2022年8月18日無料公開記事内航NEXT
《連載》内航キーマンインタビュー⑨
安全運航に取引関係改善が不可欠
昭和日タン 筒井健司社長
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石油製品の内航海運事業を主力とする昭和日タンは、白油船を中心に90隻の船隊を運航している。カーボンニュートラルの取り組み目標の節目である2030年に向け、20隻程度ある船齢20年超の高齢船のリプレースを進める方針で、代替建造に合わせ環境対応船の導入も図る。同社は2020年から「パートナーシップ構築宣言」に賛同しており、筒井健司社長は「安全運航を徹底するためには、取引関係の改善は必要不可欠な取り組み」と語る。働き方改革や取引環境の改善などに向け、荷主や船主などサプライチェーン全体で協力関係をさらに深めていくことを目指す。
■高齢船約20隻を順次代替
― 内航事業の船隊と主要貨物の現状は。
「ENEOS、出光興産、INPEXなど国内の多数の石油会社向けの石油製品輸送を担っている。現時点で白油船44隻、黒油船17隻、潤滑油船17隻、その他にアスファルト船、LPG船、ケミカル船など12隻があり、合計90隻を運航している。船の高齢化や輸送需要の低下などから白油船はやや減少したが、潤滑油船は増加している。製油所の統廃合を背景に転送需要が増えたためだ。2021年度の輸送量は白油船が約1516万kl(キロリットル)、黒油船が約238万kl、潤滑油船が約44万kl、その他船舶が約152万klにのぼった。発注残は5000kl型、2000kl型の白油船2隻で今年度竣工予定だ」
― 自社船を一定数持つ方針を取っている。
「船隊90隻のうち自社船は現在9隻で、今年度竣工予定の新造船2隻のうち1隻も自社船となる。営業資産を持つという側面に加え、自社船を保有することで船の新造や船員育成におけるノウハウを伝承することが可能になるため、一定数の自社船は必ず必要だと考えている。ただ、船員不足の問題などがある中でどの程度維持していくかは検討が必要だ」
― 今後の船隊整備の計画は。
「カーボンニュートラルに向けた取り組み目標の節目である2030年を一区切りとした場合、船齢20年を超える高齢船が20隻程度出てくることが見込まれ、これらを中心にリプレースを検討する。当社の主力である5000kl型や2000kl型の白油船を中心に、荷主と密接に連携を取りながら将来の輸送需要も見据え、慎重に対応していきたい」
「かつては船の寿命が耐用年数の13年だった時代もあるが、現在では25年くらいと長寿命化している。一方、15年を過ぎると修繕費負担が非常に大きくなるので、長期を見据えて新造し採算が取れるかどうかを見極めながら検討する必要がある。また現在、新造船価が今年竣工する船に比べ1.4倍程度に高騰している。内航船は需要に応じて配船を変更するなどのやりくりができず、その向け先も限定的だ。国内で使用できなければ海外へ売却するしかないため、新造整備は船価やタイミングを見ながら考えたい」
― エネルギー転換に向け新規参入を考えている分野は。
「アンモニアの輸送需要が旺盛になれば当社もLPG船で対応可能であるため取り組みたい。また、白油船では水素キャリアのMCH輸送のトライアル実績が複数回ある。需要に応じて検討していく」
― 営業拠点や人員構成は。
「東京本社のほか、苫小牧、鹿島、根岸、知多、水島、麻里布、大分で安全管理を実施している。内航の営業や運航業務は本社で行っており、従業員数は外航部門や間接部門を含めて74人。また、昨年までにグループ内の船舶管理会社3社を昭和日タンマリタイムに統合した。船員170人を抱えている」
■新技術は費用対効果に期待
― 環境対応に向けた取り組みとして新技術の導入は。
「内航分野では燃料供給船でEV船が就航している例があるが、内航タンカーの主力である5000kl型や2000kl型では現在、新燃料を採用し安定的な運航が可能な主機などの開発が行われている段階。国土交通省の『内航カーボンニュートラル推進検討会』などの検討結果を参考にしつつ、リプレース建造に合わせて環境対応に取り組んでいく方針だ。荷主との相談を継続しながら、費用対効果が高く長期的に運用可能な技術が出てくれば採用していきたい」
「船員の労働環境改善に向けた荷役の自動化技術や自動運航技術などについても、机上の有効性の判断のみならず、現場の乗組員の意見やニーズを広く聞きながら導入を検討していく」
― 内航事業の重点課題は。
「石油製品は危険物であるため、最優先かつ重点課題は安全運航であることに変わりはない。また、国民の生活に密接に関係するものでもあるため、安定輸送にも徹底的に取り組んでいく」
「当社は2020年秋に中小企業庁が導入した『パートナーシップ構築宣言』に内航業界でいち早く賛同した。取引先との望ましい取引慣行を遵守し、サプライチェーン全体での共存共栄の構築を目指すもので、安全運航を徹底するためには取引関係の改善が不可欠な取り組みだ。現在、船主との間でパートナーシップ会議を開催し、船員問題や適正なコストに対する考えなど対話しており、信頼関係のさらなる強化などにつながっている。今年、石油元売り大手3社も宣言した。船主の意見を荷主と共有しながら、環境改善に向けサプライチェーン全体で取り組んでいきたい」
― 内航海運業界の重点課題や、それに対する取り組みは。
「今年4月に海事産業強化法が施行され、船員法や内航海運業法が改正された。『働き方改革』『取引環境の改善』『生産性の向上』への取り組みが大きな柱だと考えている。実現に向け荷主に理解と協力を強く求め、協力関係を強固にしていくことが最大の課題になろう」
「コロナ禍や脱炭素に向けた社会的要請により石油需要の減少は避けられない一方、国内では電力の安定供給を目的に政府が即効力のある火力発電所の再開を要請するなど依然として石油への依存度は高い。裏腹ではあるが、国内の石油製品輸送の主力である内航タンカーは引き続き重要な輸送モードだ。その前提に立ち、荷主のニーズに応え安全、安定的な海上輸送を確保するため、船員の働き方改革を進め安定的に人材を確保する必要がある。その対応策として、取引環境の改善に歩みを進めていけるのではないか。また、リプレース建造など持続可能な事業運営ができるよう取引先への適正なコスト負担もお願いしながら、輸送や経営のさらなる効率化を図っていきたい」
(聞き手:深澤義仁、横川ちひろ)