2024年2月9日無料公開記事海事産業と中国

《連載》海事産業と中国⑥
巨大市場の脱炭素戦略に注目
ドライバルク、量拡大から質転換へ

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 中国は鉄鉱石をはじめとする輸入貨物の拡大で20年近くドライバルク市場を引っ張ってきた。中国の鉄鉱石輸入量が頭打ちになるなどこれまでのような量的拡大は見込めない中、今後は質的転換によってドライバルク市場に大きな影響を与えるとみられる。中国荷主が輸送の脱炭素化をどのように進めるかが世界のドライバルク事業を大きく左右し、その過程で中国向けの長期輸送契約需要が再び増える可能性もあると期待される。

 中国の鉄鉱石輸入量は2008年のリーマン・ショック後も急拡大を続け、2016年に10億トンを突破した。世界の鉄鉱石海上荷動きに占める中国向けの比率は約7割で、2位の日本の約10倍という圧倒的な規模を誇る。他のドライバルク貨物でも、中国は穀物の約3割、マイナーバルクの約3割という高いシェアを占めている。
 中国の急成長がドライバルク部門に与えた影響は4つある。1つ目は何と言っても市場規模の拡大。世界のケープサイズ・バルカー(10万重量トン以上)は2004年に約600隻だったが、中国の需要増加によって現在は約1800隻と3倍に増加した。中小型バルカーのこの間の船隊拡大も中国に寄るところが大きい。
 2つ目は規模の急拡大に伴うスポット用船市況の変動幅の増大で、ケープサイズのスポット用船料のボラティリティは日建て20万ドルから数千ドルと非常に大きくなった。中国が鉄鉱石の国際価格などによって短期間で輸入量を増減させることや同国での大規模な滞船が市況上昇局面で拍車をかけるという要素もある。3つ目は中国の造船能力拡大によるバルカー船腹供給量の増加。これが結果的に2010年代のバルカー船腹供給過剰とドライバルク市況の長期低迷をもたらした。
 4つ目は、スポット用船市況への影響に隠れてあまり目立たないが、中国の鉄鋼会社がリーマン・ショック前に日本を含む船社と長期輸送契約を結んだことで、ケープサイズ部門の安定収益確保に一定程度貢献したという事実がある。これは2010年代のドライバルク不況下で船社の収益を一定程度下支えした。ただ、中国鉄鋼会社がリーマン・ショック前に結んだ長期契約が期限を迎えており、船社が契約更新を提案しても「更新については様子見をみる、あるいは更新できたとしても短期化している。彼らにしてみれば長期契約は足元のスポット用船料比で割高であることが多いので、長期でコストを固定することに抵抗感がある」(邦船社のドライバルク部門担当者)という。
 中国が輸送需要の拡大でドライバルク市場を牽引する時代は終わりつつあるが、同国は今後もケープサイズを中心とするドライバルク部門で圧倒的なシェアを持ち続ける。その中国が脱炭素化の流れの中でどのように動くかが、世界のドライバルク部門の行方を大きく左右する。最も注目されるのが中国荷主の環境対応船の調達方針。代替燃料の方向性が海運業界全体で依然として定まらない中で、少なくともドライバルク部門では圧倒的なシェアを持つ中国が大勢を決める鍵を握る。邦船社のドライバルク部門担当者は「中国の鉄鋼会社の環境対応船に対する関心は高いが、LNG、アンモニア、メタノールといった代替燃料のどれでいくのかをはっきりと明言せず、継続的に話をしていきたいというところで終わっている」と話す。ただ、これまでのように中国は代替燃料についても方向が固まれば動きは速いと考えられる。代替燃料船はコストの高さやバンカリング体制の問題などから特に初期の段階で長期契約になる可能性が高いとみられる。中国荷主の長期契約の様子見姿勢の理由の1つに代替燃料の行方の不透明さがあることからも、邦船関係者は「燃料転換は新たな長期契約獲得のチャンスになる」と期待する。
 もう1つの注目点が社会の脱炭素化に伴い中国関連貨物の種類がどのように変化するか。中国の鉄鋼業界が脱炭素化を進める中で還元鉄などの輸送需要が増える可能性があり、粗鋼生産量10億トンの同国が原料を数%でも切り替えればインパクトは大きい。中国の電気自動車(EV)生産拡大に伴うボーキサイト、銅、ニッケルなどの非鉄や、バイオマス燃料の輸送需要が伸びる可能性がある。こうした輸送貨物の転換期も、荷主の船腹安定調達志向の高まりなどで長期輸送契約につながると期待されている。

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