2022年9月26日無料公開記事内航NEXT
内航海運の脱炭素化
《連載》内航海運の脱炭素化(下)
電動船の適用範囲拡大が焦点
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内航海運の2030年のCO2排出削減目標(13年度比17%削減)は、既存の技術を組み合わせることで達成できると考えられている。その後の排出削減目標は未定だが、国土交通省海事局の「内航カーボンニュートラル推進に向けた検討会」のとりまとめでは、日本全体の2050年のカーボンニュートラル目標に向けて「LNG燃料船、水素燃料電池(FC)船、バッテリー船の実証・導入など、将来を見据えた内航海運への代替燃料の活用などに向けた先進的な取組の支援を行っていく必要がある」としている。内航船では、外航船の有力ソリューションとされるLNG、アンモニアなどのガス燃料船の導入が大型船など一部に限定される見通しの一方、外航船では難しいとされるバッテリー船・水素FC船などの電動船のポテンシャルが大きい。完全電動船は現在の技術では短距離航行の小型船に限られ、これを技術の進歩によって汎用小型船や中型船まで広げられるかが内航海運の脱炭素化の大きな焦点になる。
「内航カーボンニュートラル推進に向けた検討会」のとりまとめでは、現時点で数値目標のない2030年度以降の内航海運からのCO2排出削減について、連携型省エネ船の発電機をバッテリーや水素FCに置き換えたり、既存のディーゼルエンジンでも使用できるバイオ燃料への切り替えなどでさらなる排出削減が可能としている。一方、海事局は水素、アンモニア、LNG(再生メタン・バイオメタンを含む)、水素FC、バッテリーなどの代替燃料船が内航船でも2030年以降に導入されると想定している。
ブリッジソリューションの柱に位置づけられるLNG燃料船では、内航貨物船で初の同燃料船“いせ みらい”が2020年12月に竣工。商船三井グループが発注したLNG燃料フェリー4隻が今年から竣工するなど、内航船でも導入が本格化。LNG燃料内航自動車船なども検討されている。外航船で導入が進むLPG焚きLPG船の内航船での開発も進められている。一方、将来のゼロエミッションである水素燃料、アンモニア燃料は、先行して商用化される外航船で確立した技術やインフラを利用する形で内航船にも導入されていく見通しだ。ただ、LNG、水素、アンモニアなどのガス燃料は重油燃料と比べて燃料タンクの容積が大きくなり、搭載スペースの制約から内航船への導入は大型船など一部に留まると見られている。燃料転換による追加コストの負担が相対的に大きいことも内航船への導入のネックになる。
そのような中で、内航船の脱炭素ソリューションの本命として期待されるのがバッテリー船・水素FC船だ。これらの船舶は、現在の技術ではエネルギー密度、積載スペースなどの問題で小型船や短距離航行船に限られるが、海事局は「バッテリーは現在陸上分野で猛烈な開発と設備投資が行われており、今後コストが急激に低下してエネルギー密度が高まっていくことが期待される」(海洋・環境政策課)として、技術の進歩によってガス燃料化が難しいとみられる中型の内航船まで適用範囲が広がることを期待する。特に内航船約5200隻のうちの3割を占める100~400総トン台の汎用船のソリューションの行方が内航海運の燃料転換の方向を大きく左右する。
船舶の電化は、CO2排出削減だけでなく、騒音・振動低減による船内の労働・生活環境改善や、機関関連業務を中心とする業務負担軽減・省力化といったメリットも見込まれ、内航海運業界の最大の課題である船員の確保育成にも貢献すると期待されている。
完全電化船は小型旅客船で実現していたが、旭タンカーがe5ラボと共に進めてきた完全電化タンカー2隻のうちの1番船“あさひ”が今年3月に竣工したことで大きく前進した。
ディーゼルエンジンとバッテリーのハイブリッド推進船では、内航貨物船で初のケースとして向島ドックが保有、NSユナイテッド内航海運が運航する“うたしま”が2019年2月に竣工した。同船は通常はディーゼルエンジンで航行しながら軸発電機でバッテリーを充電し、陸上の電源供給設備からの急速充電も可能。港湾内航行時の推進力と停泊時の船内電力をバッテリーでまかなうことができる。向島ドックとNSユナイテッド内航海運は、さらに進化したハイブリッド推進船を24年に小池造船海運で建造する。ハイドブリッド推進船でも、技術の進歩によってバッテリーのみで航行できる距離が伸び、完全電動船に近づいていく見通しだ。
海事局は内航環境先進船舶の普及に向けて、環境省、経済産業省・資源エネルギー庁と連携して開発と建造を支援。また、ガス燃料船の安全ガイドラインの策定などの環境整備を進める。一方、内航環境先進船舶の導入には荷主の協力が欠かせない。海事局は「内航海運の3大貨物の鉄鋼、石油、セメントはいずれもCO2の排出量が非常に多いセクターのため、脱炭素に対する真剣度が非常に高い。荷主から見てスコープ3(事業者の活動に関連する他社の排出)、コストセクターにあたる物流部門からの排出についても、今後重要性が高まっていくだろう」と見ており、荷主のモチベーションを高める施策を推進する考えだ。
内航船の代替燃料の適用可能性(内航カーボンニュートラル推進に向けた検討会とりまとめより)