2025年4月22日無料公開記事今治の中堅造船業と20年
内航NEXT
《連載》今治の中堅造船業と20年⑥
過去にない受注量、内航業の縮小懸念
山中造船・浅海真一社長
-
内航貨物船の建造大手、山中造船の浅海真一社長は、過去20年は「内航船の造船業界としては仕事量が比較的安定していた時代だった」と振り返り、同社も平均で年10隻以上の建造が続いたと語る。足元では船台予約も含めて4~5年先まで案件が入っており「過去にないほど先まで伸びている」状況だ。一方、内航業界は造船所も船主も十分な収益が得られていない点が課題とし、造船・船主の縮小を懸念する。脱炭素化も「新燃料船の船価に見合った用船料と運賃を負担していただけるかどうかがカギ」と訴える。
■仕事量が安定した20年
― 今年で今治市が合併20周年を迎えた。この20年を振り返ってほしい。
「20年前の2005年といえば、内航船の新造需要がようやく回復し始めたころだ。それ以前は本当に厳しい時代で、内航業界はバブル崩壊の影響が続いており、当社も仕事不足で不採算の受注工事も多く、年間の建造量が4~5隻にとどまる年もあった。当時の内航造船所の経営は総じて厳しく、この頃に撤退した造船所や、新造を休止した造船所もあった。だが2005年あたりから徐々に仕事が戻り、採算も合うようになった。その後の20年間は、リーマン・ショックや東日本大震災、コロナ禍などで一時的に需要が落ち込む時期もあったが、改めて建造船を振り返ってみると、当社は平均で年10隻以上は建造できている。仕事量としては比較的安定していた20年間だったと思う」
「この間には内航海運暫定措置事業の終了という転換点もあった。2021年8月の暫定措置終了前後で新造船計画に大きな影響が出るとの予想もあったが、結果的に影響は少なかった。一部に建造計画を先延ばしにする自営の船主もいたが、予定通りリプレース建造を行う船主もいたからと思う」
― この期間の山中造船では、2014年に大島に新工場を建設し、波止浜湾の旧工場から移転したのが大きなトピックスと思う。
「当時、外航の造船所が塗装規制の影響もあって次々と新工場建設に踏み切り、これが一段落した後、当社も、より大型の造船所を目指して先代の経営者が新工場建設を決断した。以前の波止浜湾の工場でも年間9隻以上は建造できており、いろいろな船種も建造していたが、499総トン型貨物船が圧倒的に多かった。その後に船型も大型化し、749型の仕事も増えたので、あのまま波止浜湾の工場では能力的にも効率的にも厳しかったと思う。造船所は敷地が広くて余裕があった方が、やはり効率は良い」
■4~5年先まで船台予約
― 最近の受注や建造の特徴は。
「内航船ではここのところ船主が先々まで船台を押さえる動きが活発化しており、当社も4~5年先まで案件として入っている。あくまで船台の予約ではあるが、過去にないほどの先まで伸びている」
「建造船種は引き続き499型や749型も多いが、最近の変化として、ガット船が増えてきた。以前はガット船の建造は年1隻程度だったが、ここ5年は年3隻程度に増えており、今年は7隻の建造を予定している。ガット船の需要は関西国際空港と中部国際空港の建設工事が終わった後にピークアウトしたが、最近は沖縄の工事などで再び需要が高まっている」
― 山中造船の特色や強みはどこにあるか。
「近年は他の造船所で納期遅れの話しも聞こえてくるが、当社は契約納期から遅れることがなく、顧客との約束を守る点が強みと思う。また、内航業界は船員不足が最大の問題で、この点に関して造船所ができることは限られるが、当社はなるべく船員が定着しやすい居住環境や、2023年に竣工したSIM-SHIPのように作業負荷の少ない技術を導入した船を、船主の知恵を借りながら建造できた。今後も続けていきたい」
「当社は昔から船型開発を得意としており、速力が出るうえに省エネ性能も高い船を売りにしてきた。近年は、速力はそれほど要求されなくなっており、省エネが第一という考えに変わってきたため、船型開発のメリットを以前ほど出しにくくなっている。一方、船主と話をしながら、船主の要望に応えた船を提供できる点は強みだと思う」
■脱炭素は運賃・用船料がカギ
― 海事都市・今治との関わりは。
「人材に関しては、当社も地元の小中学校の要望を受けて、大島の島内の学校向けに毎年工場見学会を行っている。また島外の今治市内の学校からもタイミングが合えば工場見学や船内見学を受け入れている」
「人材育成に関しては、小規模の造船所は自前で本工や協力工を育成するのが難しい。一方、造船業が集積している今治市では、大手造船所の技能を持った人が他の造船所に移る例もある。これが今治全体の人材の底上げをもたらしており、他地域にない強さだと思う。造船所が多い分、人の取り合いもあるので賃金は高くなる傾向にあるが、大手造船所があるからこそ我々のような規模の造船所が成立している面もある」
― 経営環境での気になる点は。
「最近の傾向として気になるのが、日本全体で内航船の建造隻数が減っていること。2024年度も建造隻数は最大で70~75隻程度にとどまる見込みだ。各造船所ともフル操業の状態なので、能力はこれが最大だろう。かつて日本で年100隻超が建造されていたことを考えると、建造能力がかなり落ちた。各造船所とも協力工を集めるのに苦労しており、働き方改革で操業も抑えられていることが影響している。これがもう間もなく60~50隻といったレベルにさらに縮小するのではと懸念している」
「日本全体の人手不足の問題もあるが、やはり最大の課題は収益性にある。造船所も利益の出ない船を無理して建造し続けることはできなくなってきた。造船所だけでなく船主も収益性に悩んでおり、今後、船が老朽化したタイミングで事業撤退するところが出てくるのではないか。適切な用船料を支払ってもらい『これからも頼むぞ』と士気を高めてもらわなければ、事業を継続できない時代になってきた」
― 脱炭素も内航海運にとって重要テーマだ。
「環境対応船はお金の話をちゃんとしなければ、前に進まない。新燃料船は船価がかなり高くなるため、これに見合った用船料と運賃を、オペレーターと荷主に負担していただけるかどうかがカギだ」
(聞き手:対馬和弘。連載おわり)