2022年7月15日無料公開記事内航NEXT

<内航NEXT>
社会に不可欠な産業をサステイナブルに
人材確保・脱炭素などの課題に挑む

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 内航海運は日本の経済と社会になくてはならないインフラ産業で、トラックドライバー規制や脱炭素化で加速する見通しのモーダルシフトの受け皿となることも期待されている。内航海運業界は船腹調整事業の内航海運暫定措置事業が昨年終了する一方、船員の働き方改革に向けた新制度がこの4月にスタートするなど大転換期にあるが、その中で業界は船員の確保育成と低・脱炭素化対応を含めた船隊のリプレースを進めていかなければならない。日刊海事プレスは、重要な内航海運業界を応援するキャンペーン「内航NEXT」を開始し、内航に関する記事を紙面で展開するとともにセミナーなどを開催する。

■船員問題が最大の課題

 国内輸送機関別輸送量に占める内航海運のシェアは輸送量では7%だが、輸送活動量(トンキロベース)では42%と自動車の52%に迫り、長距離・大量輸送の主要な輸送機関を担っている。主要貨物は石油製品、石灰石、鉄鋼、製造工業品、セメントなどで、これらの産業基礎物資9品目の輸送量が9割近くを占めている。内航貨物輸送量は日本経済の成熟化を背景に1990年をピークに減少し、近年はピーク時の7割程度の水準で横ばい推移している。
 内航船の隻数は2021年3月末時点で5212隻・397万7414総トン。船種別の内訳は、その他貨物船3547隻、土・砂利・石材専用船438隻、セメント専用船141隻、自動車専用船22隻、油送船991隻、特殊タンク船330隻となっている。内航船の隻数は1990年代に入ってから減少の一途を辿っているが、総トン数はほとんど変わっておらず、これは船型の大型化が進んだことによる。内航海運は船型大型化によって効率性を高めながら国内産業の輸送ニーズに対応してきた。一方、内航船の船齢構成の推移をみると、14年以上の高齢船が1990年代は4割程度だったが、近年は7割近くに達して高齢化が常態化している。
 内航海運業者数も減少傾向が続いているが、減少の大半が貸渡事業者(オーナー)で、運送事業者(オペレーター)の数は大きくは減っていない。オーナーのうちの約6割が保有船1隻のいわゆる「一杯船主」で、後継者の確保難などから今後も減少が続く見通しとなっている。
 日本内航海運組合総連合会は2004年に「内航船の消える日が来る」という衝撃的なタイトルのパンフレットを発行。この中で、「長期下降を続ける内航運賃。そんな内航海運に、さらに追い討ちをかけるコストアップの波が次々と押し寄せてきています。もう、内航海運にはこれらを乗り越える余力がありません」と切実に訴えた。その後、運賃・用船料の一定の修復が行われたものの、内航海運のサステナビリティに対する懸念はまだ払拭されていない。
 最大の課題が、船員の確保育成。内航業界にとって古くて新しい課題だが、これまでは船舶の大型化や外国人化が進んだ外航船員の内航船への転職などで吸収してきた。業界と国土交通省、船員教育機関の努力で若手船員の採用数は徐々に増えているものの、船員不足は依然として続いており、ベテラン船員が退職を先延ばして現場を支える状況が続いている。2020年時点の内航船員2万1374人のうちの50%が50歳以上で、60歳以上も28%という高水準となっている。
 船腹調整事業の内航海運暫定措置事業が昨年終了し、内航船を自由に建造できるようになったが、日本内航海運組合総連合会の栗林宏𠮷会長は「内航海運は今や貨物よりも船員の確保が大前提であり、船員の数で船舶の数が決まる世界なので、投機的な船舶建造は起こり得ないと思う」と話す。
 内航船員の労働環境・条件を改善し若者にとっても魅力ある職場とするため、国土交通省海事局は過重労働対策などの「船員の働き方改革」を推進。その一環で、これまで船長が行っていた船員の労務管理を「労務管理責任者」を置いて陸上で行う新制度がこの4月からスタートした。
 もう1つの課題が低・脱炭素化への対応。国交省海事局の「内航カーボンニュートラル推進に向けた検討会」は、2030年度までの内航海運からの二酸化炭素(CO2)排出削減目標を、従来の地球温暖化対策計画の「13年度比181万トン減(約17%)」とし、そのための施策としてさらなる省エネを追及した船舶(連携型省エネ船)の開発・普及などを挙げた。さらに日本政府が掲げる2050年ゼロエミッション目標に向けて代替燃料船の導入支援に取り組む方針を示した。日本の内航船はアジアを中心に中古売船されるため、日本が低・脱炭素化を進めることは途上国の内航海運の環境性能の底上げにもなる。
 船員の確保育成も低・脱炭素対応を含む船舶の適切な更新にも、必要な運賃修復や船員の労働環境改善などに対する荷主の理解と協力が欠かせない。国交省海事局は今年3月に、内航海運事業者と荷主の役員クラスが直接対話する懇談会の第1回を開催。出席した内航業界関係者は、船員の働き方改革などに対して荷主側から理解が得られた感触を得たと話す。
 社会に不可欠な産業であるにも関わらず課題を抱える内航海運は、課題に対するソリューションを開発するスタートアップ企業を惹きつけており、ITを活用した船員の労務管理支援や採用・教育支援、航行安全支援を中心に内航海運向けの新たなサービスを提供するスタートアップ企業が増えている。国内外航海運大手も社会課題解決の観点や脱炭素化による新たな輸送ニーズなどを見据えて内航海運に再び注目しており、他業界とのコラボレーションが内航海運の課題解決の力になることが期待される。

