2023年4月6日無料公開記事内航NEXT

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内航船員確保へ、取り組み活発に
【座談会】徳島県内航海運組合

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徳島県内航海運組合の理事の皆さん

 四国・徳島県は日本有数の船主集積地域の1つ。特に内航船主は県北部の徳島市や鳴門市、中部の小松島市、南部の阿南市を中心に100社以上いるとされる。船主らが加盟する徳島県内航海運組合は内航船員のなり手を増やすため、さまざまな活動を展開する。同海運組合の理事を務める内航船主の経営陣にその活動や徳島の内航船主の課題認識、解決策などについて語っていただいた。

 徳島県は内航海運の船どころとして名高い。吉野川や那賀川など川幅に恵まれた河川があり、材木や石材、砂利などを阪神地区に輸送するために船主業・海運業が興った。四国で最も阪神地区に近い同県は雑貨や化学薬品などの輸送も手掛け、海上輸送業で栄えていった。もともと地元の一次産業の輸送手段として誕生した徳島の内航海運だったが、徳島を拠点とするフェリーの登場もあって、1970年前後から内航船による地元貨物の輸送は下火となり、その代わりに、徳島の内航船は阪神地区や京浜地区のオペレーターが用船先となって運航されるようになり今に至る。
 徳島県内航海運組合(理事長=沖野雅信・沖野海運社長)は、日本内航海運組合総連合会(内航総連)に所属する最大組合の全国海運組合連合会(全海運)に属する四国地方海運組合連合会(四海連)の構成海運組合。1986年4月に運輸省(現・国土交通省)の内航海運構造改善指針に基づいて県下の地区組合を統合して誕生した。
 同海運組合は、徳島支部(支部長=渡辺慶太・三洋汽船社長)、徳島内航船支部(同=撫中大輔・末廣海運社長)、小松島支部(同=沖野雅信・沖野海運社長)、阿南支部(同=品川照・阿波海運社長)、阿南内航支部(同=村田泰・八重川海運社長)、鳴門支部(同=橋本勝仁・大洋海運社長)の6支部で構成される。四海連全体として活発な青年部の活動も、同海運組合が中心的な役割を担っている。

■組合員78社、鋼材船多く

 — 徳島県内航海運組合の加盟会社などの特徴を伺いたい。
 沖野雅信・沖野海運社長「2022年現在、当海運組合に加盟する組合員は78社。その内訳は船舶の貸渡事業者が67社と船主が最も多く、運送事業者が8社、利用運送業者が3社となっている。加盟する事業者数は毎年4〜5社減少する傾向にある。私の父の時代は事業者数が最も多い時期で、その頃は組合員が250社ほどあったと記憶している。その頃と比べ大きく減った。現在、組合員の合計船舶数は122隻・20万8191重量トン/立方㍍で、約8割が一般貨物船、残り2割がタンカー、セメント船、ガット船などだ。徳島県下の内航船の特徴は鋼材船が多いこと。他県と比べても2大鉄鋼メーカー向けに投入されている船が多い」
 — 海運組合としてどのような活動を行っているのか。
 渡辺慶太・三洋汽船社長「地元の海運組合として情報共有や政策提言の活動をしているほか、行政である徳島県と岸壁などの港湾利用について協議したり、県と内航総連が災害時船舶輸送協定を締結した際の橋渡し役、また、地元の学校などと協調して海事教育なども行っている。また、阿南地区に『ふなどころ阿南まちづくり協議会』(海運事業者を中心に金融機関や商工会議所などが連携して設立した組織。阿南市をふなどころのまちとしてブランド化を図る活動を展開)が立ち上がり、海事産業を盛り上げていこうとしており、当海運組合のメンバーも多数参加している。阿南市では2021年度に海技士を養成する学校(社会人などを対象に6級海技士を短期養成する尾道海技大学校徳島阿南校)も開校しており、それも大きな意味で当海運組合の活動になる」
 — 青年部の活動も活発ということだが。
 井村章吾・大寿海運専務「地元の夏祭りの時などにブースを設置して小さなお子さんや親御さんに船員の仕事や内航船を紹介したり、最近では海となじみの薄い山間部の小学校を訪問し、海上物流や船の仕事について授業をしたりといった活動を行っている。また、地元の水産系高校で将来船乗りを目指している生徒に向けて、地元造船所の進水式などの際に体験乗船する機会を提供したり、修繕ドックに入渠している船の見学会なども開催している。このように、さまざまなかたちで海運に関する周知活動を展開している」

