2025年6月9日無料公開記事シップリサイクル

《連載》シップリサイクル②
解撤需要は今後拡大
価格は需給次第、条約発効の影響薄

  • X
  • facebook
  • LINE
  • LinkedIn

シップリサイクルにあたり登場するプレイヤーとして「キャッシュバイヤー」がいる。キャッシュバイヤーとは解撤対象の船を購入し、解撤ヤードに売却するビジネスを行っている事業者のこと。GMS、ベストオアシス、ウィラナなど世界に30~40社程度、存在すると言われている。グループ会社や提携先が解撤ヤードを運営していたり、一般的な船主業・海運業を運営しているケースもある。

船主は高齢船の処分を考える際に、売却価格を踏まえて「生き船で売るか、解撤するか」を判断する。解撤を選んだら、キャッシュバイヤーに売却。キャッシュバイヤーはブローカーとは異なり、「船主」として自身が船の買取価格を決める。購入した船を基本的に最も買取価格が高いヤードに売るが、船主としての責任を果たすため、条約に適合し安全性、環境に配慮したヤードを選定することになる。

最近の解撤船の価格相場は、国によっても多少のばらつきがあり、アジアの主要3国については、インドと比べてバングラデシュが若干高め、パキスタンは同等か若干落ちる状況だという。解撤価格の推移は表を参照。「2022年後半から24年夏ころまで鉄の価格も悪くなかったが、解撤船が少なかった。解撤ヤードが解撤船を取り合うことで価格が上昇し、23年夏から秋にかけて一時期バルカーでライトトン(軽荷排水トン、LDT)当たり700ドルまで上昇した。一方、このような高値だと解撤ヤードとしてもたないのでその後は下落し、足元(25年5月現在)は450ドル程度に落ち着いている。過去15年の平均は400ドル台前半なので、足元の価格は悪くない」(GMS)

船種別にみると、タンカーやコンテナ船はバルカーと比べて若干高値で買い取られるのが足元のマーケットだが、解撤国、対象船の仕様、状態によっても買取価格は異なる。また、船に使用されている素材によっても大きく異なる。ステンレスなどの非鉄金属が使用されている場合は高値になり、断熱材が使用されているとその分、割安になる、といった具合だ。

解撤船の買取価格は国内のリサイクル鉄の需要や解撤ヤードのコスト競争力、そして何より、解撤船の需給バランスによって決まる。条約発効が解撤用船舶の買取価格に与える影響については大きくはなさそうだ。「グリーンヤードでしか解撤ができなくなるが、それ自体による価格の変動はさほどないと見ている。解撤船の価格は国の鉄需要や船の供給量など、その他さまざまな要因が関係してくるからだ」(ベストオアシス)

日本海事協会(NK)は、主要リサイクル国関係者の情報を踏まえ、シップリサイクル条約の発効時に約150ヤードが条約に適合できると見込んでいる。このため、条約発効当初、直ちにキャパシティ不足に陥ることはないと観測されているが、中期的にはどうか。ボルチック国際海運協議会(BIMCO)の試算では今年から2035年までの10年間の解撤量は直前の10年間の2倍に達するとされ、将来的な条約適合施設のキャパシティの拡大が必要になる。08年のリーマン・ショック前後の海運ブーム期の大量竣工船がこれから退役することや、低・脱炭素規制の強化が燃費の悪い高齢船の更新需要を高めるとの見方がその根拠だ。

解撤船増加の兆候が一部の船種で出始めている。例えばLNG船。「昨年末頃から旧式のLNG船がまとまった数、リサイクルマーケットに出てきた。この半年で10隻以上は解撤されているのではないか。LNG船市況が低調であることと旧式船の需要が低下していることが背景にある」(GMS)。バルカー、タンカーも高齢船の解撤が出始めている。高齢船が増えていることで、マーケットの状況が一気に悪化したり、新造船の竣工が重なったタイミングで船を入れ替えるために高齢船がリサイクルに回ることは十分に考えられる。その時期がいつになるかは見通しにくいが、少なくとも今年は昨年よりも解撤船が増加しそうだ。解撤量は、解撤船の買い取り価格に影響を及ぼす要因となる。

日本の船主はもともと船齢10~15年になった船を生き船として売船する傾向があり、解撤売船は限定的だ。外航船の解撤は通常であっても年間10~20隻程度とされ、ギリシャ船主らと比べて圧倒的に解撤需要が少ない。ただ、船隊の船齢が上がる傾向にあることや今後の海運・中古船マーケットの変動によっては、日本船主による外航船のスクラップも増えてくることが考えられる。また、生き船売船の場合も、外航船、海外売船を念頭に置く内航船ともに条約対応の準備が必要になる。

関連記事

  • 増刊号シンガポール2025
  • ブランディング