2024年2月16日無料公開記事海事産業と中国
《連載》海事産業と中国⑧
輸出国首位交代がもたらす構造変化
自動車船、船腹調達・船型などに影響か
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中国の自動車輸出台数が2023年に日本を抜いて世界1位になった。自動車船事業はこれまで最大マーケットの日本に寄るところが大きかったが、中国の影響力がここ数年で一気に高まったことで同事業にどのような構造変化が起こるかが注目される。自動車メーカーなどの荷主の自動車船の船腹調達方法や用船マーケットに影響を与えるほか、自動車船の標準船型がこれまでの日本市場を強く意識した仕様から変化する可能性もある。
中国の自動車輸出台数は2021年に前年比101.1%増の201万5000台、22年に54.4%増の311万1000万台と急増し、ドイツと韓国を抜いて日本に次ぐ世界2位の自動車輸出国になっていた。23年は57.9%増の491万台で、442万台の日本を抜いて世界1位を奪還した。中国車は電気自動車(EV)化をテコに中国市場で急速にシェアを拡大。日本などの既存メーカーの半導体・部品不足による生産制約や、ロシア向けの輸出が日米欧メーカーの同国からの撤退を背景に急増したという要因もある。今年1月も前年同月比47.7%増と勢いは劣えない。中国の自動車輸出は、在庫の増加や貿易摩擦を含む急増の反動で、今後は鈍化もしくは一時的に減少するとの予想もある。それでも日本に匹敵する大自動車輸出国の誕生は、これまで日本を大きな軸としてきた自動車船マーケットにさまざまな影響を与えつつある。
1つは自動車船の荷主・オペレーターの船腹調達方法への影響。自動車船の最大の特徴は荷主・オペレーター・船主などのプレーヤーの数が限られること。また自動車メーカーのナショナルキャリアがメインの輸送を行うことが多い。このため、自動車メーカーは必ずしも契約でコミットしなくてもメインのキャリアから比較的安定した運賃・数量で自動車船を確保することができたと考えられる。日本の自動車船オペレーターは引き続き日系自動車メーカー向けの輸送を中心に事業を行っていく考え。ただ、船社にとって中国という新たな選択肢ができたことで、既存荷主は中長期契約のようなより強いコミットを行わなければこれまでのように船腹を調達できなくなることも考えられる。実際に自動車船の中長期契約が近年増えているといい、自動車船のスペース不足が大きな原因だが、中国荷主に自動車船を取り負けることへの懸念も背景にあるとみられる。
一方、中国系の自動車船オペレーターが自国出しの荷動きと共に台頭しつつあるほか、既存の中小オペレーターも中国の新規需要をとらえて船隊拡大に動いている。自動車船のオペレーターが増えたところに船余りが将来起これば競争が激化する恐れがあり、これに対する備えがオペレーター側にも中長期契約を増やす動機になる。
一方、中国の登場によって自動車船市場に厚みが出てきたことで同部門の短期用船マーケットが発達する見通し。現在短期用船マーケットで運用されている自動車船の比率はバルカー・タンカーなどと比べると非常に少ないが、より高い用船料をねらって積極的にフリー船を持つ船主が出てくる可能性もある。
中国の台頭による自動車船へのもう1つの影響は船型。自動車船はこれまで日本の自動車バースの全長制限に合わせた200m未満が世界の標準船型になっていた。ところが近年発注された自動車船の一部は全長が200m以上で9000台積み前後の超大型船となっており、日本市場標準船と超大型船のダブルスタンダード化に向かいつつある。
EV(電気自動車)の増加に対応した新たな船内火災防止策を始めとする安全基準面でも、中国荷主の影響力が強まる見通し。代替燃料についてもそうで、自動車船では日本が主導したブリッジソリューションのLNG燃料を経てアンモニアなどのゼロエミッション燃料につなげるルートが現在は主流だが、将来的には中国荷主がどの低・脱炭素ソリューションを採用するかも全体の流れに大きく影響しそうだ。