世界的に洋上風力発電の導入が進む中、発電した電力を陸地に送る電力ケーブルを敷設する、ケーブル敷設船の需要が高まっている。離岸距離の短い着床式洋上風力では、ケーブル敷設に台船が用いられるケースも少なくない。一方で、台船は気象海象の影響を受けやすく、稼働可能な期間が自航式のケーブル敷設船と比較して短い。浮体式洋上風力などのより沖合のプロジェクトでは自航式ケーブル敷設船の需要が期待されており、国内外で船隊整備が進みつつある。
電力ケーブル向け敷設船の整備進む
ケーブル敷設船は一般的に、通信ケーブル向けと電力ケーブル向けに分かれる。電力ケーブルは通信ケーブルよりも太く重量があることから、電力ケーブルの敷設作業にはより大型のケーブルタンクを搭載した船が必要となる。
海底ケーブルの設置には敷設のほか、敷設したケーブルの埋設や、ケーブルの接続作業も必要となる。埋設作業は、ケーブル敷設船で埋設機を曳航するかたちで埋設するケースや、敷設作業後にROV(遠隔操作無人探査機)で埋設作業を行うケースなどがある。また、ケーブル敷設船はケーブルの設置時だけでなく、ケーブルが破損した場合の修理など保守作業にも活躍する。洋上の特定の場所で各作業を行うため、ダイナミック・ポジショニング・システム(DPS、自動船位保持装置)を駆使した高度な操船技術が求められる。
電力ケーブルの敷設需要を見据え、国内外で敷設船の発注が増えてきている。国内では、東洋建設がケーブルタンク容量9000トンのケーブル敷設船を発注し、2026年6月の引き渡しを予定しているほか、五洋建設はタンク容量1万トンの敷設船を発注し、28年2月の完成を予定している。国内にあるケーブル敷設船の多くは通信ケーブル向けで、電力ケーブルに対応したものは少ない。洋上風力発電の導入に向けては電力ケーブル向けで複数隻の船が必要となると指摘する声もあり、国内向けでさらに電力ケーブル向けの敷設船を確保していく必要がありそうだ。
洋上風力が先行し、国家間を繋ぐ国際連系送電線の整備が進む欧州では大型のケーブル敷設船の発注が相次ぐなど、船隊増強が進んでいる。海洋土木事業などを手掛けるベルギーのヤン・デ・ヌールは既存船3隻に加え、ケーブルタンク容量2万8000トン級の新造船2隻が2026年に竣工する予定だ。フランスのケーブルメーカーのネクサンスは既存船2隻のほか、タンク容量1万3500トン級の新造船1隻が26年に竣工予定。イタリアのケーブルメーカーのプリズミアンは台船と発注残含め8隻の船隊を擁している。
長距離海底送電の敷設需要も
ケーブル敷設船の需要は洋上風力向けだけではない。再生可能エネルギーの増加に伴い、海底送電網構築に向けた計画も国内外で進んでいる。欧州では国際連系送電線プロジェクトがすでに複数稼働しているが、今後も複数のプロジェクトが計画・進行しており、英国とドイツを結ぶ「ノイコネクト英独連系線事業」では建設作業が進んでいる。また、英国とオランダを結ぶ「ライオンリンク」プロジェクトでは来年、最終投資決定が行われる予定だ。
また、日本では政府の「GX実現に向けた基本方針」において、2030年度を目指し、北海道と本州を結ぶ海底直流送電の整備を進めることとしている。政府が計画する北海道本州間海底直流送電プロジェクトは、基本要件策定時点で概算工事費が1.5~1.8兆円、概算工期が6~10年程度を見込む。整備計画の実施に向けては2月に電力広域的運営推進機関が、北海道電力ネットワークと東北電力ネットワーク、東京電力パワーグリッド、電源開発送変電ネットワークの4社を有資格事業者として決定した。事業実施案は12月26日が提出期限となっており、25年度末を目途に計画を決定する予定だ。長距離海底直流送電の実現に向けては、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はケーブル防護工法・敷設船などの技術開発に着手している。