1. ニュース

2025年4月11日無料公開記事米中造船摩擦

《連載》米中造船摩擦②
国際社会が再考促す米国入港料案
中国まで「米中造船融和」を強調

  • X
  • facebook
  • LINE
  • LinkedIn

米国トランプ大統領は9日、米国造船業再建に関する大統領令に署名した。この中で、米国通商代表部(USTR)に対しも中国船への対抗措置の実施を求めた。一方、USTRでは先日の公聴会で示された懸念も踏まえ、当初の案から緩和させるとの観測も出ている。落としどころは、どこにあるのか。

3月24日。USTRによる中国の海事・造船分野に対する「通商法301条」に則った措置案に関する公聴会が開かれた。公聴会の冒頭に登場した米国の労働団体らは、中国建造船に対する入港料や、米国建造船の利用義務付けの案について、「中国の略奪的行為に対抗し、米国建造船の購入を促す意味のある措置案」と絶賛した。だが、明確な支持が表明されたのは、これが最初で最後だった。

続いてのヒアリングでは中国側の関係者らが出席。中国造船業の業界団体である中国船舶工業行業協会(CANSI)の李彦慶事務局長は「米国が自国造船業を再建することにはわれわれもオープンな姿勢を持っているが、中国海事産業を傷つけ、世界のサプライチェーンを混乱させる形で行うことには、断固として反対。このような手法は完全に間違っており、米国造船業復活にもつながらない」と強く反対した。米国造船業の衰退は中国造船業の成長と無関係、中国建造船への対抗措置は米国自身の経済を損なう、中国造船業の成功は一朝一夕に成し遂げられたものではない…と理由を述べたうえで、最後に「明確に強調したいのは、中国の造船業は米国の敵ではなく、むしろパートナーだと捉えてほしい。米中造船が協力を強化すれば、持続可能な業界発展の原動力になる」と、米中対立を演出する米国に対し「米中融和」を語りかけた。

続きもある。米国造船業の位置づけについて委員から問われた李事務局長は、米国が日本・韓国・欧州・中国の造船業と構成していた造船5極(JECKU)から一昨年脱退したことを紹介した。「米国造船業界には、JECKUへの復帰を呼びかけたい。年に一度、各国のトップ経営者が集まり情報交換を行う、非常に有意義な場だ」。米国造船業の再建には、国際協力が必要との認識を示唆した。

実際、造船業の関係者の中では、米国が中国造船業に敵対的姿勢を示し、韓日に協力を求めるようになったことについて「安全保障上の懸念は共有できるものの、米国はこれまで完全に国際協調路線から背を向けてきた。今さら協力といっても…」と戸惑いもある。むしろ、この日の中国の発言の方が腑に落ちる面もあったようだ。

公聴会に話を戻そう。結局、24日と26日の2日間の公聴会では、米国内外の荷主や海運、港湾、製造業などさまざまな分野の約60人もの関係者が意見表明を行ったが、そのほとんどが、USTR案に対し、米国経済や国際社会に深刻な打撃を与えると懸念を示すものだった。事前のパブリックコメントで想定されたとおり、公聴会は米国に再考を促すトーン一色となった。

公聴会の結果も踏まえ、USTRの対抗措置は当初提案より後退するとの観測も広がる。海外紙によると、USTRのジェミソン・グリア代表が8日、議会で中国措置について「全てが実施されるわけではない」と発言したという。

米国は短期的・中期的には何らかの形で、自国造船業の成長と中国建造船への対抗をリンクさせた政策をとると見られている。では、落としどころはどこになるのだろうか。

公聴会ではいくつかの提案もあった。例えばカナダ船社アルゴマ・セントラルのグレッグ・ルール社長は、「すべての船舶に貨物価値の0.25%に相当する港湾料金を課し、それを米国造船の基金に充てる。中国建造船への措置は、ルール発効後に発注された船舶に限り、港湾料金を0.5%に引き上げる」との案を示し、「中国への新造発注が即座に抑制されるにはこれで十分」とした。カナダ船社マキール・マリンのスコット・ブラベナーCEOは「中国建造船への依存を減らす措置は段階的に実施すべき」とし、訴求適応は避けるべきとした。

公聴会の前に米戦略国際問題研究所(CSIS)が報告で示した案は、中国造船所を安全保障上の脅威に応じてティア1~4に分類し、中国海軍と強い関係を持つティア1造船所の建造船などに絞って対抗措置をとるべきというものだった。

果たしてこうした提案が反映されるか。朝令暮改のトランプ政権。米国造船再興という軸はぶれないにしても、そのプロセスはなお通しにくい。

関連記事

  • 増刊号シンガポール2025
  • 海事プレスアプリ