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2024年4月15日無料公開記事SEAJAPAN2024 バリシップ2025

「今治のキーマンが描く海事産業の未来」
バリシップ開催記念トークショー

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 「SEA JAPAN2024」中に行われた「バリシップ2025」の開催会見では、バリシップ開催記念イベントとして「今治のキーパーソンが描く海事産業の未来」と題して、今治造船の檜垣幸人社長、日鮮海運の阿部克也社長、BEMACの小田雅人社長、西瀬戸マリンパートナーズの日野満社長(モデレーター)によるトークショーが開催された。発言要旨は次のとおり。
<パネリスト>
今治造船・檜垣幸人社長
日鮮海運・阿部克也社長
BEMAC・小田雅人社長
<司会>
西瀬戸マリンパートナーズ・日野満社長


■国際競争・環境対応について


司会 来年は新生今治市が誕生して20周年になる。20年を振り返ると、今治の海事産業は相当な発展を遂げてきたが、今後も連携を強化してより一層盛り上げていきたい。今回は「国際競争」「環境対応」「運航管理」「海事都市・今治のポテンシャル」という4つのテーマでお話しいただきたい。まずは「国際競争」「環境対応」について。

檜垣 来年は新生今治市20周年となるが、私は今治造船の社長になって19年になる。この20年で今治造船グループは建造量が3倍になったが、世界シェアに目を向けると、中国が47%、韓国が26%、日本が16%の大きな差になった。日本の造船業としては由々しき問題で、日本の造船業として連携してもう一度シェアを挽回すべく頑張っていきたい。環境対応では私どもはLNG燃料自動車船の2隻目を昨年完工したほか、アンモニア燃料の20万重量トン型バルカーの開発・建造でMOUを締結した。また、昨年には世界最大級となる2万4000TEU型のコンテナ船を建造したが、14~15年前までは8000TEU型が世界最大だったので、スケールメリットでコンテナ1単位当たりのCO2使用量を75%削減できるような船を建造している。これまでの船の改良に加えて、将来に向けたアンモニアやメタノールなどの新燃料対応の両方の方向性でやっていきたい。

阿部 国際競争の点で中国造船所は日本の造船所の5倍の受注残がある。粗鋼生産も中国は日本の12~13倍で、日本の働き方改革や鋼材価格を考えると、この差を埋めるのは大変だ。これほど大きな差になると、船主は用船者のニーズに応えるため、海外造船所にも発注しなくてはならない。私としては日本の造船所も中国や韓国とコラボレーションして、日本が関与した中国建造船に期待したい。もちろん日本の造船所を残すのが一丁目一番地だが、海外も取り込んでシナジー効果を出していくことを地元の造船所にも期待したい。環境対応としては、当社はここ数年で既存船の50%を現在の最新鋭船に置換していくことを進めている。2030年にはEEDIフェーズ4が適用になるが、最新のエンジンを搭載・チューニングして、風力推進をはじめとしたさまざまな技術を組み合わせると、2030年には既存のベストで50%削減を超えた船ができるのではないかとも考えている。“Today's Best”の船にもう少しこだわりつつ、新燃料もやっていきたい。

司会 船価が上昇し過ぎると、オーナーは保有しづらくなると思うが、どう考えているか。

檜垣 3年前は造船所によっては受注残が1年を切るくらいまで追い込まれた時代があったが、現在は皆が概ね3年程度の受注残を確保している。ただ、ピーク時に建造した量は確保していないのが実態で、人手不足でキャパシティが上げられない状態での3年分になり、労働力が豊富な中国にシェアをとられた。現状の世界の建造量は6000万総トンだが、2011年には1億総トン建造した時代があり、2011年建造の船はまず来年に船齢15年のリプレース期を迎える。リプレース需要に加えて、新燃料対応の需要もあるので、2030年以降は1億総トンの需要があるとさまざまなところで言われている。6000万トンの建造能力に対して1億総トンの需要があり、現在の鋼材価格や人手不足、環境対応のなか、造船所が船価を下げて売ったり、赤字受注することはなかなか起こりにくい。

■運航管理について


司会 事故のない運航ができるのが日本の船主の強みだと思うが、どのように考えているか。

阿部 安全運航は永遠の課題だ。自動化しても、やはり人の手も必要だ。特に電気系統はなかなか事前に把握しにくく、配電盤トラブルなどによるブラックアウトは自動化で大きな問題になると考えている。やはりベースがある上での自動化が重要で、その部分は小田さんに期待している。