■船員確保が共通課題

 — 徳島県の内航船主を取り巻く事業環境、課題として特に認識しているのはどのようなことか。
 村田泰・八重川海運社長「徳島の内航海運は地場産業でありファイナンスの面では金融機関からの理解を得られていると認識している。一方、課題は船員確保だ。事業者は明日船が止まるかもしれない、という心配の中で事業を運営しており、船員をようやく雇えたと思ったらすぐに船を降りていってしまうこともあって、一喜一憂するような状況だ。徳島県にはもともと水産学校があり船員の仕事は馴染みがあったのだが、今では工業高校と一緒になり、どちらかというと船員育成よりも養殖など漁業への人材輩出へとシフトしている。練習船もなくなり、そこには海技免状を取得できるコースがなくなってしまった。このため、徳島県内の船員供給源が細り、船主は県外に目を向けて船員を探しに行かなければならない状況にある」
 品川照・阿波海運社長「運賃がなかなか上がらないのは経営における課題の1つだろう。船員が不足している中、海運組合の活動の中でオペレーターなどへの陳情、協議をできればよいと思っている」
 村田「高齢化・少子化が進む中、若い人に船員という職業を選んでもらえるように、働き方改革を進める必要があるが、そのためにはオペレーターや荷主の協力が不可欠。船員の給料などコストが上昇する中で、そのサポートがなければ絵に描いた餅になってしまう」
 橋本勝仁・大洋海運社長「われわれが取り組んでいるモノを運ぶという仕事はなくならないと思っている。ただし、時代はどんどん変化しており、荷主の中でも国際競争力の強化や生産性向上、連携の必要性が叫ばれている。荷主やオペレーターがわれわれ船主に何を求めているかを今一度深く知りたいと考えている」

■グループ化を解決策の1つに

 — 船員不足の解決に向けて取り組んでいることはあるか。
 吉井茂・幸宝海運社長「徳島の船主2社と香川の船主1社の計3社が、船舶管理会社シーポートラインを立ち上げて計8隻に船員配乗する取り組みを行っている。3社の船を合わせることで50数人の船員を雇うことができ、これにより学校を卒業した若い人が毎年入ってくるようになっている。これは良い取り組みだと思う。各船主がそれぞれ船員を雇うのと比べてコスト面のメリットもある」
 — 船舶管理会社を通じグループ化することで、船員を雇用しやすい仕組みにしているということ。
 渡辺「シーポートラインの例で特徴的なのは、船主3社の船の投入先が同じオペレーターであって、船も同じ型船であることだ」
 吉井「徳島には大手鉄鋼会社向けに船を投入している船主が13社ほどあるといわれる。個人的な意見だが、同じオペレーター向けの船主が(船舶管理において)3〜4社でまとまってグループ化できるのであれば、それは1つの道だと思う。また、船員不足に対しては、船型の大型化も対策になるだろう。大型船であれば必要な船員人数は相対的に少なくなる。70歳代の船員も少なく、数年先までそのような人たちに頼るのは難しい。そのような中で船員を確保していくには、船舶管理会社を通じたグループ化や船型大型化の方向を向いていくことが解決策になるのではないか。大手鉄鋼会社が減産を決めている中、必要な船数も変わってくる。船主に対するオペレーターの質問は『(船員や船主経営者を含め)後継者がいるのか』ということだろう。この会社であれば船員を継続的に確保でき、船が止まることがないと、安心を得ることが大事だろう」
 — 他の徳島船主でもグループ化の取り組みはあるか。
 村田・渡辺「われわれの会社を含む5社で、船舶管理会社パートナーシップス徳島合同会社を立ち上げて予備船員をプールしている」
 浜高英樹・千羽海運社長「グループ化の取り組みは課題もあると認識している」
 渡辺「各社それぞれ歴史も背景も異なるので、グループ化するに当たって組織づくりは課題になると思う。新たに企業文化をつくっていくため、参加企業の価値観や意識を合わせていく作業が必要になる」
 — 他に課題として認識していることは。
 村田「大型船を建造していた地元造船所が1社無くなってしまったことで、修繕業者やメーカーが徳島に常駐せず、県外からの派遣でよいという判断にならないか気がかりだ。例えば、小松島港は水深が浅く外航船が寄港するのは難しいが、内航船の港としては重宝されている。せっかくそのような港があるので、『道の駅』のように、休憩や修繕などのために内航船が気軽に寄れるようになればと思う。荷役のために寄港する場所は(荷主企業の)プライベートバースであったりして、生活圏から少し離れている。せっかく船員になっても、お子さんが見に来る機会も少ない。小松島港を内航の拠点とすることで、船員交代の時などにお父さんが来るから船を見にいこう、というように船が目に触れるきっかけるになるのではないか。船員の働き方改革で今年4月1日から健康管理もより重要になるので、食事の提供でも機能を担えるだろう。内航に優しいオープンな港として小松島港が再注目されることを期待している」
 — 本日はありがとうございました。

内航船員募集のために作成したポスター

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