2025年10月6日無料公開記事港で輝く女性たち

《連載》港で輝く女性たち⑧
家族に理解され、続けられる仕事へ
日本貨物検数協会東京支部日立事務所・佐俣美佳さん

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 北関東を中心とする首都圏の物流を支える茨城港。同港・常陸那珂港区で検数業務に携わっているのが日本貨物検数協会東京支部日立事務所の佐俣美佳さんだ。同港区として初めて女性で現場業務に就いて16年目。結婚・出産といったライフステージの変化もありながら、やりがいをもって仕事を続けている。働き始めたきっかけや長く働くためのポイントなどを聞いた。
 ― 現在の業務は。
 「常陸那珂港で検数業務に就き、船舶への貨物の積込・陸揚の立ち合い、貨物の個数や状態の確認、結果に基づいた証明書類の作成などを行っています。自動車専用船の検数業務では、モバイル端末から1/200スケールの船型と車両データを登録しておくことで瞬時に仕向け地やモデルを識別できる当協会独自のシステム『JCATS』を活用しながら効率的に作業しています。産後復帰してからは、本船の仕事とは別に輸出貨物の港内への搬入の立ち合いと在庫管理、本船用書類のスタンバイ業務にも携わっています」
 ― 仕事のやりがいは。
 「積込プランを書き上げたときなど納得する仕事ができたときにやりがいを感じます。また、この仕事は少しの間違いが重大な損失につながる可能性があります。その分やりきったときは達成感があります。さらに当協会は事務所ごとに新規事業や作業改善に取り組む『TRY活動』を実施しており、この活動を通じてアナログで行っていた作業をデジタル化する手段を考えることなどにもやりがいと楽しさを感じています」
 ― 港で働き始めたきっかけは。
 「高校の進路指導担当に紹介されたのがきっかけでした。元々は当協会のことも港の仕事も知りませんでした。ただオフィスではなく、解放感がある現場で少し体を動かしながら働きたいと思っており、その条件に合うと紹介されたのがこの仕事です。職場見学では広大な港や一面に整列された乗用車・大型重機、間近で大きな貨物船を見てとてもワクワクしました。当時、常陸那珂港で働いている女性はいませんでしたが、同期でもう1人女性が入ったこともあり、不安はなかったです」
 ― 入社後に苦労したことは。
 「男性メインの職場に溶け込むことです。作業員たちの雑談で普段女性がいる場では使われない言葉も飛び交っていて慣れるのに苦労しましたね。また3年目で検数業務の現場責任者である『主席業務』を任されましたが、女性ということもあり1人前と認められるのに時間がかかりました。例えば主席という立場上、まず私に連絡してもらうべきことが他の人に伝えられていたり、外航船のチーフに小馬鹿にされたりすることもありました。今思えばそれを見返したいという気持ちが原動力にもなっていたかもしれません。ただ、今は検数員として後輩女性も活躍しているほか港全体でもドライバーなどで女性を見かけます。女性が現場にいることが大分馴染んできたと思います」
 「港湾で働く上では、自分のことをしっかり表現するのが大事です。外国の乗組員たちともやり取りするので少し強い気持ちで物怖じせずに向かっていくこと。言いたいことが言えないと1人前として見られないので少し強気な姿勢、自ら聞きに行くことが必要です。それによって頼られ、情報をちゃんともらえる相手だと認識してもらえると思います」
 ― 現場の設備面の課題は。
 「トイレ問題はありました。現場によってはトイレが近くになかったり、鍵がない男女共用のトイレを使わなければいけなかったりしましたね。トイレがあっても正直、衛生面的に使いたくないと思うようなこともありました。入社して間もなく、新しい休憩所が建てられ、女性が働くことが港の中でも広がり段々と整備されてきたと思います」
 ― 女性が長く働くためには。
 「職員の家族から仕事に対する理解を得るための取り組みが大事だと思います。実は同期の女性検数員はライフスタイルの変化で退職しました。港湾の仕事は天候や作業の進捗で拘束時間が急に変わり、土日祝日の出勤もあります。また外国の船に女性が乗り込んで安全に作業できるか心配されることもあります。働く本人は良くても、家族から理解を得られず辞めるケースは多いと思います。特に私は家族が港湾で働いたことがなかったので、仕事内容がうまく伝わらないこともありました。家族に安全な仕事であり、やりがいを持って働いていると胸を張って言える現場になればいいと思います」
 「今後港湾業界で働く女性を増やすのにも、働きやすさの面でインパクトがある取り組みがあれば興味を持ってもらうきっかけになるかもしれません」
(聞き手:山﨑もも香、取材協力:日本港運協会)

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