2026年7月2日無料公開記事

海図から統合的船舶プラットフォームへ
ナブトール、ログブック電子化やAI活用

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 デジタル関連サービスを提供するナブトール(Navtor)のブルゲ・ヘットランドCOOと、日本ナブトールの北野弘章代表取締役は本紙取材に応じ、電子海図サービスを中核として提供する航海支援システムのソリューション強化に努めていく姿勢を示した。同社はまた、ソフトウェアサービスの開発を通じて統合的な船舶プラットフォームを構築し、脱炭素化など海事産業の社会課題解決に向けたソリューションを提供している。

■海図の頒布シェア最大

 ― 2023年にボイジャー・ワールドワイドの海図事業を買収・統合した。ナブトールにとって近年大きかったこの話題から聞きたい。
 ヘットランド ボイジャーは大規模な組織で当社にとって最大の競合相手の1つだった。買収後はボイジャーのサービスを利用していたすべての顧客、船舶をナブトールの技術へ移行する取り組みを進め、この作業が昨年夏に完了した。これによりナブトールがソリューションを提供する船舶は1万8000隻に拡大した。
 ナブトールはe-ナビゲーション分野で世界有数の地位を確立している。いま取り組んでいるのは、当社の既存のシステム上に追加のサービスを構築すること。排出ガス規制に対応したソリューションや、デジタル航海日誌(ログブック)の新たなシステム構築などを進めている。船上と陸上の2つのプラットフォームの連携を一層緊密にしていく。
 北野 ナブトールは電子海図の販売から始まり、ソリューションの展開へ事業を拡げた。これまでは特にe-ナビゲーションの分野で、われわれがすべてのサービスを提供するようなプラットフォームを作ることを、事業の大きな目的の1つとしてきた。
 2020年からの5年間は、事業ポートフォリオの拡大に向けたM&Aを積極的に行った。2023年に行ったボイジャー・ワールドワイドの買収は、事業のスケールアップにつながった。
 ボイジャーを統合したことで、現在電子海図の頒布シェアは世界最大となっている。このスケールアップした事業基盤のもと、関連プラットフォームの進化を進めている。

■船陸連携で業務効率化

 ― デジタル化の進展で、航海関連ソフトウェアの技術向上が期待されている。
 ヘットランド 海運会社にとって、船舶が航行している時間は収益を生み出す時間であり、その業務を効率化するという当社の使命を重視している。われわれの目標はすべての船舶が安全かつ効率的に、そして法令を遵守して航行を続け、業務負荷やトラブルを最小化することだ。
 そのため、システムを統合し、船上で使用するアプリケーションを簡素化していく必要もある。船上の意思決定の支援をこれまで以上に陸上側が行っていく必要がある。
 スターリンクやその他の衛星通信事業者の参入で船上の通信の接続性が向上した。データのストリーミングが可能になり、オフィスにいながらほぼリアルタイムで船内の状況を監視できる。これまでにはなかったことだ。
 環境規制の強化などで船舶の規制はますます厳しくなっており、事務処理も増えている。乗組員の業務負荷をとにかく削減し、業務をより自動化していくことが必要だ。
 北野 海図などのあらゆる航海情報は電子化で自動更新できるようになり、その結果、ほかの業務により多くの時間を割けるようになった。そうした業務効率化に貢献していくことが、われわれの大きなミッションの1つだ。

