2025年10月15日無料公開記事海運先物取引(FFA)を知る使う

《連載》海運先物取引(FFA)を知る・使う④
FFAの3つのリスク
エクセノヤマミズ 大本博司 氏

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FFA取引を行う際には、前回説明したヘッジの概念を正しく理解したうえで、「規制リスク」「マーケットリスク」「与信リスク」の3つのリスクを把握しておく必要がある。

このうち最も大きいのが規制リスクで、次がマーケットリスクになる。与信リスクについては、FFAではクリアリングハウス(清算機関)が介在するため、ほとんど無視できるほど小さいと言ってよい。

一般的に、FFAなどの先物取引では価格変動によるマーケットリスクばかりが注目されがちだが、実際には規制に関するリスクの方がはるかに大きい。

規制リスクとは、故意かどうかに関わらず、各国で定められた先物取引関連法規に抵触する不正行為を行い、個人や企業が刑事訴追を受けたり、制裁金を科されたりするリスクのことを指す。不正行為の中には相場を故意に動かす行為も含まれ、スプーフィングと呼ばれる「見せ玉」による相場操縦が代表的な例だ。2020年には米金融大手JPモルガン・チェースが、貴金属取引などにおけるスプーフィング行為で米商品先物取引委員会(CFTC)から約9億ドルの制裁金を科されたことが大きな話題となった。

FFAに関しては、米国のCFTC、EUの欧州証券市場監督機構(ESMA)、シンガポールの金融管理局(MAS)などが監督権限を持つ。いずれにせよ、疑義を持たれるような取引行為は厳に慎む必要がある。

マーケットリスクとは、FFAの場合「ベーシスリスク」とも呼ばれるものである。ベーシスとは現物とFFAの価格差のことで、この差が想定以上に変動すると、FFAによるヘッジ効果が十分に得られない場合がある。現物の用船料とFFAは必ずしも完全に連動しないため、両者の間には常に何らかのズレ、つまりベーシスリスクが存在する。

例えば、現物の用船料が1万2000ドルのときに船舶を仕入れ、同時点でFFA価格が1万ドルだったとする。このときベーシスはプラス2000ドルであり、ここでFFAの売りヘッジを行えば、実際には単なる現物の売りヘッジというだけではなく2000ドルのベーシスのロングポジションを持つことになる。

その後、現物の用船料が1万5000ドルまで上昇し、FFAの売りヘッジを1万6000ドルで解消した場合、ベーシスはマイナス1000ドルとなる。結果として、現物では3000ドルの利益が出たが、FFAでは6000ドルの損失が発生し、差し引き3000ドルの損失となる。一般的に「ヘッジ損」と呼ばれるが、正確にはベーシス変動による損失と言うべきものである。すなわち、2000ドルのベーシスロングをマイナス1000ドルで手仕舞った結果、3000ドルの損失が生じたという理解が正しい。

このベーシスリスクが生じる主な理由は、船社や荷主などがヘッジを行いたい対象が太平洋ラウンドなど個別航路の用船料であるのに対し、FFAは主要航路の加重平均価格をベースとしている点にある。個別航路のFFAも存在するが、残念ながら流動性がほとんどないため、主要航路平均のFFAを使わざるを得ないのが現状だ。

ただし、過去の現物とFFAの価格推移を分析すれば、一定の対応は可能である。たとえば、パナマックスの北太平洋航路と主要航路平均の相関には、穀物輸送などの荷動きによる季節性が見られる。ヘッジを行う際は、対象ポジションの限月がベーシス拡大期にあるのか縮小期にあるのか、またどの水準であればヘッジを実行してよいかという判断基準を持っておく必要がある。

こうした分析を行っても、ベーシスが例年と異なる動きを見せることはある。単年度で見れば、ベーシスリスクをうまく回避できた年もあれば、そうでない年も出てくるだろう。しかし、仮に単年度で十分なヘッジ効果が得られなかったとしても、長期的に見れば、FFAは海運ビジネスにおける有効なリスクヘッジ手段として継続的に利用すべきツールである。

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