2026年8月4日無料公開記事
挑戦の100年、実海域性能最適化へ
ナカシマプロペラ・中島崇喜社長インタビュー
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中島社長
創業100周年を迎えたナカシマプロペラ。外航商船向けの大形プロペラで約3割の世界シェアを持ち、近年は省エネ付加物や舵、船型開発を含めた統合最適設計にも取り組んでいる。足元では国内造船所の高操業に加え、海外案件や就航船向けレトロフィット需要が堅調に推移し、玉島工場もフル操業の状態が続く。同社の歩みを支えてきたのは、一品受注生産を貫くものづくりと、新たな挑戦を恐れない企業文化だ。中島崇喜社長は「100周年は通過点。これまでと同じように挑戦を続けながら、実海域での推進性能と操船性能の最適化に取り組んでいきたい」と語る。
■一品受注生産の姿勢貫く
― 創業から現在までを振り返り、最大のターニングポイントは。
「やはり2005年の玉島工場の建設だと思う。玉島工場の完成後に船舶の大型化や造船市場の拡大が進み、それに対応することができた。世界市場で高いシェアを獲得し、国際競争力を高めることにつながったという意味では、大きなターニングポイントだった。ただ、玉島工場だけを切り取って語ることはできない。当社は長年にわたりプロペラの大形化を追求してきた。100年の歴史を振り返ると、大形化に向けたさまざまな挑戦や失敗、ノウハウの蓄積があり、その集大成として玉島工場がある」
「個人的には2010年代前半のビジョン策定も大きかった。当時は中国や韓国の台頭で競争環境が変化していた。会社としてどこへ向かうべきかを議論し、社内メンバーや外部有識者とも話しながら1年ほどかけてビジョンを作り上げた。これまでの10年の取り組みはそのビジョンがベースになっている」
― 100年の歴史の中で変わらずに大切にしてきたものと、大きく変わったものは。
「変わらないのは一品受注生産の考え方だ。プロペラは船種や求められる性能によって全て異なる。顧客のニーズを捉え、それを形にするという姿勢は創業以来変わっていない。今はプロペラだけでなく、省エネ付加物や舵、船型開発など製品群は広がっているが、基本的なスタンスは同じだ。多様化するニーズや変化する環境に対して、顧客の求めるものを形にするという考え方は今後も変わらない」
「また、漁船からプレジャーボート、大型商船まで、あらゆる船に推進器を提供するという姿勢も変わっていない。玉島工場で製造する大形プロペラのイメージが強いかもしれないが、もともとは漁船用プロペラからスタートしている。さまざまな船に推進器を提供することも当社の強みだと思う」
「一方で、大きく変わったのはグローバル化だ。本社工場一拠点だった会社が、現在では海外に営業・製造拠点を持つようになった。本社でも中国、韓国、インドネシア、ベトナム出身の社員が働いているほか、グループ会社の独ベッカーマリンシステムズからの出向者も受け入れている。営業や設計だけでなく管理部門も海外との関わりが増えた。異なる文化や価値観を持つ人と議論することで学ぶことは多い」
■失敗を恐れず前へ進む
― これまでの環境変化や危機をどのように乗り越えてきたか。
「当社はあまり失敗を失敗と受け止めておらず、『経験』ととらえている。ベトナム工場も建設直後にリーマン・ショックが起きて、工場はできたが作るものがないという状態だった。当時は撤退しかないと思ったが、当時の社長で現会長の父・基善氏が『規模が中途半端だったからもっと大きな工場をつくる』と、撤退ではなく踏み込む判断をした。結果として現在の事業基盤につながっている」
「新規事業も同じだ。これまでゴルフクラブや水質改善装置など、さまざまな取り組みに挑戦してきた。思うような成果につながらなかったものもあるが、そこから学ぶことができれば意味がある。現在はグループの重要事業の一つとなっている人工関節も、外部からの『ナカシマの技術ならできるのではないか』という提案がきっかけだった。自分たちだけで考えるのではなく、『面白いですね、やってみましょう』と言えるかどうかが大切だ」
「M&Aや提携も同じだ。むやみに拡大しているわけではない。一歩前に出ることで新しい景色が見え、そこから次の展開につながってきた。まずはやってみるという姿勢は、これからも大切にしたい」
■国際競争力磨き次の10年へ
― 現在の事業環境と今後の市場見通しは。
「市場環境は非常に良い。日本の造船所は数年先まで受注を確保しており、当社もここ数年、過去最高の売り上げを更新している。玉島工場もフル操業の状態が続いている。国内向けに加え、大型船向けを中心とした海外案件や就航船向けレトロフィット需要もあり、受注環境は良好だ」
「ただ、中国をはじめ海外メーカーも積極的な投資を進めており、競争環境は年々厳しくなっている。日本市場が第一であることは変わらないが、海外市場でも勝負し続けなければならない。海外で競争力を磨くことが、結果として日本の造船業への貢献につながる」
― デジタル化や環境規制への対応については。
「次の10年を見据えた新ビジョンでは、実海域での推進性能と操船性能の最適化を掲げている。そのためには船の状態を把握するデータ活用が不可欠であり、デジタル化は重要なテーマになる」
「工場のデジタル化も継続して進めてきた。設備のネットワーク化や状態監視、工程の可視化などを行い、さまざまなデータを蓄積している。一朝一夕でできるものではなく、長年積み重ねてきた取り組みだ」
― 次の10年、その先を見据えた展望は。
「100周年を迎えたが、会社としては大きなターニングポイントというより通過点だ。顧客や造船所、船主、オペレーターをはじめ、業界の皆さまへの感謝を伝える節目ではあるが、会社としては次のステップに向けて進んでいる。今後10年の軸は実海域での推進性能と操船性能の最適化だ。そこに向けて製品開発やデータ活用を進めていく。100年続けてこられたのは、多くの方々に支えられてきたからこそ。これからも挑戦を続けながら、次の成長につなげていきたい」
(聞き手:岡部ソフィ満有子)