2023年7月3日無料公開記事
今治造船・三菱造船・JMUが連携体制
MI LNGがNSYと新燃料船設計などで協力
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新燃料船やLCO2船などの設計協力も(画像はイメージ)
今治造船と三菱重工業は6月30日、両社合弁会社MI LNGカンパニーの業務を従来のLNG船の設計・販売から商船エンジニアリングに拡張し、一般商船の設計業務を日本シップヤード(NSY)から受託することで合意したと発表した。LNGなど新燃料船や液化二酸化炭素(LCO2)運搬船などの設計も行う。MI LNGは三菱造船からの派遣で設計者を増員する。実質的には、今治造船と、NSYの合弁パートナーであるジャパンマリンユナイテッド(JMU)、三菱重工グループの商船子会社の三菱造船という、日本を代表する造船トップ3社が連携する形になる。海事産業のカーボンニュートラル化に向けた技術総力戦の中、連携によって新燃料船や脱炭素貨物輸送の技術・設計・生産対応力を強化することになる。
MI LNGカンパニーは三菱重工51%、今治造船49%の出資比率で2013年に設立した合弁会社。両社が手掛けるLNG船の設計と販売を業務としてきた。設立から10年を経て、7月から一般商船のエンジニアリング事業を手掛ける新たな事業体制に生まれ変わる。
MI LNGは今後、NSYから、従来燃料船の設計と、LNGなど代替燃料を採用する一般商船の機能設計の業務を受ける。また、三菱造船とNSYが先日、LCO2船の共同開発で合意しており、このLCO2船の設計業務の一部も行う。MI LNGは従来のLNG設計を主体とした業務から事業が拡大することを受けて、三菱造船からの技術者の派遣を受け、人員を増強する。NSYから発注された設計業務はMI LNGが行うことになるが、必要に応じて三菱造船やグループ会社に業務委託を行うケースもある。
今治造船とJMUの船舶設計・営業の合弁会社であるNSYは、MI LNGとの連携により設計機能を強化し、造船事業の伸長と、新規分野への機動的な受注体制の構築を図る。
三菱造船は「脱炭素の動きが加速する中、エンジニアリング事業の強化を目指す三菱造船と、設計機能の強化を図る今治造船の双方が、今回の合意により連携強化し、機動性確保のメリットを享受できると考えている」とコメントした。また今治造船関係者は「新生MI LNGは日本の近未来を見据えた新しい造船連携の先駆けと考えている。民間の親しい連合体が同一の志を持って日本の造船業全体を変革し、盛り上げていくことを期待している」としている。
【解説】今治造船とJMUは2021年から資本業務提携を通じて共同戦線をとり、NSYを運営しているが、これと同時に今治造船と三菱重工の間も、MI LNGを通じたLNG船の協力関係に加えて、2017年合意のアライアンスを踏まえた設計面での協力体制が続いていた。また三菱造船とJMUは、ともに総合重工系の造船所として日本造船業全体の活性化策などで連携しており、最近では次世代環境船舶開発センターや、東京大学の海事デジタルエンジニアリング(MODE)社会連携講座のようなプロジェクトの立ち上げで、常に造船業のリード役を自覚的に2社で担ってきた。
今回のMI LNGを通じた連携策は、第一義的には、当面のLNG燃料船やアンモニア、メタノールなどの燃料船に機動的に対応できる体制を整えることが主眼にある。ただ関係者は「韓国や中国に伍していくねらいももちろんあるが、それよりも日本の造船業全体を盛り上げていきたいというのが趣旨」とも語る。
脱炭素時代の船舶では、造船会社はこれまでよりも踏み込んだ形で設計・生産で連携することが必須になる。三菱造船が三菱重工グループの総合技術力も活用して開発に先行しているLCO2船も、三菱造船単体で建造するのではなく、複数造船所での建造など共同対応が需要に応えるには必須と言われており、その中でNSYと三菱造船が提携していた。「三菱重工グループの技術を具現化・実証化するために日本の建造シェア5割以上を持つNSYが連携する」というのが、実質的に3社で連携したねらいだが、「日本の造船業全体を盛り上げる」との趣旨からすれば、連携の幅や枠はさらなる広がりを見せてもおかしくない。
(対馬和弘、松井弘樹)