2023年8月10日無料公開記事
スペース不足がさらに深刻化へ
自動車船、生産ラインに影響も
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自動車メーカーの増産に加えて滞船などが影響(写真=ブルームバーグ)
邦船大手の自動車船担当者によると、常態化しつつある自動車船のスペース不足が秋以降にさらに悪化する見通しとなっている。車載半導体・部品供給問題が緩和し自動車生産が回復する中で各メーカーが増産計画を打ち出しているためだ。豪州を始め世界各地で発生する自動車船の滞船も改善の目途が立たず、船腹不足に拍車を掛けている。輸送力不足が自動車工場の生産ラインに影響するとの懸念も出ており、自動車船関係者の間で緊張感が高まっている。自動車船運航各社は荷主の協力を得て寄港地の集約などの対策を講じているが、新造船竣工による抜本的な輸送力の増強はまだ先のため、厳しい事業運営をしばらく余儀なくされそうだ。
自動車船では昨年8月頃から船腹不足が顕著になった。邦船大手の自動車船担当者は「2022年度下期から当社では毎月船が6〜7隻足りなくなり、下旬の貨物を翌月まで持ち越して頂いて対応してきた。3月頃にやや収まったが、それでも毎月2〜3隻は必ず足りない」と語った。例年8月は自動車工場のお盆休みのため出荷が落ちるが、「それでも吸収しきれないぐらい船が足りない」という。
日本の自動車メーカー各社は今年度下期から増産を計画している。過去2年は半導体・部品供給の問題で自動車メーカーの生産計画が狂い、船積み直前の輸送キャンセルが相次いだ。現在は半導体・部品供給問題はほぼ解消しており、自動車船担当者によると「足元の自動車メーカーの出荷はほぼ計画どおりか、計画以上に出荷されることもある」という。これによって自動車船の配船計画が立てやすくなった反面、輸送需要に対する船腹供給不足がさらに深刻化している。
自動車船運航各社は自動車メーカーの今年度下期の出荷計画を基に配船計画を立てているが、自動車船担当者は「今年度下期は計算上どう頑張っても船が足りない」と語る。邦船社は自動車船のマーケットからの短期用船も継続的に検討しているが、そもそも適船の数が少ないうえに「今船主から提示される条件は用船期間5年以上で、大型船の5年の用船料は6万ドル以上にもなる。先がどうなるか分からない中でそのような契約を結ぶ判断はできない」(邦船大手の自動車船担当者、以下同じ)のが実情だ。2000年代の自動車船不足の際に行われた冷凍船や在来船など他の船種による完成車輸送も、「検討はしているが、そもそも冷凍船やランプウェイ付きの在来船が今は少ない」という。日本の自動車メーカーの一部は代替策としてコンテナ船による完成車輸送のトライアルを開始したが、輸送品質問題への対応やロジスティクスを大きく作り変える必要があるなど、完成車の大量輸送モードとするには多くの時間と労力がかかるとみられる。
自動車船の現在の船腹不足の根本原因は、2010年代の同部門の業績悪化で新造船の発注が長期間停滞したためで、2020年のコロナ・ショックによる自動車船の一斉減船が船腹不足の到来を早めた。世界の自動車船オペレーター・船主は過去2年で自動車船を相当数発注したが、新造船が本格的に竣工してくるのは2024年度後半以降になる。自動車船担当者は「今回の自動車船の需給逼迫がコンテナ船から遅れて来たため、自動車船の需給緩和もコンテナ船から少し遅れてそろそろ来るという見方がお客さまの一部にはあるが、コンテナ船と自動車船は状況が全く異なる」と話す。
自動車船オペレーターが現時点でスペースを増やすためにできることは、船隊の回転率の向上。そのために寄港地の集約と出荷調整を荷主に要請しているが、自動車船担当者は「これから台風シーズンや冬場の荒天、そしてCII(就航船燃費規制)への対応があるため、船回しがさらに厳しくなる」と危機感を強めている。
自動車船の回転率を上げるうえでの最大のネックが滞船で、現在、豪州、メキシコ、カナダ、欧州など世界各地で起こっている。特に豪州で今年3月頃から滞船が深刻化し、「例えば日本/豪州航路は通常は1ラウンド約40日だが、現在は東・南豪州全てに寄港すると約80日もかかる」という。豪州の植物種子検疫が厳しくなっていることが原因と言われるが、自動車船担当者は「確かに検疫問題が原因だが、そもそも揚げ地側のヤードと港湾動労者、搬出するトラックのドライバーなどの陸型のファシリティのキャパシティが世界的に不足している。例えばカナダのニューウエストミンスターは4月中旬から滞船が増えているが、ここでは検疫問題は関係ない」と指摘する。豪州を含めてコロナ禍による物流混乱を受けて完成車ヤードの一部をコンテナヤードに変更したことなどから自動車船の滞船が起こっている可能性があるといい、自動車船担当者は「コロナが収束して労働者が戻ってきても、ヤードのキャパシティの逼迫が継続してしまう恐れがある」との見方を示す。
自動車船のスペース不足の対処療法がなかなかない中で、自動車担当者は「今は非常事態という認識をお客さまと共有し、ご協力をお願いしている。われわれは歯を食いしばって契約しているお客さまの輸送に使命感をもって対応し、できませんで終わるのでなく、このやり方はできなくなくてもこのやり方であればできますという形でお客さまと密にやり取りしながら解決策を見出していきたい」と語った。