海運マーケットの安定を維持するため、スムーズな船舶の解撤は不可欠だ。解撤国での安全で環境に配慮したシップリサイクルを推進する国際海事機関(IMO)の国際規制が今年6月26日に発効する。条約要件に適う解撤ヤードが増えていることに加え、海運マーケットの好調で解撤船の需要が限定的であることから、規制発効による解撤能力不足への懸念は後退している。一方、過去数年の海運マーケットの活況で解撤に回る船は少なかったことで、世界的に船齢は上昇基調にある。今後海運マーケットが急落すれば一気に解撤に向かう可能性もあり、その需要に対応するために継続的な解撤能力の増加が必要になりそうだ。
船舶の解撤は、船の材料である鉄・非鉄などの素材の多くが再利用されるため「シップリサイクル」と呼ばれる。IMOのシップリサイクル条約(通称、香港条約)発効後は一定の要件を満たした解撤ヤードでしか解撤できなくなるが、駆け込みで解撤売船するような動きはほとんどない。その主な理由の一つが海運マーケットの好調だ。
船舶は通常、歳をとるごとに中古船マーケットでのいわゆる“生き船”売船価格が下がり、スクラップ売船価格を下回ると解撤される。この3年ほど海運マーケットが船種を問わず活況に沸いたため、中古船価が上昇した。船齢が進んだ船でも運航を続けるか、中古売船したほうが需要に応えられるため、船主に生き船での売船を選択させている。
解撤船の買い取りを行うキャッシュバイヤーによると、「この数年、海運市況が良好だったため、2023年、24年は船舶の解撤量が通常よりもかなり少なかった。通常は年間900~1000隻のところ、24年は3分の1の300隻強。過去最低水準といってよい」(GMS)、「条約発効による駆け込み需要が見込まれたが、この2~3年海運マーケットが良好のため、昨年は特に解撤量が少なかった。船主の解撤需要は条約発効との関わりは薄く、海運マーケット次第といえるだろう」(ベストオアシス)。足元の解撤船齢は通常よりも上がっており、船齢25~30年が目立つという。
条約発効前の駆け込み解撤が少ないもう一つの理由が、今後の価格見通しにある。「船主による解撤売船の駆け込み需要が少ないのは、海運マーケットの好調に加え、(条約発効が)解撤売船の価格が大きく低下させる要因にはならないという判断があるのではないか」(GMS)
解撤ヤードはシップリサイクル条約に対応するためにハード、ソフト両面で対策が必要になり、それはヤードのコストを押し上げ、逆に買い取り価格を低下させる要因の一つになり得る。10年ほど前にインドで初めて条約の要件に適合した解撤ヤードが認証を受けた際、認証ヤードによる解撤船の買船価格はそれ以外のヤードに比べて100ドル程度安くなったという。それが現在、主要解撤国のインドでは全体の約9割となる約100のヤードが認証を取得済みだ。他の解撤国の認証ヤードは、パキスタンはゼロだが、バングラデシュは7カ所ある。バングラデシュには40ほどの解撤ヤードが存在すると言われ、現時点で認証ヤードは一部にとどまるが、一つひとつのヤード規模はインドと比べても大きい。現時点で解撤船がラッシュしておらず、また、特にインドで認証ヤードが大半になっている現状において、条約発効が解撤船の買取価格に影響を与えることはほとんどないと見られている。
主な船舶解撤国はインド、バングラデシュ、パキスタン、トルコ。いずれもシップリサイクル条約を批准し、条約発効への備えを進めている。以前は主要な解撤国の一つだった中国は、外航船については中国船籍以外を受け入れていない。
シップリサイクル条約の発効による懸念点の一つが、「解撤ヤードが不足する可能性はないか」ということだった。これに対して、GMSは「必要以上に心配する必要はない。もちろん、全体としてキャパシティが減っていくことで需給がタイトになる可能性はあるが、リサイクルしたいのにヤードがない、という状況になることは考えにくい」と観測する。ただし、船主側が利用するヤードを限定している場合、海運市況が激変して大量の解撤船が出た場合に、希望のヤードで解撤できない可能性もあり、注意が必要になりそうだ。