2024年1月19日無料公開記事海事産業と中国

《連載》海事産業と中国②
銅精鉱など脱炭素関連貨物に注目
NSユナイテッド海運・山中一馬社長

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 NSユナイテッド海運の山中一馬社長は、中国発着のドライバルク貨物が今後は全体的に減少傾向と見通しつつ、ケープサイズ・バルカーを中心に最も注目すべきマーケットであることに変わりはないとの認識を示した。一方で今後成長が期待される中国関連貨物として、製鉄の脱炭素対応原料の還元鉄や、電気自動車(EV)・再生可能エネルギー関連の需要増加が見込まれる銅精鉱、ボーキサイトなどを挙げ、これらを中心に事業機会を探っていく考えだ。

 — 海運市場としての中国をどう見ているか。
 「中国の鉄鋼需要はかつてのバブル期に大きく伸び、これに伴い同国向けの鉄鋼原料の海上輸送量が飛躍的に伸びたが、すでにピークアウトしている。この間に中国国内の製鉄所の再編・合理化があり、一方で経済安全保障の観点から自国産鉄鉱石の調達を強化したり、あるいは脱炭素化で中国も電炉製鉄にシフトしていくとみられる。これらを考えると、中国向けの鉄鋼原料輸送量は今後漸減していくと予想される。それでも中国の鉄鉱石輸入量は2022年に約11億トンと世界の鉄鉱石海上輸送量の7割以上を占め、巨大かつ最大の需要先であることは今後も変わらない。ケープサイズ部門では中国は引き続き最も注目すべき市場だ」
 「現在中国の鉄鉱石輸入量の3分の2が豪州からだが、中国は西アフリカなどの遠隔地の鉱山の開発に精力的に取り組んでいるので、調達ソースの比率が変化する可能性がある。それによるトンマイルの伸びがケープサイズ市況のプラス要因になり得るので注目している」
 「その他のドライバルク貨物の中国のシェアについては、穀物の輸入の約30%、鋼材の輸出の約30%、 マイナーバルクの輸入の約30%となっている。ただ、中国のドライバルク輸入量は全体的に2020年をピークに少しずつ減少傾向に転じているのが実態だ。中国経済の動向によって今後も増減はあるだろうが、中国も少子高齢化が進んでいるので、同国関連のドライバルク貨物は少しずつ縮小傾向になっていくと考えざるを得ない」
 — そのような中でも有望な中国関連貨物は。
 「資源メジャーのインターレギュレーションに対応する必要があるケープサイズや先進国からのCIF(運賃・保険料込み条件)貨物を除けば、中国発着貨物の輸送は中国系企業の起用が多いと考えられる。このため一般のマーケットからは見えにくく、また高水準の船質が必ずしも必要とされないという点において、われわれが対象としているマーケットとは少し異なる。中国の中で完結する別のマーケットが存在すると考えた方がいいかもしれない。前述のとおり、荷動きが今後は右肩上がりではないことを考えても厳しいマーケットだが、中国の輸送方針が今後変化する可能性が全くないわけではなく、われわれが収益性をもって行えるビジネスはどこにあるのか引き続きウォッチしていく」
 「中国の鉄鋼業界が脱炭素化を進める中で、還元鉄の輸送需要が増える可能性があると考えており、われわれもこの分野の輸送体制の整備を考えていかなければならない。他にも脱炭素化に伴う新たな需要として、電気自動車(EV)関連でボーキサイトの輸入量が増加しており、特にギニアからの輸入量が急増している。中国のここ数年の鉄鉱石輸入量の伸びの鈍化をボーキサイトがカバーしている格好だ。銅精鉱もEVや再生可能エネルギー関連で中国での需要増加が見込まれている。南米からアジア向けの銅精鉱輸送は当社が長年手掛けてきた得意分野であり、引き続きここに注力するとともに中国の動向に注目していきたい」
 「その他に当社が関わる貨物では中国のLPGの需要動向にも注視している。また、次世代燃料船への移行が進む中で中国が次世代燃料の供給ソースになっていく可能性もあるため、ここにも注意したい」
 — NSユナイテッド海運がトップシェアラーの日本出し中国向け鋼材の見通しは。
 「中国向けの鋼材荷動きは残念ながら今後は増えていくような状況ではなく、むしろ減少傾向にある。近海船の往航と復航のバランスをとるという観点からも、当社としては中国向けの鋼材に代替する戦略を考えなければならない。当社の中国向けの鋼材輸送量がこれまで比較的多かったのは、これまで中国に多くの投資を行ってきた日本の鉄鋼会社の海外戦略との連動・連携もあった。今後も日本の鉄鋼会社の海外戦略を注視しながら、われわれもその戦略の一助となれるように対応していきたい」
 — 中国造船所をどのように評価し、今後どう付き合っていくか。
 「中国建造船の品質は明らかに向上しており、価格競争力もあると認識している。一方で中国も既に労働人口の減少に入っており、一定の技術を持つ工員の確保がおそらく中国国内においても今後課題になってくると思う。これによる建造能力や船質への影響を見ていく必要がある」
 「日本建造船は長期間高いパフォーマンスを維持でき、保守体制もしっかりしており、売船時のプレミアムもあるということで、当社はこれまで日本建造にこだわってきた。これからも中国造船所の実力をわれわれ自身でしっかりと評価したうえで、日本と中国の造船所の双方の総合的な競争力を常に見ていく必要があると考えている」
(聞き手:中村直樹、深澤義仁)

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