2025年2月10日無料公開記事コンテナ船上位10社の事業戦略

《連載》コンテナ船上位10社の事業戦略①
競争力強化へ投資活発化
次世代燃料船の整備も加速

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事業の多角化も推進する(写真=Adobe Stock)

 主要コンテナ船社の投資が活発化している。競争力強化のための運航規模の拡大と、温室効果ガス(GHG)排出削減や環境規制対応に向けた新燃料コンテナ船の建造が進むほか、コンテナやターミナルへの投資も加速する。また、コンテナ船事業における市況変動の影響を抑え、安定的な収益基盤を構築するため、事業の多角化を進める動きもある。デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)、人材への投資も重要な要素だ。本連載では、コンテナ船大手10船社の事業戦略や投資動向について取りまとめる。

 本企画で対象とするのは、海事調査会社アルファライナーが取りまとめているコンテナ船社の運航規模統計に基づき、今年2月1日時点で上位10社となるMSCからヤンミン・マリン・トランスポートまで。公開情報を基本とし、現時点での事業戦略や船隊整備、投資戦略などについて次回以降、1社ずつ各社の動向をまとめる。
 主要コンテナ船社は2020年以降、コロナ禍や紅海危機に伴うコンテナ物流の混乱を背景とした市況の高騰を受け、未曾有の好決算となっている。財務基盤が強固となり、過去5年間に計上した利益を再投資に回し、本業となるコンテナ船事業のサービス・競争力の向上や、GX・DXの推進につなげている。
 またコンテナ船以外の海運事業や、ロジスティクス、航空運送、ターミナルなど事業の多角化を図ることで、各事業のシナジー創出を狙うほか、市況に左右されない安定的な事業基盤を構築する動きもある。加えて、顧客に対してコンテナ船による港湾から港湾までの海上輸送のみならず、総合的な物流サービスを提供することで、荷主のサプライチェーンをエンド・ツー・エンドの観点で最適化を支援していく狙いもある。
 本業のコンテナ船事業では昨年、主要各社のコンテナ船の新造発注が相次いだ。年間発注船腹量は過去最高を更新したもようだ。今後はトレードパターンの変化が予想されるものの、世界の人口増加などを踏まえコンテナ輸送需要自体は伸びる見通し。また、GHG排出削減に向けた環境規制の強化により、減速航海が進むと見られるほか、環境性能に優れたコンテナ船へのリプレースも課題となる。こうした将来を踏まえ、足元では輸送需要の増加と環境負荷低減のニーズに対応するため、次世代燃料対応のコンテナ船の整備を進める動きが加速している。
 加えて、アジア―欧米航路といった東西基幹航路では、往復航のインバランスも拡大している。スケジュール順守率の低下や遅延の常態化なども重なり、コンテナの回送にも遅れが生じている。コロナ禍や紅海危機では空コンテナ不足が問題となったが、アセットとしてのコンテナに投資する会社も増えている状況だ。
 ターミナルに関しては、成長市場へのハブ拠点となる港湾に、自営のターミナルを持つ動きもある。近年のコンテナ船の大型化により、運航コストは下がったが、反対に港湾への負荷が高まり、結果としてスケジュール順守率の低下につながった。世界全体でコンテナターミナルの処理能力不足を懸念する声も高まっており、今後はターミナルオペレーターのみならず、船社自らとしてもターミナルに投資する。自社船を優先的に荷役作業できるターミナルを確保し、生産性を高めることで、停泊時間を減らし、スケジュールの信頼性向上に取り組んでいく狙いだ。
 人材育成やデジタル投資も強化する。「コンテナ船事業の競争力の源泉は人」(コンテナ船社関係者)と言われるように、卓越した人材の採用と育成を通じて、事業基盤の強化を図るほか、ITや人工知能(AI)などデジタル技術を有効活用することで、事業の生産性向上や、顧客に対するサービスの利便性向上を目指す。コモディティ化したコンテナ船サービスにおける差別化の一環としても、力を入れる動きが目立っている。
(この連載は、中村晃輔が担当します)

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