2025年5月16日無料公開記事今治発新技術
《今治発:新技術》
高効率の溶接工法を実用化へ
四国溶材、能率向上で造船業の人手不足に対応
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溶接能率の向上を図る新工法「HPF-MAG法」
四国溶材は、このほど開発した高能率なガスシールドアーク溶接法「HPF-MAG法(High Penetration Force MAG)」の実用化に向けた取り組みを進めている。溶接作業時間の大幅な削減が見込まれる工法で、現在、数社の造船所、鉄鋼関連企業と連携し、現場での施工の確認や、効果の検証などを進めている。平原司常務取締役は、「この工法により継手形状によっては溶接能率が大幅に向上すると見込んでおり、造船業の人手不足対策にも貢献できる」と力を込める。
この新たな溶接工法は、専用ワイヤと独自ブレンドの専用MAGガス、大出力インバーター溶接電源を組み合わせることで、従来のガスシールドアーク溶接法より高能率な溶接を実現するもの。溶接状態として、アークホール(アーク力によって溶融金属中に形成される穴状の溶け込み)が安定して形成されるため、溶け込みが深くなり、溶接自体も安定し、スパッタ(溶接時に飛び散る金属粒)も少ないのが特徴だ。
従来工法に対して、溶接パス数(回数)を大幅に低減できるのが特徴で、例えば板厚16㎜の片面突合せ溶接であれば、従来工法で5パス必要だったものが、1パスでの溶接が可能になる。
新工法は、同社と愛媛大学、溶接機メーカーのダイヘンとの連携で実現した。平原常務は、「当社と愛媛大学が共同開発した溶接ワイヤ、ダイヘン製の専用の大出力インバーター溶接電源、独自のシールドガスの3要素を組み合わせ、最適な溶接条件を構築した」と説明する。通常の溶接では、母材の深い部分まで溶け込む「深溶け込み」になると中央部に割れが生じやすいが、本工法では割れを防ぐよう改良した溶接材料を開発している。さらに、専用電源による深い溶け込みと、新たに設計した専用ガスの組成により、1パスでも安定かつ高品質な溶接が可能になった。
現在は造船関連企業3社で実用化に向けたテストを進めており、施工条件に応じた微調整を実施中だ。営業担当も現場に立ち会い、現場の声を反映しながら改良を図っている。各社からは前向きな反応があり、今後の導入に期待がかかる。
新たな溶接工法は高電流で作業者への負荷も大きくなるため、導入に向けては、一部作業の自動化を検討している。3社での実証においては、既存の溶接走行台車などを活用した省力化設備の開発・テストを進めている。大掛かりなロボット導入ではなく、使い慣れた機器を改造することで、現場の使い勝手を重視した実用的な自動化を目指している。
平原常務は、「従来にない溶接方法であるため、溶接作業中や、溶接部に異常や欠陥が発生したりすることがあってはならない。そのため、品質確認を含めた技術面での対応を重視している」と語る。創業78年で培った経験と技術力を活かし、現場ごとの課題に応じた信頼性の高い提案を行う方針だ。また、「海事都市・今治地域の造船業に貢献できるよう、材料の提供だけでなく、溶接に精通した技術者によるサポート体制も整えている」としている。
新たな工法は、国際海事展「バリシップ2025」でも紹介する。また、同展示会では新製品として「斜角脚長ゲージ YG-1」も展示する予定だ。造船所の現場での課題解決に向けて開発されたもので、従来ゲージではできなかった斜角の測定が可能。母材に押し当てるだけで斜角を測定でき、大掛かりなレーザー測定器に比べて測定が簡単で、コストも抑えられる。「手のひらサイズでポケットに収納でき、現場での使用も便利」(平原常務)と、造船所にPRを図る。
新製品「斜角脚長ゲージ YG-1」の使用方法