2024年10月3日無料公開記事洋上風力発電

洋上風力地質調査に参入、調査船就航
川崎汽船グループのKWS、海外調査会社と新会社

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日本籍の地質調査船“EK HAYATE”

 川崎汽船グループのケイライン・ウインド・サービス(KWS)が洋上風力発電の初期調査などを行う海洋地質調査事業に参入した。世界各地に拠点を持つ海洋地質調査会社EGSサーベイ社(EGS社)と折半出資で「EKジオテクニカル・サーベイ社(EK Geotechnical Survey合同会社、EKGS社)」を今年4月に設立。9月に地質調査船“EK HAYATE”を就航させた。洋上ボーリングをはじめ多様な海洋調査サービスを主に国内で提供する。新会社の1号案件として、海底電力ケーブル敷設ルートの調査を秋田で先月までに終えた。普及期を迎える日本の洋上風力発電プロジェクトの初期段階で必要な海底地盤などの調査需要に応える。

 KWSは川崎汽船と川崎近海汽船の合弁会社として2021年に設立された。日本が掲げる2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向けて需要が高まる洋上風力発電関連の作業船、輸送船に関するプラットフォームになる。川崎汽船グループは国内外でオフショア支援船事業の実績がある。この経験・知見により国内の洋上風力の普及・拡大を支えるため、洋上風力発電に適したオフショア支援船を整備するなどしてサービスラインアップを整えてきた。
 KWSは洋上風力向けのサービス、ソリューションを構築する中で、プロジェクトの初期段階に必要となるボーリング調査船が不足していることを認識。世界各国の海底電力ケーブル敷設ルートの調査や洋上風力関連の調査で豊富な実績を持つEGS社と連携し、双方のリソースとノウハウを統合して、日本を中心とした海洋地質調査事業に参入するに至った。
 KWSの社長でEKGS社の職務執行者を務める蔵本輝紀氏は「このビジネスでは船も必要だが、海底に穴をあけてサンプリングをしたり土壌・地盤の調査をしたりする専門性の高い作業が必要になる。そこで、川崎汽船グループ会社オフショア・オペレーション(OOC社)が付き合いのあったEGS社とともにJVを立ち上げ、地質調査事業への参入を果たした」と経緯を説明する。
 このほど就航した地質調査船“EK HAYATE”は掘削用の櫓(ドリルタワー)などを搭載したいわゆるドリル船。ドリルタワーは日本近海の海象に合わせ、EGS社の特別設計による門型形状とした。全長78m、幅17m、喫水6.3m。2010年に海外で建造され、東南アジアで活動していた船を東南アジアの船主から購入し、シンガポールで改装、日本籍に転籍したうえで、このほど日本市場に投入した。
 同船の特徴の一つが日本籍船であることで、日本人船員が乗船する。国内で活動する同種の日本籍地質調査船は同船のほか1隻とされ、外国籍船を含めても計3隻程度という。これに“EK HAYATE”が加わる。日本籍船であることから外国籍船が国内で作業するのに必要な沿岸輸送特許申請が不要となり、「顧客の需要に合わせてスムーズに船を投入できる」(KWS)。
 EKGS社は“EK HAYATE”を用いたボーリング調査以外も実施する。「当初、ジオテクニカルサーベイと呼ばれる、海底地盤に深く穴を掘り、CPT(コーンペネトレーションテスト)やサンプリングを行うビジネスを想定し、実際に“EK HAYATE”で事業を開始することになったが、マーケティングを行う中で、例えば音波探査やケーブル敷設ルートの調査などの需要もあることが分かった。そのような調査にはOOC社の船が適しており、その船にEGS社のケーブルルート調査用の機材を載せて行う調査も手掛けていく」(蔵本氏)。
 後者の調査については、既に1号案件を9月末までに完了している。国内の地盤調査最大手、応用地質から秋田県八峰町・能代市沖の調査業務を受託した。電力ケーブル敷設に当たってのケーブルルートを調査するもので、OOC社の協力を得てこれを実施した。これは、EKGS社にとっての初の調査業務になった。
 “EK HAYATE”を用いた事業の受託に向けた活動を進めており、一般海域の「ラウンド3」における海域調査などをターゲットに据えている。
 国内向けサービスを主としつつ、外航船仕様の“EK HAYATE”を用いて一時的に海外向けに投入することも視野に入れる。

KWSの蔵本社長

特徴は海底下を掘れる高い櫓

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