■モーダルシフトの受け皿に

 国内物流の主力となるトラック輸送からのモーダルシフトへの対応も課題だ。足元では多くの産業でカーボンニュートラルに向けた機運が高まっており、今後はサプライチェーン全体で脱炭素化を目指す動きが加速していくと予想されている。既に国内物流においても、CO2排出量を削減するべく輸送モードの見直しを図る動きが出ている。フェリー・RORO船を使えば、トラック輸送に比べて輸送中に排出されるCO2が約5分の1になるとされており、フェリー・RORO船への注目が高まっている。
 また、2024年度から始まるトラックドライバーの時間外労働の上限規制強化への対応策としても、フェリー・RORO船の利用は期待される。同年4月からはドライバーの時間外労働の上限が年間960時間になり、トラックによる長距離陸送が難しくなることが懸念されている。代替輸送手段として鉄道と内航海運が選択肢としてあるが、鉄道は旅客と貨物が同一線路を使用しており、ダイヤの関係上、これ以上の貨物輸送能力を増強することが難しい。そのため、モーダルシフト需要の増加に対応するためには、フェリー・RORO船などの内航海運が鍵を握る。
 長距離フェリー関係者は、「モーダルシフトの受け皿を整備していかなければならない」と口を揃える。2015年以降は長距離フェリーの新造リプレースが相次ぎ、各社が大型化を実施したことで輸送能力を大幅に増強した。また、近海郵船が2019年に敦賀/博多RORO航路、東京九州フェリーが2021年に横須賀/新門司フェリー航路を新設するなど、新たなルートを構築する動きも出ている。新規航路の認知度は徐々に高まってはいるものの、「実際に切り替えが進むまでには時間がかかる。徐々にモーダルシフトが進んでいくだろう」(関係者)との見方も強い。
 一方で「荷主の中には、2024年問題や、輸送手段としてのフェリー・RORO船の存在を知らない事業者もいまだに多い。2024年問題について説明していくとともに、同問題のソリューションとしてフェリー・RORO船が有効である点を地道に啓蒙していく必要がある」(フェリー・RORO船関係者)といった声も上がっている。

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