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2024年3月28日無料公開記事洋上風力発電

大型設備、洋上風力に活かす
住重マリン・宮島社長、商船撤退「断腸の思いも、やむなし」

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 住友重機械グループの造船事業会社、住友重機械マリンエンジニアリングの宮島康一社長(写真)は本紙取材に応じ、新造船事業からの撤退の背景と今後の事業方針を語った。新造船事業の撤退について「ここ数年、赤字が続き、建造隻数も抑えて事業を継続してきたが、競合の政府支援などを鑑みると安定的な収益確保は難しいと判断。私も含め社員も思い入れもあり、断腸の思いではあるが、やむなし」と話した。横須賀造船所では今後、洋上風力発電の浮体式構造物の製造を軸に手掛ける方針で「当社規模の大型設備で洋上風力に特化する造船所はないため、期待も寄せられており、要望に応えていきたい」とした。ニーズに応じて、洋上風力関連の作業船の建造や、現在建造しているアフラマックス・タンカーの図面供与・エンジニアリングも手掛けていく考えだ。

■一流船主向けの建造実績

 — 一般商船の新造船事業から撤退を決めた理由や背景を改めて聞きたい。
 「新造船事業での赤字が続いていたことに尽きる。住友重機械マリンエンジニアリングとして分社したのが2003年で、2010年頃までは売上・利益とも高水準を維持していたが、2008年のリーマン・ショック以降に受注環境が悪化し、新造船事業が非常に厳しい状況になった。横須賀造船所ピーク時の2009年度は年間9隻の新造船を引き渡していたが、リーマンショックの影響の煽りを受けて、用船市況と船価の低迷、円高などで建造量を見直す必要が生じ、年3〜4隻まで建造量を縮小した。年3隻程度では固定費が回収できないことはわかっていたが、船を造れば造るだけ赤字になるマーケット状況では隻数を増やすことはできなかった。さらに、2021年頃から鋼材価格も上昇し始めた。マーケットや資機材価格、為替と外部要因に大きく左右される造船業で、政府支援を受ける韓国や中国の造船所と同じ汎用船を日本の民間企業が中長期的に建造し、適正な収益を確保し続けるのは難しく、今回の判断に至った。これだけの雇用と設備を持つ中で、事業の撤退は、住友重機械本社としても難しい判断だったと思う。だが若い社員の将来を考えれば、より適正な収益を見込める可能性のある事業に転換する必要があった」
 「そうした背景は理解しつつも、やはり私をはじめ従業員は皆、造船という仕事を志して入社してきたので、商船建造の撤退は非常に悲しく、苦しかった。思い返すと当社は90年代にはVLCCを連続建造していた時代もあり、オナシス、ウィルヘルムセン、エクソンモービル、ベルゲッセンといった一流の船主やオイルメジャーと商売をしてきた。現在のアフラマックス・タンカーも著名な一流船社や船主向けに建造しており、そうした方々と深い話をしながらスケールの大きな船を造り上げていくのが醍醐味だった。現場、設計、営業陣、それぞれに船への思い入れがある。築き上げてきた関係が、汎用船建造としてはなくなってしまうと思うと無念で、断腸の思いだが、事業の継続を考えるとやむなしであると思う」
 — タンカー市況や新造需要が回復し、円安の追い風もあるので、新造船事業を続けた方が良いのではとの見方もある。
 「取引のある複数の船主からも、撤退を伝えたら、あと1隻でも良いので住重の船を建造してほしいと、ありがたい言葉をいただいた。ただ、事業の転換には期限を決める必要がある。転換のタイミングを逃すわけにはいかない」

