2024年2月13日無料公開記事海事産業と中国

《連載》海事産業と中国⑦
あらゆるエネルギーで大需要国に
輸送需要が多様化、輸入国から輸出国にも

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 エネルギー輸送船の需要や市況にとって中国は大きなプラス要因にもマイナス要因にもなる。それだけ、この分野でも中国の存在感が高まっていることを示す。原油、石油製品、化学品、天然ガスまで同国のエネルギー需要は多様化し、必要とする船の種類は増えた。輸入国から輸出国にもなり、海運にとって多様なエネルギー輸送ビジネスが見込める国になった。この巨大需要国はエネルギー出荷地から遠方にあり、輸送需要、マーケットへの影響が大きくもなっている。
 多様なエネルギー資源を求める中国。需要国として急速に目立ってきたのがLNGの分野だ。2000年代半ばにLNGの輸入を始めた中国は2021年に日本を抜いて世界最大のLNG輸入国に躍り出た。その後LNGの価格高騰やコロナ禍の影響もあって首位から後退したが、中国海洋石油集団(CNOOC)や中国石油化工(シノペック)などの巨大企業が米国をはじめとする生産国からLNGの大量調達を進めている。今後もLNGの大輸入国としての地位は揺らがないだろう。
 中長期的な需要を見越して邦船社が中国貨物でターゲットとするエネルギーの1つがLNGだ。早くから進出したのが商船三井。現地企業とのパートナーシップで中国向けのLNG輸送や中国造船所でのLNG船建造を長年続けてきた。近年もCNOOCと6隻、民営エネルギー会社の新奥天然气(ENN)と3隻の新造船契約を決めている。日本郵船もCNOOCと6隻の契約を結んで中国向けLNG輸送に本格進出を果たした。その後もシノペックと1隻の用船契約を結んだ。また、川崎汽船も中国はターゲット国。マレーシアのペトロナスと中国向けの輸送に投入されるLNG船の用船契約を締結し、関係構築を図っている。このように、邦船社は近年特に中国市場への進出を加速させている。
 前述の中国の船の手配だけを見ても、一時に調達する数は多く、そのビジネスに関与できれば長期契約が望める。一方で、中国にとってLNGは重要物資であり、国策とのかかわりも出てくる。その輸送について、国内の複数の船会社を競わせる国策をとりはじめているとの観測もあり、邦船社としては、現地企業とパートナーシップを結びつつ、「存在感をどこまで出していけるかを考えていきたい」(邦船首脳)。
 中国のLNG船需要増加に対応するため、同国内の造船所もこれまで唯一の大型LNG船建造ヤードだった滬東中華造船に続いて、大連船舶重工、江南造船、揚子江船業、招商局工業が建造に参入した。これまでのところ邦船社の発注先は実績のある滬東中華造船に集中しているが、今度発注先に広がりが出てくるのか注目される。
 当面は中国経済の成長率鈍化に伴いLNG需要の伸びの鈍化も予想されるが、中国は価格への感応度が高いともいわれる。「LNG価格が十分低くなると中国へのLNG輸送は増加する傾向にある」(市場関係者、以下同じ)。LNGは転売されることが増えており、海運にとってはトンマイル需要がつかみにくくなっている。ここでも中国の動きが注目される。「トンマイル需要がどうなるかは、中国が調達したLNGが、実際にどこに向けて動くかがポイントの1つ」になる。一昨年の冬、中国が米国から調達したLNGを欧州に転売したことで、輸送距離が短くなりトンマイル需要が想定した通りには伸びなかった。中国の温室効果ガスネットゼロ目標は2060年と他の主要国と比べて先。「石炭などさまざまなエネルギーソースがある中で、LNGを自国で消費するかどうかは価格動向に左右されるところがある」。
 荷揚げ港がアジアの東端にある中国は米国東岸、中東、西アフリカといったどのエネルギー出荷地からも遠方にある。このため、LNGのみならず、エネルギーなどの輸送で中国の存在感が増すほど、船腹の実質的な需要を示すトンマイル需要は中国の貨物需要に左右される傾向が強くなる。
 輸送需要が増えるのはLNGだけではない。国際エネルギー機関(IEA)は2022~28年の世界のLPG(エタンを含む)需要を年率1.9%増と予測するが、中国の伸びは著しく、同じ期間に年率3.8%増。中国はPDH(プロパン脱水素)プラントの増設に伴い、LPGのプロパンからプロピレンを生産する能力は大幅に増強しており、LPG需要が増えている。これらガスの輸送では大型船から小型船まで需要が見込まれる。また、石油製品や化学品でも中国は大きな需要国になる。輸入のみならず輸出のための輸送需要も生まれている。特にケミカル船では中国ビジネスに長年関与している邦船社も多い。原油の輸入国としても世界最大だ。
 エネルギー輸送ビジネスで中国不在は考えられなくなった。邦船社らは地政学や中国偏重のリスクも一方で念頭に置きながら、あらゆるエネルギーの巨大需要国となった中国とのビジネス拡大を目指す。

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