2025年7月23日無料公開記事
内航海運のバイオ燃料網構築
栗林商船、ジャトロファ燃料事業化調査共同参画で
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(左から)栗林良行常務取締役、栗林広行専務取締役
本紙既報(7月9日付)のとおり、栗林商船はスタートアップの日本植物燃料が取り組む非可食作物ジャトロファ由来のバイオ燃料の事業化調査に共同参画し、将来的に自社で運航するRORO船での同燃料の使用の可能性も検討している。栗林商船はジャトロファがバイオ燃料の供給量の問題の解決策の1つになると期待しており、同事業を通じて自社だけでなく内航海運業界全体のバイオ燃料サプライチェーン構築に貢献したい考えだ。
栗林商船は2025年度からスタートした中期経営計画で、サステナビリティ経営を主要項目の1つとして挙げた。その中の指針に「環境経営」を掲げており、運航船の二酸化炭素(CO2)排出削減に取り組む方針。そのための施策の1つがバイオ燃料の利用で、同燃料に照準を定めた理由について、栗林広行専務取締役は「現時点では他の新燃料と比較すると、主機などを大幅に交換せずに利用できる点でバイオ燃料が最適解の1つだと考えている。内航船全体を見ると、アンモニアや水素などはタンク容量が大きく、小型船での実用化は難しいだろう。船型を問わず使いやすいバイオ燃料の活用に取り組むことで、内航海運業界全体の脱炭素化にも貢献できると考えた」と説明する。
バイオ燃料を実用化していくにあたり、栗林商船はバイオ燃料サプライチェーンに関する事業化調査への共同参画を決めた。栗林専務は「バイオ燃料はSAF(持続可能な航空燃料)の需要も大きく、各業界が争奪戦を繰り広げている。そのような状況の中、日本植物燃料が主体となって進めているジャトロファ燃料事業は船舶向け燃料として計画が進められており、既に外航大手海運会社も参画している。参画企業の1つである大手総合商社からのお声掛けもあり、内航船社として初めて参画することになった」とした上で、「当社に求められているのは内航海運業界での供給網構築と、業界内でジャトロファ燃料を含むバイオ燃料についての議論を深める役割だ」と語る。
■30年にも本格生産
この事業では、栗林商船ら共同参画企業が日本植物燃料に業務委託して実証を行う。作付面積を増やして28年にパイロット生産を行い、本格生産は30年を予定。参画企業は早い段階からサプライチェーン構築をサポートすることにより、将来的にバイオ燃料の安定的な供給を受けることにつながることを期待している。原料のジャトロファは、非可食作物のため食用と競合しない上に荒廃地でも育つというメリットがある。さらに、日本植物燃料は品種改良によってジャトロファの油分の含有量を在来種の50倍まで増やすことに成功している。
ジャトロファ燃料の生産地であるモザンビークには同国北部のナカラ港を起点に内陸と結ぶ物流ルート「ナカラ回廊」がある。内陸の耕作地から港湾地域への鉄道・道路網が整い、海運で輸出するインフラが整っている。また、同事業が軌道に乗れば現地の雇用増や産業振興にもつながり、人々の生活基盤を支えるなど、地域貢献にも期待がかかる。
栗林良行常務取締役は「この事業はジャトロファの栽培から搾油、輸送まで一貫したサプライチェーンを構築する壮大な計画だ。現在参画しているメンバーだけで成し得るわけではなく、燃料元売りなどとも対話を重ねて実現させたい」と今後の展望を語っている。