■洋上浮体軸のプロダクトミックスへ

 — 今後は洋上風力発電の浮体式構造物の製造を軸に事業化を図る方針を示している。どの程度の規模の事業を見込んでいるか。
 「洋上風力関連で2029年頃に売上150億円規模を目標として定めている。時期や規模はプロジェクト次第で、見通しが今後変わる可能性もあるが、実証機の引き合いがあるので、需要が出てくることは想定できている。グリーンイノベーション(GI)基金のフェーズ2も募集中で、事業者とも話をしており、ニーズに応えたい」
 「3月に住友重機械のグループ会社と洋上風力事業推進プロジェクトの設立を公表し、それを受けた問い合わせも増えている。当社規模の大型ドックなどの設備を持つ工場で洋上風力に特化する造船所は他にないため、期待の声も寄せられている。要望に応えていきたい」
 — 着床式の基礎構造物は手掛けるか。
 「新造船の最終船は進水が来年秋で、それ以降はドックが空くので、プロジェクトの状況に応じて、住友重機械グループ内での連携・分業などを通じた着床式や他の事業部の構造物の製造も柔軟に考えている」
 — 浮体式構造物の製造に合わせて横須賀造船所への設備投資は。
 「浮体式構造物の需要が見えてきた段階で、ゴライアスクレーンや排水ポンプの更新、ドックゲート新設などの設備投資を進めたい。洋上風力関連や鉄構構造物などのプロダクトミックスでの製造を想定すると、ドックの回転率と柔軟な製造体制がカギになり、そのための設備が必要になる。横須賀造船所のゴライアスクレーン2基は各300トンで、能力が小さく、製造効率が悪い。排水ポンプの容量も新造船用で容量が小さく、ドック回転率のネックになる。現在、横須賀造船所にある回流水槽は、洋上風力にも活用できる」

■洋上風力作業船・エンジも事業化へ

 — 洋上風力向けの関連船舶の建造も注力分野として挙げている。
 「洋上風力関連の完成品を輸送するバージや重量物船、SOV(サービス・オペレーション・ベッセル)、起重機船など今後需要が予想される作業船の建造を、採算を吟味しながら検討していく。リソースをはじめ検討項目は多いが、こうした特殊船の新造船事業を可能性として排除すべきではないと考えており、手掛けたいという思いもある」
 — 船舶用風力推進システムの事業化も今後進める。
 「事業化に向けて開発を進めている。設計主体の事業なので、エンジニアリングの柱の1つとしたい」
 — 修理船事業は。
 「継続する。ボリュームは現状より増えることはあっても減ることはないと思う」
 — 世界でも数少ないアフラマックス・タンカーの建造造船所で、アフラではない小型タンカーでメタノール二元燃料推進でAIP(設計基本承認)も取得しているが、図面販売やエンジニアリングを今後手掛ける考えは。
 「現アフラマックスデザインを、日本の造船所向けとして図面供与の可能性を検討してゆきたい。船主から住重デザインの船が欲しいとの要望もある。デザインにも賞味期限はあるが、現行の最新デザインのアフラマックスは現在までにまだ3隻しか竣工していない。燃費性能も評価していただいているので、まだ十分有効なデザインと考えている」

■新事業推進グループ新設

 — 事業転換に伴う配置転換や今後の組織体制は。
 「グループ内で配置転換もありうるが、住友重機械マリンエンジニアリングの全社員の雇用を維持する。協力会社の皆さんも、できる限り最大限の雇用を継続したい。新造船から撤退後も横須賀造船所の操業を維持していくことがわれわれの使命だ。組織体制はこれまでの新造船の連続建造主体の事業とは異なりプロダクトミックスになるので、機動力を発揮できるような体制への改変を現在検討中だ」
 — アフラマックスから洋上風力関連に製品が変わることで、顧客が海外船主から国内企業になる。
 「洋上風力や鉄構構造物の引き合いが増えたため、窓口となる『新事業推進グループ』を昨年立ち上げ、国内顧客向けの営業を既に始めている。今後は新造船の営業部隊もこのグループに入るイメージだ」
 — 洋上風力の市場が拡大する一方、国内で製造できる造船所が限られており、市場からの期待感も大きい。
 「われわれも、今後の市場規模や需要を検討した上で大きく舵を切った。将来については不透明な部分もあるが、真っ白な画用紙に描いた事業ではなく、道筋の見えるシナリオで事業として成り立つと判断している。新しい市場の期待に応えられるよう、皆で頑張っていきたい」
(聞き手:対馬和弘、松井弘樹)

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