2025年9月16日無料公開記事洋上風力発電

<洋上風力特集>
国内洋上風力、浮体式導入へ道筋
投資実現に向けた制度のあり方模索

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導入拡大には多様な洋上風力関係船舶の整備も必要となる(写真はイメージ、Adobe Stock)

国内洋上風力を巡っては、排他的経済水域(EEZ)への洋上風力導入に不可欠な法改正が実現し、浮体式洋上風力の案件形成目標の設定により、浮体式の実現に向けた道筋が見えてきた。一方で、1回目の公募(通称、第1ラウンド)で3海域を落札した三菱商事らのコンソーシアムが開発中止を発表。国土交通省と経済産業省では、事業者による洋上風力投資の完遂に必要な洋上風力制度のあり方について、慎重に議論を重ねている。また、今後の洋上風力拡大に向けては関係船舶の確保が不可欠であり、洋上風力業界全体で取り組む必要がある。


  浮体式で29年度に1GW級の案件形成


政府は「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」に基づき、一定の基準に適合した区域を促進区域に指定、同区域の洋上風力発電事業者の公募を実施しており、同法は今年6月、改正法が成立した。改正法には、EEZへの洋上風力発電設備の設置を許可する制度の創設や、環境影響評価法に基づく手続きの特例措置の創設などが含まれる。一般海域の場合、都道府県からの情報提供に基づき、洋上風力発電を導入する見込みのある区域を「準備区域」「有望な区域」「促進区域」の3段階で整理している。促進区域は公募占用指針が定まり次第、事業者を選定する公募が開始される。EEZでは、経済産業大臣が一定の基準を満たした区域について、公告縦覧や関係行政機関との協議を行い、「募集区域」として指定。事業者は事業計画案を提出し、経済産業大臣と国土交通大臣により組織された利害関係者などを構成員とする協議会での協議のうえで、許可基準に適合している場合にのみ両大臣により設置が許可される仕組みとなる。EEZは領海内に比べ水深が深くなることから、浮体式洋上風力が有望視されている。

8月に公表された洋上風力産業ビジョン(第2次)では、業界関係者がかねてより要望していた浮体式洋上風力の目標が設定された。政府は浮体式で、2040年までに15GW以上の案件を形成する。また、29年度中をめどに1GW級の浮体式洋上風力案件を形成する目標を掲げた。
浮体式では、一般海域で長崎県五島市沖で風車6基からなる浮体式洋上風力発電所の建設が進められている。また、準備区域として東京都で5区域、北海道で2区域、岩手、富山、和歌山で各1区域の計10区域が整理されている。このほか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金「洋上風力発電の低コスト化」プロジェクトで秋田県南部沖と愛知県田原市・豊橋市沖の2区域で大型風車を用いた実証を実施することが決まっている。

着床式では、8月に三菱商事らが第1ラウンドで落札した「秋田県能代市、三種町および男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖」「千葉県銚子市沖」3海域の洋上風力プロジェクトの開発中止を発表した。三菱商事らのコンソーシアムは2021年12月に事業者に選定されたが、その後、新型コロナウイルスの蔓延やウクライナ危機をきっかけに、洋上風力の事業環境は世界的に大きく変化してきた。三菱商事らは今年2月に事業性の再評価を行っていることを明らかにしていた。撤退の判断に至るまでの間、風車メーカーの変更や制度の変更、事業期間の延長などについて、経産省などと相談したうえで、さまざまな可能性を視野に入れながら事業計画を見直したものの、事業期間中の支出が収入を上回る見通しとなったと説明した。

三菱商事らの撤退を受け、経産省らは、「秋田県能代市、三種町および男鹿市沖」「秋田県由利本荘市沖」「千葉県銚子市沖」3海域における洋上風力事業を確実に実現するため、地元の理解をあらためて得たうえで、再公募に向けて取り組みを進めていく方針だ。
洋上風力公募に向けては資源エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会下の洋上風力促進ワーキンググループと、国土交通省の交通政策審議会下の洋上風力促進小委員会の合同会議で、洋上風力発電への電源投資を確実に完遂させるため、洋上風力をめぐるさらなる制度のあり方の検討を進めている。洋上風力をめぐる事業環境の厳しさは日本に限らず、海外でもサプライチェーンのひっ迫やコスト上昇の課題に直面し、プロジェクト開発から撤退した企業や、入札がなかった公募もある。洋上風力プロジェクトの実現に向け、合同会議では洋上風力関連団体や発電事業者らからのヒアリングや海外の支援政策などを踏まえつつ、公募制度の見直しや再エネ価値の向上、海域占用許可の延長、長期脱炭素電源オークションへの参加容認などについて議論を重ねている。
 

  導入拡大には船舶確保が不可欠


洋上風力の導入に向けては調査から建設、運転保守(O&M)の各段階で関係船舶の確保も不可欠だ。邦船各社は洋上風力バリューチェーン全体を見据えた取り組みを進めており、さらなる知見の蓄積や協力関係の拡大にも乗り出している。日本郵船は2月に欧州最大手のCTV(クルー・トランスファー・ベッセル)運航船社ノーザン・オフショア・グループ(NOG社)の過半数株式を取得し、連結子会社化したことを発表。商船三井は7月に三井物産と共同で英GEGホールディングスが保有するスコットランドのニグ港における基地港湾事業と洋上風力・石油・ガスを中心とするエネルギー産業向け鋼材加工・機器製造事業を買収することに合意し、株式売買契約を締結したことを明らかにした。8月には川崎汽船グループのケイライン・ウインド・サービスがオフショア支援船の保有・運航事業を営むSNマリンの第三者割当増資引き受けによる資本提携について、SNマリン株主の菅原汽船などと合意したと発表した。

洋上風力では、SEP船やケーブル敷設船、アンカーハンドラー(AHTS)、地質調査船、重量物運搬船、作業員輸送船(CTV)などバリューチェーン全体でさまざまな船が使われる。建設段階では、SEP船や起重機船、重量物運搬船、ケーブル敷設船などが活躍する。O&MではCTVやサービス・オペレーション・ベッセル(SOV)が重要な役割を担うが、修理などでSEP船などが必要となるケースもある。

国内でSEP船やケーブル敷設船への投資も進みつつあるが、業界関係者は「導入目標などを考えると、各社の発注を踏まえても全く足りない」と語る。また、関連船舶の確保に向けては船舶や船員の不足、発注から建造までのリードタイムなど、洋上風力業界内で認識が共有されていない側面もあり、業界全体での理解が求められる。

国土交通省海事局では洋上風力関係船舶確保のあり方に関する検討会を設置し、3月に第1回を開催した。検討会では洋上風力の拡大見通し、風車の大型化の動向、日本の海域に適した施工方法を踏まえ、設置・維持管理に必要となる関係船舶の需要を示し、事業者による船舶の確保を促進することとしている。

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