2025年4月15日無料公開記事今治の中堅造船業と20年
内航NEXT
《連載》今治の中堅造船業と20年④
設備投資継続、柔軟な人材採用
檜垣造船・檜垣宏彰社長
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檜垣造船は、主力とする近海貨物船の大型化のニーズへの対応や生産性向上への取り組みのために、波方工場の新設や船台拡張をはじめ不況期も大型の設備投資を継続してきた。近年も波方南工場を増設したほか、新たに取得した大浦工場の本格活用を今後計画し、生産性向上に努めている。また、DX化の取り組みとして一気通貫の基幹システムの構築の推進や労働環境の整備も進めており、リモートワークを前提とする東京勤務での技術職の採用実績もある。檜垣宏彰社長は「設備・環境を整えなければ人材も集まらない。柔軟な採用を今後も積極的に進めていく」との方針を示す。30隻超のヒットとなった近海貨物船のエコシップや、LNG燃料内航貨物船の建造など環境対応にも注力している。
■売上規模も1.5倍に大幅増
― 今年で今治市が合併20周年を迎えた。この20年を振り返ってほしい。
「当社が主力とする近海船やケミカル船はマーケットの低迷が総じて長いが、リーマン・ショック後に引き合いが全くなかった時期がやはり印象に残っている。そうした環境下で2014年問題が言われ始めた時にEEDIフェーズ3を先取りしてクリアした近海船のエコシップを開発し、1番船“EPOCH WIND”を2014年に引き渡して以来、多くの受注をいただいてヒット製品となったことが当社として大きなトピックスの1つだったように思う」
― 厳しいマーケット環境でも2008年の波方工場の新設、15年の船台拡張など大型の設備投資も継続して進めてきた。
「船型の大型化対応や、建造対応能力を高めるため内作化の取り組みを進め、設備投資に踏み切ってきた。コロナ禍でもこの方針は変えず、22年に波方南工場(第5棟)を増設・落成し、24年にNC切断機を新設した。南工場は太陽光パネルを設置し、環境にも配慮している。社用車両として電気自動車2台を導入し、充電も太陽光発電を活用している」
「今後は、海事産業強化法の事業基盤強化計画で認定されているように建造能力のさらなる向上に向けて検討していく。また、本社工場の老朽化した100トンクレーンの更新も発注済みで来年1月に増強設置予定だ」
― 工場の姿とともに売上規模も変化してきた。
「一連の建造能力増強に伴い建造船の大型化も進み、売上高が伸びてきている。以前は、売上100億円前後だったのが、150億円前後に増加した。2015年の船台拡張により1万6000総トンまで建造できるようになり、船型の大型化による効果もある。現在の売上規模は170億円程度となっている。建造隻数は2008年のピーク時に最大で年間10隻を建造したこともあったが、現在は年間8隻程度の建造体制となっている」
― 不況期にも人手を減らさなかった。
「22年から23年に年7隻体制に操業を落としたが、一時的な不況とみて、その時も人手は減らさなかった。やはり人手を一度減らしてしまうと戻すのが難しい」
■エコシップや新燃料船への挑戦
― 近海船、ケミカル船、内航LNG船、LPG船といったさまざまな船種をメニューとして建造しており、近海船のエコシップ、初のLNG燃料内航貨物船“いせみらい”といった環境対応にも注力してきた。檜垣造船の強みは。
「以前から“大きさに特化して、船種に特化せず”という方針のもと、ニーズを重視した船を造り続けてきた。力量にあった新しい船に挑戦するのは面白く、技術力の向上にも資するので、積極的に取り組んできた。近海船は1万4000トン型「HI-MAX」シリーズとして計61隻を建造したが、そのうちエコシップの「HI-MAX-ECO」が計33隻と半数以上を占めた。14型シリーズは現在、幅広の1万3500重量トン型「HI-MAX-WIDE ECO」へとアップグレードしている。代替燃料船は“いせみらい”をはじめ、当社ではLNG燃料を重点的に現在取り組んでいきたい」
― 足元の線表確定状況は。近海船の今後の新造需要をどのように考えているか。
「足元の手持ち工事量は2年半程度を確保している。近海船は従来の船主様からの代替需要が見込まれることに加えて、最近では中国造船所での建造の動きも一部ある一方で、日本の造船所で造りたいという海外船主の方々の例も出てきており、需要面は底堅い。一方で、コスト増に伴う船価アップの懸念の影響にも注視している」
■技術職をリモート採用
― 今後の課題は。
「日本の人口減少の中で、DX化、自動化をして省力化・省人化を進めなければ、造船業として事業を継続できなくなる。設備を整えなければ人材も集まらない。労働環境整備にも積極的に取り組んでいる」
「DX化は2018年から取り組みを進めており、老朽化していた基幹システムの更新の際に、設計から部材発注、工程管理まで一気通貫でできるような基幹システムの構築を始めた。現在は第一段階として資材発注までできるようになっており、今後設計データの自動での落とし込みなどのシステム構築を進める。また、工程管理を見える化するために構築を進めてきた生産管理システムも完成しており、運用を開始している」
― 人材採用・育成の取り組みは。
「かつてとは異なりインフラも整っており、東京勤務での人材募集の方が応募者も多いので、職種によってはリモートワークでも良いという方向性で柔軟に採用活動を進めている。既に技術職2人を東京で採用しており、今後も増やしていきたい」
「もちろん今治の本社での採用でもさまざまな取り組みを進めている。待遇や労働環境の改善、インターンシップの受け入れなどのほか、地元の愛媛大学とともにデータサイエンスの共同研究に取り組むなど大学とのコミュニケーションも図っている。また、近年は異業種からの中途採用も多くなっており、造船業界への人材の流入化や活性化にもつながればと思う」
「今治市自体も若い人に来てもらえるような魅力ある市になってもらわないといけないし、われわれもしていかなければいけない。若い人が働ける環境をしっかり整えていきたい。今治海事都市基金の立ち上げや、サッカーのFC今治など、若い人を含めて今治が注目されるのは良いことだ。地域に世界に通ずる産業があるのは喜ばしいことで、そういう面でもバリシップには注目してもらいたい」
(聞き手:松井弘樹)