■日本市場を重視

 ― 日本の市場をどのように見ているか。
 ヘットランド 日本は保有船舶量(載貨重量トン数ベース)で世界第3位の国。その市場は大きく重視している。ノルウェーと日本には似ている点が多く、お互いを尊重している。品質を重視し、高品質な製品を好む点も共通している。2011年にナブトールを立ち上げた際、最初に進出すべき国の1つを日本と決めた。大手海運会社があることも含め理由は多岐にわたるが、日本で成功できればどこの国でも成功できると考えている。
 日本では優れたパートナーを見つけやすいのも事実だ。日本の顧客は自分たちが何を望んでいるかを率直に伝えてくれる。共生関係を作っていくうえで重要だ。顧客とサプライヤーというより、パートナー同士という関係が作れる。
 北野 海図の分野は価格競争が激しく、海図という商品自体がコモディティ化している。そのため、ソリューションや付加価値を提供していくことを重視しており、日本市場では特にそれらが重要視されている。
 ― 日本での販売状況は。
 ヘットランド 2015年に日本オフィスを開設し、現在2000隻以上の日本関係船舶がナブトールのソリューションを利用している。日本市場における当社のe-ナビゲーションサービスの浸透率は極めて高く、今後も日本での事業展開に投資を継続していく。
 当初は、電子海図情報表示装置(ECDIS)の搭載義務化で海図の電子化が進む中、限られた通信を使って海図データをどのようにシームレスに頒布するかが課題だった。通信環境がこの10年で劇的によくなり、その環境に適応したソリューションを展開できた成果もあった。
 ヘットランド 日本市場を重視するもう1つの理由には、古野電気や日本無線、東京計器というECDISの3大メーカーが存在することもある。われわれは3社と緊密に連携しており協力関係に感謝している。
 北野 ECDISは日本のメーカーが世界的にもビッグプレーヤーとなっている。われわれはハードウェアは作らないが、中身のソフトウェア開発やデータ連携を通じて長年にわたる強固な関係を築いており、そのコミュニケーションの上でも日本での展開は重要となっている。

■ログブック電子化とAI活用

 ― 電子海図の搭載義務化とともに、周辺機器のデジタル化も進展している。
 北野 ログブックの電子化に関する引き合いを多く受けている。本船の作業負荷を減らしていく取り組みの一例として、商船三井と現在共同で進めているプロジェクトもある。開発のポイントは、手書きから電子的な入力に切り替えていくこと、入力項目を減らしていくこと、本船のセンサーデータから自動入力する環境を作ること―などだ。
 本プロジェクトでは、サードパーティーが提供する本船のデータロガーに蓄積された船舶データを「ナブボックス(NavBox)」に取り込み、ログブックの電子フォーマットへ自動入力するシステムの開発に協力している。
 このような外部パートナーとの研究開発には創業当初から力を入れてきた。開発を通じて得た成果を製品サービスに落とし込んでいくプロセスの繰り返しが、今日のプラットフォーム構築の礎となっている。
 また、当社が提供するログブックは主要な旗国・船級に加え、昨年にはすでに日本の旗国承認も取得しており、日本市場での利用環境が整備されていることも強調しておきたい。
 ― ソフトウェアの開発体制は。
 ヘットランド ナブトールの社員数は約450人、開発には170人ほどが携わっている。開発にかかわる主要な拠点はノルウェー、ポーランドのグダニスク、英国アバディーンの3カ所。インドやスリランカにも開発者がいる。業界のイノベーターとして技術開発に多額の投資を行ってきた。
 開発チームの生産性を高めるため、人工知能(AI)を活用する取り組みも模索し始めた。チャットボットのサービス「AIキャプテン」を開発し現在トレーニング中で、顧客向けカスタマーサービスへの活用を想定している。
 ― ほかにもAIのユースケースはあるか。
 ヘットランド 持続可能な海運に向けたプロジェクトとして、昨年から「GASS:Green AI for Sustainable Shipping」をノルウェーの有力パートナー6社と共に開始した。AIを活用し、海運業界におけるエネルギー効率のさらなる改善を図ることを目標としている。AIとデジタルツインの統合を中核としており、船舶自動識別装置(AIS)や船舶のパフォーマンスログなどを含む膨大なデータを分析し、燃料消費量の予測、異常の検知、最適な航路や運航戦略の提案を行う。
 北野 航海計画を立てる上で、従来の気象海象予測のみならず、近年は環境負荷低減も重要な要素となり、航路計画の最適化の概念が変わってきた。考慮すべき要素は多次元化しており、もはや人の知見だけでは難しい側面がある。AIやデジタルツインを活用し、環境負荷低減と運航効率を両立する最適航路選択の自動化実現を目指している。
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