2025年5月15日無料公開記事今治発新技術
《今治発:新技術》
ゼロエミ船向け配電盤の生産体制強化
BEMAC、外航・内航のGHG削減ニーズに対応
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取り組みの主要拠点となるパワエレ試験棟「GIRD」
BEMACは、ゼロエミッション船向けの直流(DC)配電盤の量産体制の構築に着手した。外航船と内航船の両分野の温室効果ガス(GHG)削減ニーズに応えることが目的で、2028年から生産を開始する。小松優一執行役員イノベーション本部長は、「グリーントランスフォーメーション(GX)経済移行債などを活用し、各社が船舶の新燃料対応や電動化を進める中、次世代のエンジンや電力システムと調和する配電盤を提供し、ゼロエミ船の普及に貢献していきたい」と語る。
■DC配電盤の生産・開発体制を整備
ゼロエミ船の検討が進む中、DC配電盤の需要が高まっている。DC配電盤は、軸発電機や電池など多様化する電源から供給される電力を制御し、負荷へ供給する。インバータを活用することで、直流から交流への電力変換や電圧調整などを担う。内航船ではバッテリ電力を使ってモータを駆動する電気推進、外航船では主機と軸発電機や電池との組み合わせによるハイブリッド推進といった電動化の進展を背景に、こうしたDC配電盤の役割が注目されている。
これを受け、BEMACは従来から手掛けるAC配電盤に加え、新たにDC配電盤も供給できる体制を整える。2023年11月に竣工したパワーエレクトロニクス(パワエレ)試験棟「GIRD(ガード)」に、DC配電盤の試験用負荷設備や電源設備を、GX移行債の枠組みで導入する。28年度からの5年間で、20隻以上のゼロエミ船に配電盤を供給することを目指す。
ゼロエミ船の実現に向けて、水素やアンモニアなどの代替燃料活用や電気推進化が検討されている中、配電盤の役割は一段と重要になっている。例えば外航船では、アンモニアなどのゼロエミッション燃料焚きの主機関でプロペラを回しつつ、軸発電機で生まれた電力をDC配電盤経由で電池に蓄電したり、リーファーコンテナに供給したりできる。内航船では、完全電気駆動化が有効とみられ、DC配電盤が不可欠となる。BEMACはこれらのニーズに対して、電力変換技術を向上させ、DC配電盤の量産体制を整備し、GHG削減への貢献を図る。
■試験棟GIRDで実負荷試験実施へ
今回の設備投資では約10億円を投じ、24年度後半~28年度までの計画で、DC配電盤の評価設備やノイズ試験用の電波暗室などを整備する。自社製DC配電盤の実負荷試験を可能にするため、昨年子会社化したフィンランドのザ・スイッチ・エンジニアリング(以下、スイッチ)社製のDC配電盤(DCハブ)や、冷却装置などを導入し、今後開発予定の自社製盤との相互接続評価(バックツーバック接続)を行う予定だ。また、インバータや永久磁石モータなどを用い、直流配電環境下での実機試験を実施する計画。インバータが発するノイズ対策では、電磁波ノイズを測定する電波暗室を設け、インバータによりデータロガーなど弱電機器への影響を検証する計画だ。海事業界では珍しい2000~3000kW級の大容量実負荷設備と連携対応のノイズ試験環境を構築する計画で、開発スピードや製品の信頼性向上を図る。
GIRDに負荷設備として導入するスイッチ社製のDC配電盤は、ウルグアイ―アルゼンチン航路に就航する世界最大規模の純バッテリ船に採用されており、同社のDC配電盤をGIRDに配備することで、「スイッチ社の技術力を日本の顧客にPRする機会ともなる」(小松氏)と期待をかける。
今回の取り組みの主要拠点となるGIRDでは現在、インバータの新製品開発に向けた基礎データの取得や評価が進行中だ。低~中容量帯の製品ラインナップを視野に、スイッチ社との協業体制でリソースを柔軟に分担し、設計・試作を展開している。BEMAC独自の開発成果の創出が今後の焦点となり、今後の配電盤の開発・生産を通じて、ゼロエミ船実現に向けて重要な役割を果たすことが期待される。
■スイッチ社との協業を生かす
ゼロエミ船向けの配電盤の取り組みでは、スイッチ社との連携が生きる。脱炭素化に向けては船舶の電動化、すなわちパワーエレクトロニクス技術の強化が重要な鍵となっており、BEMACは昨年2月に、軸発電機やDC配電盤の技術を持つスイッチ社をグループに迎えた。スイッチ社はこれまで400隻以上の軸発電機を受注しており、同社製DC配電盤は1500基以上が稼働している。
日本国内の造船所がこうしたパワーエレクトロニクス製品を導入する場合、これまではヨーロッパのシステムインテグレーター企業が主導してきたが、BEMACは日本の造船所と協業し、GHG削減に寄与する先端製品の導入を進める。日本品質の日本語による技術支援やサービスを強みに、日本の造船業に適したインテグレーションを図る方針だ。
パワーエレクトロニクスセグメント長の中内大介執行役員は、「GHG削減が海事産業にとって避けられない課題となる中で、われわれとしてもパワーエレクトロニクス技術の提供に注力している。スイッチ社との連携を含め、GHG削減に貢献する製品を確実に届けられる体制を整えていきたい」と語る。スイッチ社の知見と技術もフル活用しながらBEMACグループとしての最大化を図り、日本の造船所に対して、脱炭素化に貢献する製品・サービスを提供していく考えだ。