2023年7月18日無料公開記事
新燃料船の生産体制を増強
今治造船、前期新造船受注は94隻
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「インフレに見合う船価提示に理解を示して頂きたい」と檜垣社長
今治造船は14日、経営幹部が都内で記者会見を開き、事業方針などについて語った。2022年度の新造船受注は94隻で、21年度の129隻に続いての高水準の受注だったことを明らかにした。また、LNG燃料の自動車船とバルカーの建造に続いて、このほどメタノール燃料のコンテナ船も受注内定するなど、新燃料船の建造が徐々に広がっている。これに伴い、LNG燃料タンクの自社製作が始まったほか、LNG燃料自動車船を多度津造船に加えて今年から丸亀工場でも建造し、艤装岸壁も増強するなど、新燃料に対応した生産体制に徐々にシフトする。檜垣幸人社長は今後の需要増加も見据え「生産性向上で年5〜6%でも高めていきたい」とし、「需要に応えるため人材や資機材の確保などを進めるうえでも、船価の持続的な引き上げへの理解を求めていく」とした。
会見には檜垣社長と檜垣和幸専務、檜垣清志専務、藤田均専務、渡部健司常務が出席した。概要は次のとおり。
2022年度の回顧と23年度展望
▽2022年度も新造船マーケットは好調で、バルカー、コンテナを中心に成約が進んだ。だが人手不足により操業を上げられず、鋼材価格の値上げで収益改善に至っていない。コンテナ運賃も下落している。中国のゼロコロナ政策解除による世界景気の浮揚を期待しているが、今年6月以降は提示船価と用船市況とのギャップで発注が様子見に入っている。秋口以降のマーケット回復を期待している。
▽2022年度の竣工量は66隻・324万総トンで、21年度に比べて総トン数は減少したが隻数は増えた。内訳はバルカー39隻、コンテナ船17隻、VLCC1隻、MR型プロダクト船3隻、チップ船5隻、RORO船1隻。売上高は3764億円と増収だった。利益は黒字を確保したが、資機材値上げに加え、為替予約先行によって円安のメリットを受けられず、減益だった。
▽今年度は鋼材価格の高止まりと資機材・人件費の値上げが収益を圧迫しているが、為替が円安に向かっているため収益改善に向けて頑張りたい。また、NSYが誕生するきっかけとなったオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)向け2万4000TEU型コンテナ船が、6月2日にジャパンマリンユナイテッド(JMU)呉事業所で、7月12日に当社丸亀工場で竣工した。今後4隻が年内に竣工する。こういう形でJMUとの共同設計・受注案件をどんどん増やして日本の造船業界を牽引していきたい。
新造船実績と営業方針
▽2022年度はJMUとの合弁会社のNSYを通じて、当社建造分で94隻・459万総トンの受注を獲得し、約3.3年分の工事量を確保した。各種バルカー、コンテナ船、LNG燃料自動車船で受注を進めることができた。
▽今年度の商談は2027年納期の新造船になるため、インフレに対応できるような持続的な船価上昇を図りたい。2011年に大量建造した船舶が2026年以降に代替期に入ってくるにも関わらず、今や世界の造船所が人手不足で操業を上げられない状況。日本造船業は代替需要に応えるよう操業を続けるので、インフレコストに見合う船価提示に理解を示して頂きたい。
人手不足と採用
▽経営課題としては、造船業に興味を持つ若者が少なく、新規採用がなかなか進まないこと。今後の円安傾向を見ると造船は稼げる産業になっていくことを、もっと発信していきたい。
▽人手不足は事技職と現場もいずれも大変だが、特に現場が厳しい。労働環境改善なども進めたい。福利厚生の設備投資として、新笠戸ドックに独身寮を建設した。また丸亀工場の事務所を50年ぶりに建て替え、工作新社屋と設計・事務向け新社屋の建設を計画している。このほかの働きやすさの対策として、暑い中でも働きやすいよう難燃性の化学繊維を活用した作業着への更新なども検討している。こうした取り組みを各工場に展開していきたい。
