2022年12月7日無料公開記事内航NEXT
<内航NEXT>
《連載》内航海運事業者対談①
内外航一体、両輪で経営
青野海運・青野社長×宮崎産業海運・宮﨑社長
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宮崎産業海運の宮﨑昇一郎社長(左)と青野海運の青野力社長
内航船と外航船を一体運営し、内航船のオーナー・オペレーターである青野海運(本社=愛媛県新居浜市)と宮崎産業海運(本社=大分県津久見市)には共通点が多い。両社は内航海運業が抱えている課題として「若年船員が定着しないこと」「荷主への依存度が強過ぎること」「フリートが高齢化してリプレースが進まないこと」「環境対応の投資負担が重いこと」などを挙げる。青野海運の青野力社長と宮崎産業海運の宮﨑昇一郎社長に内航が抱える課題と将来展望について対談形式で語ってもらった。
<対談参加者(社名五十音順)>
青野海運 青野力社長
宮崎産業海運 宮﨑昇一郎社長
司会 日刊海事プレス副編集長 深澤義仁
■特色ある内航事業
― まずは両社の内航海運事業の現状をお聞きしたい。
宮﨑「内航船は現在、自社船3隻と長期用船5隻の計8隻になる。自社船は日本製鉄向けの石灰石専用船、トヨフジ海運向けの自動車船、近海郵船向けのRORO船で、いずれも10年以上の長期貸船契約に投入している。長期用船は499/799総トン型といった小型船が中心で、当社が直接契約する荷主向けの貨物輸送に従事している。当社が輸送する主な貨物は鉄鋼関係の副原料のスラグ、セメント、骨材、電力会社の石炭灰などで、それに加えて産業廃棄物の静脈物流などのニッチなビジネスを得意としている。つまり、当社は内航船のオーナー・オペレーターで、大型船では安定的な長期貸船業、自主運航の小型船はニッチな貨物や鉄鋼・セメント・電力関連の輸送をベースにしている」
「主要航路は瀬戸内を中心とする西日本と日本海だ。特に日本海航路に強く、フリー船が少ない同航路はニッチなマーケットだ。本社は大分県津久見市だが、内航の営業本部は荷主が多い北九州市に置いている。内航船員は50人強で、以前は60人くらいいたが、若い人が定着しないためなかなか増えない。当社に限らず、若い人が定着しないというのは内航海運業界にとっての大きな課題だ」
青野「当社の内航船事業はタンカー専業のオーナー・オペレーターで、運航船は1隻を除き無機工業薬品輸送用の耐腐食船とガス船に特化している。船隊構成は液体アンモニア専用船が1隻、硫酸専用船が7隻で、そのうち1隻はテフロンコーティングされた特殊船になる。それに加えて、耐腐食のゴムライニングが施された船が2隻、ステンレスタンクの互換積船が4隻、油脂専用ケミカルタンカーが1隻の計15隻を運航している。発注残は2隻あり、1隻は国内唯一の二硫化炭素の専用船で、興亜産業で来年1月頃に竣工する予定だ。もう1隻は液体アンモニア専用船を警固屋船渠で建造している」
「液体アンモニア専用船以外は全て499総トン以下の小型船で、輸送貨物はアンモニア、硫酸、硝酸、苛性ソーダ、液体硫酸アルミニウムなどだ。液体硫酸アルミニウムは水道や製紙会社などで大量に使われていて、水の汚れを吸着して沈殿させる凝集沈降剤になる。その他にポリ塩化アルミニウムがあり、これも用途は凝集剤だ。あとはリン酸、濃厚にがり、重亜硫酸ソーダなど、無機の工業薬品輸送に特化しているのが当社の特徴で、船の腐食が進みにくい材質の選定や洗浄方法、船員育成に企業ノウハウがある」
「また、有機ケミカルも一部手掛けているが、私が社長になってからは戦略としてケミカル事業を少しずつ縮小していて、最後の自社船も今年売却した。ただ、船はなくなったものの、引き受け貨物があるので、引き続き用船で輸送を行っている。同事業を縮小した理由は、無機も有機もやるとなると逆に特色が出せなくなるからで、われわれの祖業である硫酸を中心とした無機輸送分野に力を結集した方が持続可能な経営ができると判断した。全部やろうとすると逆に何もできなくなる。選択と集中という戦略は今後の内航海運事業者にとって非常に重要な考え方だと思う」
