2022年7月20日無料公開記事内航NEXT
<内航NEXT>
コンセプトシップの建造に注力
内航ミライ研究会、労働環境改善やGHG削減を実現
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浦山秀大代表理事
内航ミライ研究会は15日、広島市内で意見交換会「内航のミライ2022」を開催した。同会はデジタル技術を組み合わせて内航海運の課題解決という目的を達成するための情報システムを構築する組織「シップス・インテグレーション・マネージャー(SIM)」を目指しており、今年度はSIMのコンセプト船となる「SIM SHIP(SIMシップ)」の建造に注力していく方針だ。対象船舶は499総トンの貨物船で、山中造船が建造し、実証フィールドの提供として今治市、アドバイザーとして海上技術安全研究所が建造事業に参画する。国土交通省が提唱する連携型省エネ船のコンセプトを踏まえ、温室効果ガス(GHG)削減技術を中心に最新機器の開発と搭載を進めていく。浦山秀大代表理事(雄和海運代表取締役)は、「皆さまの力を借りながら、ビッグプロジェクトであるSIMシップの建造を進めていく」と述べた。
内航ミライ研究会は2020年10月に一般社団法人として発足した。現在は船主や舶用メーカー、IT企業、設計会社などを中心に会員数が54社、個人会員を含め62人が参加する。オブザーバーとして海上技術安全研究所や、鉄道建設・運輸施設整備支援機構、日本海事協会が参画する。今年度は、開発、プロジェクト、IoT、船員労務の4グループが活動し、計13事業を展開している。特に大きなプロジェクトとなるのがSIMシップの建造だ。今年から来年にかけて建造していく予定となっている。
SIMシップの建造事業は、環境省による2022年度の地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業として採択されている。国交省が提唱する連携型省エネ船のコンセプトを踏まえ、スラスタ・ウインチと連動した統合制御パネル「ミライパネル」や、小容量の蓄電池システム、電動ハッチカバーと電動ウインチ、陸上サポートシステムとしてセンサー情報を統合表示して正常性などを確認する「ミライヘルスモニター」、新型スラスタなどの最新機器を開発・搭載していく方針だ。
運航時の推進性能を最適化することで、運航時のCO2排出量を9%削減するほか、新型スラスタにより離着桟時間とバラスト調整時間の短縮を図り、離着桟で4%のCO2削減効果を見込む。停泊・荷役については、蓄電池システムの搭載により、50~100%のCO2削減効果を目標とする。蓄電池システムはe5ラボとの共同調達で搭載する予定だ。船全体としてCO2削減率12%以上を目指すほか、船員の労働環境改善にもつなげていく。
曽我部公太専務理事(SKウインチ社長)はSIMシップの建造を通じて、「船舶の価値向上を図り、(内航業界を)持続可能な業界にしていきたい」と話す。畝河内毅理事(イコーズ代表取締役)は、「SIMシップの使い勝手や不具合を検証し、安全性の評価もわれわれで行っていく。内航の規制は多いが、船員の労働環境の環境改善に向けて、評価結果を踏まえて事業者とともに規制見直しの材料を提示していきたい。自動化の流れを内航にも呼び込むことで内航業界の課題を解決し、内航船員を魅力ある、働きたいと思われる仕事にしていきたい」と述べた。
今後はSIMシップⅡの検討も進めていく予定だ。内航ミライ研究が掲げる内航の未来に関する研究や、労働環境の改善・簡素化・合理化、荷役機器の遠隔化・自動化、カーボンニュートラルに対する取り組みを盛り込んだタンカー船を提案する計画だ。