2023年5月16日無料公開記事

「次世代海運事業」へ事業モデル変革
三菱商事、トレーディングはMCシッピングに集約

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エネルギー・トランスフォーメーション(EX)が成長戦略の中核

三菱商事は、船舶部のビジネスモデルの大きな変革を図る。三菱商事全体として成長戦略の中核に据えるエネルギー・トランスフォーメーション(EX)を推進し、「次世代海運事業」へと事業モデルを変革する。中長期的な戦略としてアンモニアやCO2をはじめとした次世代エネルギー輸送船を主力船隊に据えるとともに、一般商船についても今後は従来型ではなくEXに資する次世代型一般商船を対象とした新造発注の再開も見据える。また、事業モデルの転換を図るため、組織の変革も実施した。従来型の保有・運航やトレーディング事業も継続するが、これまで三菱商事本体で手掛けてきた新造船のトレーディング事業を4月に子会社のMCシッピングに移管し、船舶トレーディング事業全般を同社に集約。船舶部では中長期的な戦略に基づく次世代海運事業の旗を振りながらグループ一丸となって取り組む体制にした。


次世代海運事業では、LNG船とバルカーを中心とした一般商船の保有・運航事業やトレーディング事業といった従来のビジネスをEX推進に資する形に変容させながら手掛けつつ、次世代型船舶と海運DX(デジタル・トランスフォーメーション)を中核とした事業に注力・シフトし、世の中の“半歩先”をいく存在を目指す考えだ。具体的な施策として、水素、アンモニア、CO2などの次世代エネルギー輸送事業の開発推進に加えて、海運DXとして自律運航船やEV船、DXを活用した船員不足・運航効率化などの課題解決に取り組む。また、LNG船の保有・運航事業では社内外向けに現在16隻を展開しており、カーボンニュートラルに向けたトランジションとして引き続き重点的に取り組む考えだ。

従来型ビジネスの一般商船の保有・運航事業やトレーディング事業は、MCシッピングで強化・拡充を図る。現在50隻規模の一般商船は既存船へのEX仕様のレトロフィットや新造発注により段階的に次世代型一般商船に入れ替え、付加価値を共有できる用船者や荷主とプロジェクトを組むことで差別化を図る。MCシッピングは今年4月、運航業を手掛けるシンガポール会社ダイヤモンド・バルクキャリアーズ(DBC)も統合し、機能強化を図っている。

4月1日付で船舶部長に就任した山下康平氏に事業戦略を聞いた。

* * *

■EXで描く成長戦略

— 三菱商事船舶部の事業戦略は。

山下船舶部長

「三菱商事全体が向かう方向性などを踏まえて、船舶部の次の事業戦略を策定し、『次世代海運事業』へとビジネスモデルを変革するという大きな方向性を打ち出した。LNG船とバルカーを中心とした一般商船の保有・運航事業やトレーディング事業といった従来のビジネスはEX推進を意識しながら引き続きしっかり手掛けつつ、次世代型のビジネスモデルへの変革に取り組む。

当社は昨年に発表した『中期経営戦略2024』で、EXを成長戦略の中核に据えており、船舶部もその成長戦略に呼応する形で次世代型船舶に注力し、またそれに海運DXを掛け合わせることで、世の中の半歩先をいく存在を目指すことを大きなビジョンとして掲げた」

「次世代“船舶”事業ではなく次世代“海運”事業としたことにも意図がある。かつては日本の造船所が建造した船舶という商材を海外の顧客に売りつなぐ、あるいは汎用船型のトンネージプロバイダーを務めるのがわれわれ商社船舶部の使命であり、レゾンデートル(存在意義)でもあった。その伝統や歴史は引き継いでいくが、15〜20年後を見据えた時にそのモデルで当社船舶部が業界に貢献し続けるのは厳しい。三菱商事全体として取り組むEXの成長を取り込んで次のステージへ進むべく、船舶という商材にとどまらないDXや次世代のカーゴなどを含めた事業展開を次世代海運というフレーズに込めている」

— 半歩先をいく存在とは。

「当社船舶部として考えると、資源メジャーのような世の中の一歩も二歩も先をいく大企業と真っ向から競争して伍していくのは難しい。彼らの背中を見ながらも、その他の大多数のプレイヤーよりは少し早く先をいきたいとの考えだ」