檜垣 運航管理の点では世界中でブロードバンドに接続できるようになってくると、船の運航管理もデジタル化が進むように思う。造船所もBEMACさんのシステムを一緒に使いながら、船の安全運航をサポートできるような船を造っていきたい。

小田 当社は電気・DX・AIに特化して成長することを目指しており、業界からもその部分を求められており、そこに向かって頑張っている。電気や情報の部分は、万が一事故やトラブルが起こった際に現場で手が付けられるかどうかが大きな問題となり、同じ情報がリアルタイムに管理会社やメーカー、船主、オペレーターにタイムラグなく伝わり、複合的な危険を同時に把握できることが重要だ。船舶1隻単位のDX化と同時に船隊を管理する経営としてのマネジメントとしてのDX化がインフラとして早く整備されることがまず必要と思う。当社としては今年、フィンランドの風力発電・舶用発電機メーカーも買収した。電気・DX・AIを使って新しい船をどのように造っていくか、エンジニアやオーナー、オペレーターさんと話しながら、新しい船の形を造っていきたい。

■今治のポテンシャルとビジョン


司会 企業の集合と連携、組織力が今治の強み、ポテンシャルだと私は考えており、今治という地名がギリシャに行っても通用することを私は誇りに思っている。海事都市・今治のポテンシャルと今後のビジョンは。

阿部 日本の鋼材価格が現在トン当たり14万円前後、中国は8万円前後と言われており、日本は人材不足も深刻だ。今後環境対応で8000万~1億トンの新造需要が生じることを考えると、今治の造船各社も海外造船所とコラボレーションし、シナジー効果を出していくことが必要になるのではないか。これは決して日本を捨てるのではなく、攻めの提携と考えていただきたい。このままでは、私たちのリプレースがギリシャ船主に取られて、今治船主の成長も頭打ちになってくる。できる範囲で中国を取り込んでいって、日本の船主のサポートをしていただきたい。

小田 なぜ今治はこんなに熱くて発信力があるのか考え、「マクスウェルの悪魔」という実験・理論に今治が当てはまるのではないかと考えたことがある。マクスウェルの悪魔とはある箱に早く動く気体分子と遅く動く気体分子があり、その箱の中に悪魔が開閉可能な窓が付いた仕切りを入れて分子の動きを実験するものだ。早い動きの分子は熱量が多いため熱く、動きが遅く分子は熱量が少なく冷たく、一般的な熱力学では熱いものと冷たいものが混在しているので、全体的に平均化して温度下がってしまうが、マクスウェルの悪魔では、その悪魔が熱いものが来たときに扉を開けて熱いものを片側の部屋に入れていく。そうすると、箱の中は熱いものと冷たいものに分かれ、熱い部分は熱い状態のままになる。それが今治の状態で、今治には熱い人が元々多いが、さらに熱い人が外から入ってきて、集まっている。モノや人が集まってくると、熱い状態がキープされる。世界や日本全体では温度差があっても、今治だけは非常に熱い状態が続く。なので、バリシップなどいろんなイベントやプロジェクトはまず今治でやった方が進みやすいと考えている。新エネルギー対応が最も大きな課題となるなか、当社としても技術を高めていくが、技術を高めても、使ってもらう方がいなければメーカーはどうしようもない。今治ではその点をご理解いただいて、新しいものを使い、造るという環境がそろっている。当社としては電気・DX・AIに集中して新しい技術革新に注力していくので、是非新しい船に搭載していただきたい。

檜垣 阿部さんに叱咤激励を受けたが、今治船主の成長に対して、造船業が需要に対応できておらず、もっと頑張らなければいけないと強く思った。今治同士でこういう意見を言い合えるのが、今治の海事クラスターのアドバンテージだ。BEMACさんのように今治の舶用メーカーが欧州の舶用メーカーを買収したことも非常に心強く思っている。われわれも今治海事クラスターとして世界に打って出ることをしなければならない。今回のバリシップでは、それを踏まえて今治海事クラスターが世界に向けて日本の造船、海運、舶用を引っ張っていけることを、今治から発信していきたい。

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