2022年8月30日無料公開記事内航NEXT

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー⑪
新技術で働き方改革や脱炭素への対応を
内航海運研究会・石黒一彦代表

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 内航海運研究会は、大学の研究者たちが立ち上げて、10年以上、内航の問題に取り組んできた。昨年代表に就任した石黒一彦神戸大学大学院海事科学研究科准教授(写真)にこれまでの活動を聞くと、「船員問題、カボタージュ、モーダルシフトの3点が研究対象として長かった」と語った。今後の内航業界については、「新しい技術を理解して導入し、働き方改革や脱炭素という世の中の流れにどう対応して事業を進めていくかが課題」との考えを示した。

 ― 内航海運研究会の概要について聞きたい。
 「当研究会は、わが国の内航海運の継続的な研究体制を確立するという趣旨の下、2010年4月に発足した。当時、流通科学大学の森隆行教授(現名誉教授)が発起人になって、同志社大学の石田信博教授(現名誉教授)、大阪商業大学の松尾俊彦教授、広島商船高専の永岩健一郎教授、流通科学大の李志明准教授、私がメンバーとなって始めた。その後、流通科学大の田中康仁准教授も加わり、最近は関西大学大学院社会安全研究科博士課程の竹本七海さんも参加して活動を続けている。長く森教授が代表を務めてきたが、昨年、代表を引き継いだ。活動には、日本内航海運組合総連合会、内航海運安定基金、山縣記念財団から支援を受け、内航海運に関する研究成果を年に1度まとめている」
 「発足当時、他のメンバーもそうだが、私も内航海運を専門的に研究しているわけではなかった。主に外航で、港湾政策が貿易や海運に及ぼす影響を研究していた。それまでの延長線上で内航の分析を始めた」
 ― 研究会は、これまでどういう研究をしてきたのか。
 「毎年、共通テーマを何にするかというのを議論して研究するが、研究対象として長く続いたのは、船員問題、カボタージュ、モーダルシフトの3点だ」
 「最初は船員問題から入って、船員問題を考える上で外国人船員の問題も考えるようになり、カボタージュにも範囲を広げた。環境問題やトラック・ドライバー不足問題からモーダルシフトも研究として重要性が高まってきた。船員問題は、2010年代前半に業界でかなり危機感が高まっていた時代だった。その後、20代の若手の船員採用が増えたので、見通しが明るくなってきた。そういった時期に、どうしたらいいのかという視点と、このまま船員不足が本当に深刻化したらどこにどういうダメージがいくのかという視点との両面で、研究会全体で取り組んできた」
 ― モーダルシフトについてはどうか。
 「働き方改革というキーワードがあり、昨年、海事産業強化法が成立して、そこからの動きは前向きな方向になっていると思う。ただし、内航業界だけで応じられることは難しいので、荷主の協力を得ながらでないと難しい部分もある。幅広い枠組みで議論していってほしい。内航海運を活用する企業が内航海運にどのような目を向けるかが大事だ。働き方改革を進めると、さらにコストアップになる場合もあるし、船員を増やしたり、新技術を導入してサポートする場合もあって、いずれも全体で考えなくてはいけない大きな話になってくる」
 「また、モーダルシフトは脱炭素化の流れでもある。メーカーも脱炭素化に対する意識が高まってきている。自社の工場だけでなく、サプライチェーン(SC)全体でCO2をどれぐらい排出しているかを考えなくてはいけない。SCの中には必ず輸送が入ってくる。メーカーとしては、輸送でどれだけCO2を削減できるかを意識せざるをえない」
 「働き方改革や脱炭素を考えると、モーダルシフトを活用しようというムードは高まっている。持続可能な社会の中で、内航が適切に維持されて発展していく仕組みになっていけばいいと思う」
 ― 今後、内航業界に期待することは。
 「働き方改革、脱炭素が求められ、自律運航といった新技術が出てくる中で、船のリプレースを今までよりもペースを速めないといけないのではないかと思っている。新しい技術を理解して導入し、働き方改革や脱炭素という世の中の流れにどう対応して事業を進めていくかが課題かだ。どう変わっていくか期待して見ている」
 ― それが新しい内航に変わっていくということか。
 「もちろん、今までのやり方が悪いということではなく、今のやり方が適している部分もある。今までと全く変わってしまうという話ではなくて、変わっていかないといけない部分はあると思うので、うまくシフトしていってほしい」
(聞き手:坪井聖学)

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