「主要航路は本社がある新居浜を基地とした瀬戸内海のラウンドや、九州から関東までの太平洋沿岸になる。最近は荷主の要望で北海道や東北、日本海航路も増えている。メーカーのプラントの集約や相互融通などによってそういった輸送需要が出てきているためで、今後も増えていくと思う。営業拠点は新居浜本社と東京の日本橋にある。船員は60人弱で、平均年齢は44歳くらいだ。年齢層も極端な偏りはない。資本関係はないが当社専属のマンニング会社もあり、これも含めると船員は80人規模になる。内航船15隻のうち4隻は船主からの用船だが、そのうちの2隻は当社専属の船主だ。ゴムライニング船、無機のステンレスタンク船、硫酸船の大半は不定期船として動かしているが、戦略上ここ数年はフリー船を減らし、荷主との長期貸船契約船を増やしている。油脂船は運航開始当初から長期TCアウトだ」
■荷主主導の業界
― 船員の平均年齢が青野海運は44歳とのことだが、宮崎産業海運はどうか。
宮﨑「当社の船員の平均年齢は20代が増えてきたため、36~37歳となっている。当社では毎年6~7人の新人を雇うが、すぐに何人かは辞めてしまうので、そこが大きな課題だ。20代の若手と60歳近くのベテランはいるが、中間層の40代が少ないのが問題。それは内航海運業界の一番の課題だ。ある会社では船長が67歳で機関長が29歳と親子ぐらい離れている例もある。外航ではそういうことはあり得ない」
― 両社は内航船と外航船の両方を手掛けているが、両部門の共通点と相違点は。また、外航進出後に内航から撤退する船主が少なくない中で内航を続けている理由は。
宮﨑「当社は2024年に創業100周年を迎える。戦前には鉱山業をやっていて、採掘した石灰石を販売していた。よく皆さんから、なぜ社名に“産業”が付いているのかと聞かれるが、それは当社がもともと販売業、商社業からスタートしたからだ。海運業は自社の貨物を運ぶ自家用船という発想からスタートした。当社は戦前からいろいろな商品を販売していたが、主として旧・日本製鐵(八幡製鐵)向けの石灰石販売で大きくなり、その輸送も自社で行って発展してきたが、太平洋戦争の影響でほとんど船が沈んでしまった。昭和20年代までは機帆船を持っていたが、その後鋼船を造り、30年代は経済発展に伴って需要が増えた石炭や鋼材等の自社貨物以外の輸送拡大を行っていた。40年代には地元の製材会社が南洋材の輸入を始めたのをきっかけに近海船に進出し、最大で6隻ほど運航した。50年代には遠洋の外航船にも進出したが、そのような流れの中でも内航船から撤退することは全く考えたことがなかった。当社は祖業の石灰石採掘業の貨物を運ぶところから海運業を発展させたからだ。内航はまず荷主がいて貨物が決まっているというのが基本だ。自社の貨物に関しては、昔は全て自社船で輸送していたが、採算面などから現在は用船が主体になってきている。逆に、自社船は大型の専用船で、TCアウトが主体になっている」
「外航と内航の違いは、内航は荷主が決まっていて、半分近くが特定荷主の専属船になっている。日本の人口は1億2000万人のため内航は限られた輸送量しかないが、外航は世界の人口80億人に対応した巨大なマーケットがあるので、必ずしも船と貨物が一致する必要がない。つまり、内航は基本的に荷主がいて荷物があり、その専属というパターンだが、これに対して外航は特定の荷主がいなくてもマーケットで用船料や運賃が決まっていくので、フィールドが全く違う。外航の場合は不動産と同じような投資業と捉えている人もいる。自分で貨物を持っていなくても投資対象として船を持つことができるが、内航ではそれはあり得ず、投機で船を造り差益目的でマーケットで転売するということはない。船腹需給も、内航はかつては海運会社が共倒れにならないように営業権などの規制があったが、昨年8月に内航海運暫定措置事業が終了し、外航船同様に建造自由化の時代を迎えた」