▽今年度は65人の新入社員が入社し、人員は1793人、平均年齢は37.7歳となった。来年も100人程度の採用を予定しているが。
競争力強化対策
▽先般、メタノール焚き大型コンテナの受注が内定した。今後も新燃料対応の船型のレパートリーを増やす。2022年10月に日本プスネスを子会社化し、今年4月に日立造船マリンエンジンへの35%の出資を決めた。今年7月からMI LNGカンパニーで一般商船の設計業務も開始した。舶用機器メーカーとの連携強化や、設計機能を強化することで、次世代船の開発を加速したい。
設備投資と新燃料対応
▽昨年度は西多度津事業部でLNG燃料タンク製作用の設備投資を行い、モックアップの製作を終え、LNG燃料自動車船用の燃料タンクの製作を開始した。LNG燃料自動車船は多度津造沿で連続建造を始めているが、今年度からは丸亀工場の2号ドックでの建造を始める。11月にドック搭載の予定だ。これに備え、丸亀の艤装岸壁の増強を行っている。
▽自動車船は従来は多度津で年4隻建造していたが、LNG燃料は艤装期間が長期化するため建造隻数が年2隻に減る。多度津と丸亀の2号ドックを合わせて、年4隻体制を維持する。また艤装期間の長期化により岸壁増強も必要。当社は西条工場や西多度津事業部、東ひうち事業部で岸壁を整備していたが、それでもまだ足りないため、数億円かけて丸亀の岸壁を強化することにした。
技術開発と新製品開発
▽LNG燃料自動車船やLNG燃料大型バルカーに加えて、メタノール焚き大型コンテナの受注も獲得した。アンモニア燃料大型バルカーも詳細設計に入っている。従来燃料船でも、船型改良や省エネ機器採用によりエネルギー効率設計指標(EEDI)で30%以上の低減を目指した船型開発を行っている。
▽また、パワーエックスと提携した電気運搬船や、三菱造船と提携してLCO2船も設計を進めている。カーボンニュートラル実現に向けた船型のレパートリーを増やしていきたい。
NSYとMI LNG
▽NSY設立が決まった時点では業界環境は非常に厳しかったが、2021年から市況が一気に上向き、一昨年は過去2番目の受注量を確保した。その点で、NSYの営業統合効果は大きかったし、マーケットにおける日本造船の存在感を高めることができたと思う。今後もスクラムを続けていく。また、NSY発足時にはそれぞれの会社の受注残があったため、設計はまずは自分の会社の建造船を中心に取り組んでいたが、発足から2年が経ち両社開発の図面の建造も出てくるので、設計の統合効果もこれから現れると期待している。
▽三菱重工/三菱造船とは従来から一般商船でも取引があり、当社の燃料供給装置(FGSS)なども手掛けていた。合弁のMI LNGはLNGの取引だったが、これを一般商船にも広げようとなった。NSYとしては設計リソースを確保したいとの思いがあり、MI LNGからは、三菱が持っている技術を、建造量日本一のNSYを使って具現化したいとの思惑があり、両社の考えが一致した。特にLCO2船は当社も関心があり、三菱の図面での建造などを検討したい。
増産の可能性
▽今年4月から外国人研修生が戻ってきたが、それでも操業を上げるのはなかなか難しい。生産効率を高めることで年5〜6%ずつは上げていきたい。
▽26年以降は代替需要が見込まれる。過去20年間言われ続けていた「供給過剰」を、最近は誰も言わなくなった。それだけ供給不足の状況が続くとみられている。これに対応するため、人を集めるには賃金も上げる必要があるし、資機材も増産をお願いするには対価を払わないといけない。造船所だけが負担するのは難しいので、なんとか安定操業プラスアルファで頑張れるよう、インフレに合わせた持続的な船価の引き上げをお願いしたい。
パワーXの電気運搬船
▽パワーXから発表があったとおりプロトタイプの船型は固まったが、課題はルール整備だ。バッテリー容量が巨大な船なのでルール折衝が必要。仕様固めとルールをすり合わせ、慎重に調べて安全性も確保しながら検討している。
韓国・中国の造業の動向
▽韓国・中国の造船業も人手不足、部品不足で操業が遅れていると聞いている。船価も上げてきているようだ。日本造船業は契約納期と品質を優先して船主に迷惑をかけないよう引渡しをしており、アフターサービスにも力を入れていこうと思っている。