2025年9月16日無料公開記事
<洋上風力特集>
電力ケーブル船市場へ取組進める
商船三井、通信向けの知見生かし
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“KDDI ケーブルインフィニティ”(写真提供:KDDIケーブルシップ)
商船三井は通信ケーブル分野で培ったケーブル敷設船の知見を電力ケーブル分野にも展開すべく、取り組みを進めている。同社は、KDDIグループで海底ケーブルの敷設・保守工事などを担うKDDIケーブルシップ(KCS)が保有するケーブル敷設船の船舶管理と運航を50年以上にわたり担い、延べ4隻の運航実績を持つ。これまで培ってきた、自動船位保持装置(DPS)をはじめケーブル敷設船の運航に必要な技術と経験を生かし、海底直流送電や着床式および浮体式洋上風力の電力ケーブル向けのビジネスにも展開を拡げていく方針だ。
■通信ケーブル向けで知見蓄積
商船三井では風力・オフショア事業群がケーブル船事業を担当しており、電力ケーブル向けを風力事業ユニット、通信ケーブル向けをオフショア事業ユニットが管轄する。KCS保有のケーブル敷設船2隻の運航・船舶管理はグループ会社の商船三井マリテックスが担っている。
同社グループはKCS保有船の運航・船舶管理を通じて、ケーブル敷設船の実績・知見を蓄積してきた。商船三井グループとKCSはこれまで、通信ケーブル向けで事業を展開してきたが、2019年に電力ケーブルにも対応したケーブル敷設船“KDDI ケーブルインフィニティ”が竣工。21年には洋上風力発電向けのケーブル敷設船操業に関する協業の覚書を締結し、電力ケーブル市場進出に向けた体制を整えてきた。
ケーブル敷設船は大きく通信向けと電力向けに分かれる。「電力ケーブルと通信ケーブルでは太さと重量が異なる。電力向けの場合、ハンドリングに特殊な機器が必要になる。一方で、敷設や接続といった工程は共通点が多く、親和性が高い。通信ケーブル向けで培ってきたケーブル敷設船の経験と実績を電力向けに活かし、事業展開をしていきたい」(商船三井風力・オフショア事業群風力事業ユニット風力発電第三チームの長井洋チームマネージャー)
また、商船三井は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の多用途多端子直流送電システムの基盤技術開発事業に参画している。ケーブル敷設船などの基礎技術開発のうち、古河電気工業とともに接続船と埋設船の開発を担当している。同事業では北海道と本州を結ぶ海底直流送電ケーブルの敷設を見据え、接続・敷設・埋設の各工程に特化した船の開発を進める。ケーブル同士の接続作業は敷設船でも対応できるが、政府主導で進む海底直流送電事業は規模が大きいことから、「接続船」という新たなコンセプトの船の設計を進めている。
なお、電力ケーブル向けの敷設船は、ケーブルタンク容量が大型のもので7000~1万トン級ほどになるが、接続船は中型となる5000トン級を想定している。「接続船は敷設作業にも対応した仕様で、直流送電向けの作業が完了した後は国内洋上風力のインターアレイケーブル(風車間を接続するケーブル)の設置作業への転用も見据え、設計を進めている」(長井チームマネージャー)
■浮体式向けに注力、海外展開も視野に
今後の電力向けケーブル船事業の展開について、まずは北海道と本州を結ぶ直流送電の敷設事業をにらみつつ、洋上風力分野に注力していきたい考えだ。「日本市場ももちろん見据えているが、われわれは欧州にも洋上風力事業の部隊もおり、台湾ではすでにSOV(サービス・オペレーション・ベッセル)事業を展開している。これらの地域においても将来的にケーブル船ビジネスを展開していきたい」(風力・オフショア事業群風力事業ユニットの森口岳泰ユニット長)
また、ケーブル船事業は、洋上風力発電所と海底直流送電の設置、運用・保守管理(O&M)などで需要拡大が見込まれる一方で、洋上風力市場全体がなお世界的に発展途上にあることから、事業者の需要に即した新たなサービスの創出が求められている分野の1つだ。「(ケーブル船は)まだサービスメニューの完成形がない世界で、これから新たなニーズが出て、新たなサービスを生み出せると考えている。当社は発電事業者としても洋上風力事業に参画しており、メンテナンス会社も傘下にある。船会社、事業者、メンテナンス会社それぞれの目線をもって、効率的で付加価値の高い、当社ならではのサービスを生み出していきたい」(森口ユニット長)との考えだ。