青野「当社の内航事業は第一にオペレーターとしての責任がある。貨物を運ぶために内航事業を行っているので、お仕事を頂いている間は投げ出してやめるということは考えられない。また、特に海外の方との会話で思うのは、内航事業の存在が外航船主としての付加価値になっていると感じる。外航一本ではなくて手広く事業をやっていることを評価して頂いているのだろう。企業価値を引き続き高めるためにも内航事業は継続していく方針だ」
「例えば、硫酸輸送事業は副産物を運んでいるという意味では静脈物流になるが、裏を返せば副産物処理のロジスティクスを維持しないとお客さまは生産ができなくなる事を意味する。従って当社の船は顧客の生産工程に完全に組み入れられており、そこは原料輸送と同じだ。船がなければプラントが動かない。特にわれわれは瀬戸内の硫酸で一定のシェアがあるので、当社船が急に止まったら荷主だけでなくその顧客を巻き込んで大混乱になる」
「さらに言うと、われわれは住友グループにお仕えする会社として新居浜の地で生まれ育ったので、住友グループが掲げる自利利他公私一如の精神が刷り込まれている。これは今でいうSDGsの精神に他ならない。だから、しんどいからやめるではなく、いかにして調和をとりながら安定的に続けていけるか、みんなでハッピーになれるかという考え方で事業を続けてきた。特にわれわれに期待されている耐腐食船には拘ってやっていきたいという気持ちだ」
「当社が内航と外航を手掛ける中で気付いたのは、両部門が一定の規模になれば相乗効果が生まれるということだ。内航と外航のマーケットは全く異なるので、2016年頃の外航大不況の時もどん底経営にはならずに済んだ。外航が厳しくても、内航の仕事があることでわれわれは大いに勇気付けられた」
― 内航と外航の相乗効果について宮﨑さんはどう考えるか。
宮﨑「内航と外航は両輪だと思う。外航はマーケットに左右されるが、内航は荷主が存在し続ける限り安定している。反対に内航は荷主がいなくなったり、工場が閉鎖されると大変なことになる。一方、当社は外航と内航が完全に分かれていて、船舶管理会社も違う。内航、外航共に全て自社管理で、第三者には一切触れさせていない。ただ、内航船と外航船の船舶管理が比較できるのはメリットで、相乗効果もある」
青野「われわれ固有のやり方として、まず内航船はほぼ毎年のペースで建造している。そのメリットは、外航船の用船契約の買船オプション(PO)行使などで急に相当な利益が出た際に、内航船の優遇税制を使って税務コストを圧縮しやすいことが大きい。外航船に再投資となれば新造船が出てくるまでに時間がかかるし、資金額も大きいので急な案件は難しい。外航船は売船ペースが内航よりも速いので税務コストが膨らんでしまうリスクがあるが、内航船を定期的に建造することでリスクヘッジが可能だ。ただし、これは内航貨物輸送の裏付けがあって初めて実現できる」
「一方、内航と外航ではリスクの質が全く違う。最も分かりやすいのは今回のウクライナ戦争の影響で、内航船は燃料油価格が上がるなど間接的な影響だけだが、外航船はミサイルの被弾などの当事者になり得る可能性がある。世界には戦争リスクが常に傍にあり、それを考えなければいけないだけでもリスクの質が全然違う。また、内航と外航では動くお金の量と船を動かす労力が全く違う。共通点は海洋汚染防止や環境規制で、これは内航も外航も全て同じだ。社会的責任も一緒だ。われわれはタンカー船社なので、外航と同等の船舶管理レベルを要求されている。ISMコードをはじめ、OCIMF(石油会社国際海事評議会)のSIREプログラムやTMSAの概念が日本語訳されて内航にも反映されつつあり、それに加えて荷主ごとの独自ルールもある。われわれが保有しているハンディマックスといった外航のバルカーと比べても内航タンカーは厳しいレベルの対応が必要と感じている」