題になるケースも多い。
本来、ヘッジとは自分の持つリスクを先物市場に転嫁する行為であり、その代償は「利益機会の放棄」である。したがって、利益を犠牲にしてリスクを転嫁する、というのが正しい理解だろう。
重要なのは、何のためにヘッジをするのか、ヘッジのために何を犠牲にしているのかを明確にしておくことだ。
用船料はボラティリティの高い市場であり、海運業界は昔から相場の暴騰や暴落に翻弄されてきた。長期的に船舶を保有することで、最終的には収支が均衡するという考え方も根強かったが、四半期ごとに決算を開示しなければならない上場企業にとっては、ヘッジ手段の有無が業績に大きな違いをもたらす。
FFA市場には、リスクを引き受ける相手方が存在する。その相手は海運会社や荷主などのヘッジ目的のプレイヤーだけでなく、投機筋(スペキュレーター)である場合も多い。投機筋と聞くとマイナスのイメージを持たれがちだが、彼らはリスクを積極的に引き受ける存在であり、市場に流動性を与える非常に重要なプレイヤーである。健全な先物市場には多くのリスクテイカーが不可欠なのだ。