2022年9月22日無料公開記事内航NEXT 内航海運の脱炭素化

<内航NEXT>
《連載》内航海運の脱炭素化(上)
「連携」と「支援」で排出削減

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リチウムイオン電池搭載型内航鋼材船“うたしま”

 内航海運の低・脱炭素化に向けた取り組みが本格化する。国土交通省海事局は内航海運のCO2排出削減目標を2030年度に13年度比17%削減とし、その達成に向けて次世代省エネ船の開発・普及を推進するとともに、日本政府の2050年カーボンニュートラル目標に向けて代替燃料船などの先進的な取り組みを支援する。外航海運のCO2排出削減が規制を導入して技術開発を促す手法をとるのに対し、国交省は内航海運の排出削減については荷主、オペレーター、船主、造船所、舶用機器メーカーなど関係者の連携促進による省エネの深掘りと環境対応船の開発・建造支援を柱として進めていく考え。

 外航海運のGHG(温室効果ガス)排出削減はIMO(国際海事機関)で目標と手法を定めているが、これに対して内航海運の排出削減は各国で対応することになっている。日本の内航海運のCO2排出量は国内運輸部門全体の約5%で、日本全体の排出に占める割合は1%弱。一方、内航海運はトラック輸送などと比べて単位輸送当たりのCO2排出量が少ないことから、環境面での重要性がますます高まっている。従って、内航海運は今後自らのCO2排出を削減しつつ、モーダルシフトの受け皿となって運輸部門全体の排出削減に貢献する格好となる。
 内航海運のCO2排出削減目標は、政府の「地球温暖化対策計画」に基づいている。昨年10月に5年ぶりに改訂された同計画では、日本全体で2030年度に13年度比46%削減を目指すとし、運輸セクターについては従来の27%削減を35%削減へ目標を引き上げた。このうち、内航海運は2030年度の目標を従来の157万トン削減から181万トン削減(13年度比17%削減)に積み増した。
 国交省海事局の「内航カーボンニュートラル推進に向けた検討会」の昨年末のとりまとめでは、内航海運の2030年度のCO2排出削減目標達成と日本の2050年のカーボンニュートラルへの貢献という2つの目標を達成するため、船舶のさらなる省エネと代替燃料の活用などの先進的な取り組みの支援を行うとした。
 海事局は内航海運のCO2排出削減の課題について、中小・零細企業が多く新技術や代替建造への投資余力が乏しいこと、陸上輸送と競合するため海運だけ規制を強化すると運輸部門全体のCO2排出が増えてしまう恐れがあること、外航船と比べてサイズ・航路・船種などがバラエティに富み、それぞれ適用可能な技術が異なるため事業者にとって対応の選択肢や時間軸が見通しにくいといったことを挙げる。こういった業界特性を踏まえて、海事局は内航海運の脱炭素化の軸足を、荷主を含む関係者の連携促進と環境対応船の建造・開発・普及支援に置く。
 海事局は船舶のさらなる省エネの具体的な施策として、搭載機器・システムなどを例示した「連携型省エネ船」のモデル船を代表的な船種・船型で開発して普及を図る。国交省は連携型省エネ船の開発・普及に向けた検討会を6月に発足し、開発の対象船種などを選定した。連携型省エネ船を構成する主な技術は、最適運航支援システムやバッテリーによるハイブリッド推進と船内電力供給、停泊時の陸上からの電力供給など。伝統的な省エネ手法である船型改良についても、海事局はまだ改善の余地があるとみている。
 脱炭素と双璧の船舶技術開発のテーマである自律運航船につながる技術も、例えば荷役・係船設備の電動化・自動化が荷役・離着桟時間の短縮につながるなど、脱炭素にも寄与すると考えている。陸上からの電力供給は、国交省港湾局が進めるカーボンニュートラルポート(CNP)とも連携して陸上設備の整備と合わせて進める。海事局は既存船でも小規模な電圧のものであれば陸電設備を搭載できると考えている。
 連携型省エネ船の建造・普及支援として、建造コストの上昇分の一部の補助や、鉄道建設・運輸施設整備支援機構(JRTT)の船舶共有建造制度の金利優遇に組み込むことを検討している。
 連携型省エネ船の「連携」の意味について、海事局は「内航船の省エネを、船主、オペレーターだけではなく荷主、造船所、舶用機器メーカーといった関係者が連携して進めていくという思いを込めた。単独の取り組みによる省エネの余地が小さくなっていく中で、関係者が連携することでさらなる省エネの余地を見つけて深掘りしていく」(海洋・環境政策課)と説明する。
 内航船の省エネに向けた施策のもう1つの柱が省エネ性能の見える化。国交省は内航船の省エネ性能とCO2排出削減効果を評価して格付を付与する「内航船省エネルギー格付制度」(最高は星5つ)を運用し、これまでに計81隻に格付を付与している。事業者からの申請に基づく任意の制度だが、国交省は同制度を活用して荷主、用船者、船主、造船所などが燃費性能の高い船舶を使う・建造するインセンティブを高めたい考えだ。
 荷主はエネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)に基づいて自らの貨物の物流によって発生するCO2排出量を毎年報告することになっているが、排出量の算定に用いる標準原単位を輸送船の省エネ格付に応じて変更できるようにし、省エネ船を使うほど排出量の算定上有利になる仕組みの導入を検討。また、連携型省エネ船の標準船型に最初から格付を付与することや、既存船の格付取得時の事業者負担の軽減など、より格付を取得しやすい環境を整備する方針だ。
 海事局は内航海運事業者の省エネ運航のベストプラクティスを調査して横展開することも検討している。
 海事局は連携型省エネ船の普及を2023年度以降進め、既存船も含めた全船で運航時に平均約3%の省エネを行えば2030年度の内航海運の排出削減目標を達成できると試算している。

連携型省エネ船等のロードマップ(内航カーボンニュートラル推進に向けた検討会とりまとめより)

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