— 次世代海運事業の具体的な施策は。

「次世代海運事業として、当社のEX戦略に呼応する形で、中長期的に次世代エネルギー輸送事業を手掛け、次世代エネルギー船を主力船隊に据えたい。ただ、次世代エネルギー輸送事業が収益の柱になるのは早くても2030年代と考えている。次世代海運事業の世界観を一足飛びに実現できるとは考えておらず、現在手掛けているバルカーやLNG船の保有・運航事業をしっかり続けつつ、段階的に従来型のバルカーを売却、あるいは従来型へのEX仕様のレトロフィットを進めつつ、新造発注も検討し、次世代型、EX型の船に代替する。ここ数年は新造船を発注できていなかったが、これを機に発注の再開も見据える方針だ。EX技術を採用した新造船は少し高額になるが、そうしたプレミアムを共有してくれる用船者や荷主とプロジェクトを組むことで、半歩先を行くEX船隊を徐々に整備し、差別化を図りたい。早ければ2030年代前半にそうした形に船隊が置き換わっていけば良いと考えている」

— 今後はコンベンショナルな重油焚きの船は発注しないのか。

「基本的には発注しない方針だ。ただ、カーボンニュートラルの船の整備をいきなり進めるのではなく、まずは帆の搭載をはじめとするEX仕様のエコな船に代替していく。また、当社は2050年のカーボンニュートラルに向けたトランジションとしてLNGもEXの範疇に含めており、LNG船事業は今後も重点分野として手掛け、エネルギーの安定供給の責任を全うする」

■従来型ビジネスは子会社で拡充

— 事業モデルの変革を図ることで、従来型のトレーディングのボリュームは徐々に減少することになるのか。

 「トレーディングはしっかりと継続する方針で、顧客を大事にしていくことに変わりはない。トレーディング事業は、昨年までに中古船や用船仲介ビジネスを当社から子会社のMCシッピングの営業部隊に移管しており、当社からの出向者とMCシッピングの社員が一丸となって業務を行っている。それが形になってきたので、船舶部本体で手掛けていた新造船のトレーディングも4月1日付でMCシッピングに移管し、今後は新造船も船舶部の出向者とMCシッピングの社員が共同で担う。MCシッピングの社員を拡充して充実化させることによって、今まで以上に専門性や質の高いトレーディングを目指していく」

「商社は縦割り意識が強いが、EXやDXは横串を通して縦横双方でビジネスをつなげなければならないので、トレーディングを含めた従来のビジネスはMCシッピングに移して拡充し、船舶部では中長期的なビジョンに立った戦略として市場開発や次世代エネルギー輸送に一丸となって取り組む体制とした」

— MCシッピングはどのように事業を拡充していくのか。

「MCシッピングはもともと三菱商事の船を保有・運航する子会社だが、今年4月にシンガポール子会社のダイヤモンド・バルクキャリアーズ(DBC)をMCシッピングのシンガポール支店に統合した。これまでは船主業・トンネージプロバイダーの三菱商事/MCシッピングと、オペレーターのDBCという棲み分けをしていたが、MCシッピングは今後、トレーディングを強化すると同時に、オペレーター機能を有する船主として、あらゆる顧客に幅広いサービス提供が可能な体制でやっていく」

「DBCを統合したのは、オペレーター業を主軸にして利益を上げるためではなく、次世代エネルギー輸送事業や従来の一般商船の保有・運航事業をより強化する機能として使うためだ。アンモニアやメタノールなど新燃料を輸送するにあたっても、運航業のノウハウの活用やそれに伴う最適船型の開発をわれわれが当事者となって取り組みたい」

■グループ連携や他社提携強化

— 船舶部とMCシッピングの人員体制は。また、MCシッピングでの人材採用・育成の考え方は。

「船舶部が約45人、MCシッピングが約75人だ。MCシッピングにはさまざまな機能を集約したが、MCシッピングとして積極的な人材採用を進め、専門性の高い人材を育成し組織を大きくしていく」

「船舶部は、市場開発チーム、船舶事業戦略推進チーム、LNG船プロジェクトチーム、次世代エネルギー船プロジェクトチーム、先進船舶開発チーム、経営管理チームの6チームで構成している。また、海外拠点としては、MCシッピングの支店としてシンガポール、ロンドンのほか、ギリシャ三菱商事がある」

— 他商社との連携についての考え方は。

​​​​​​​「当部で掲げる次世代海運事業は当社単独では発展し得ないので、商社だけでなく、造船所、船主、オペレーター、荷主なども含めて業界を挙げたさまざまな形での協業・アライアンスを積極的に考えていきたい。当社の強みを発揮できる部分と、当社にはない強みを発揮できるパートナーとウィンウィンの形でやっていきたい」
(聞き手:中村直樹、対馬和弘、松井弘樹)
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