2026年9月7日無料公開記事

安全文化醸成で事故リスクを低減
【対談】ガードジャパン×セイファー

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左から、後藤氏、鈴木氏、シェパード氏

 ノルウェーのP&I保険大手ガードは昨年、同国の安全文化企業セイファー(Sayfr)に出資し、両社が連携して船舶事故防止に向けた安全文化の醸成に取り組んでいる。ガードの日本法人ガードジャパンのルイス・シェパード・マネージングダイレクター、ロスプリベンション担当で船長の鈴木ひろか氏、セイファーの後藤譲ダイレクターに書面対談で、両社提携の意義、安全文化への取り組みなどを語ってもらった。

■強みと弱みを可視化

 ― まずセイファーにとって、ガードとの提携で最も期待したことは何か。
 後藤「ガードのP&I保険大手としての強固な顧客基盤や、財務健全性に裏付けられた信用力は言うまでもない。それに加え、船主や船舶管理会社向けのロスプリベンション(損害防止)活動への積極的な取り組み、そして船員問題に対して常に寄り添う姿勢は、提携を決める上で重要な要素だった。お互いに『海運業界の安全性を高める』というビジョンを共有していることも、今後の相乗効果への期待につながっている」
 ― ガードがセイファーへの出資を決めた最大の理由は。
 鈴木「ガードは長年にわたり海難事故やクレーム対応に携わってきた。その経験を通じて、『安全文化』が事故の発生を左右する極めて重要な要素の1つであり、その向上がリスク低減に大きく寄与することを実感している。実際には、単なる手順の不備だけで事故が発生するケースは多くない。事故の背景には、コミュニケーション、信頼、失敗からの学習、チームワーク、意思決定といった『人的・組織的要因』が複雑に関わっている。セイファーによる調査は、こうした要素を測定し、可視化することにより、組織全体の改善を支援するものだ」
 シェパード「今回の出資は、ガードが掲げる『Safer with Gard(Gardとであればより安全)』という理念を具体的な形で実践する取り組み。CEOのロルフ・トーレ・ロッペスタッドが述べているように、『船員の安全とウェルビーイング』の向上につながる技術やサービスへ直接投資することで、その理念を有言実行で示した」
 ― ガードとの提携によって、どのような新たな価値を提供できるようになったか。
 後藤「セイファーは『船主や船舶管理会社の安全文化の醸成を支援し、重大事故を未然に防ぐ』ことを存在意義として掲げている。今回の提携によって、その重要な一歩となる安全文化測定サービス『SafeMind』を共同で提供できるようになった。加えて、出資という強いコミットメントをいただいたことで、持続的で質の高いサービスを提供できる環境が整った」
 ― 保険会社として、「事故を起こさないためのサービス」に踏み込む意義をどのように考えているか。
 シェパード「従来、保険会社の役割は事故発生後の保険金請求対応や損失回復支援が中心だった。しかしガードは、事故が起きた後に対応するだけでなく、事故そのものを防ぐことが重要だと考えている。事故の背景には共通する傾向や人的・組織的要因が存在する。セイファーとの提携は、ガードが持つ事故・クレームに関する知見と、安全文化に関する専門性やデジタル技術を組み合わせることで、顧客がリスクをより深く理解し、事故を未然に防ぐための支援を実現するものになる」
 鈴木「安全文化の醸成は、オープンな報告や学習が促進され、事故や保険金請求の減少、船員のウェルビーイングにつながる。これは船主、船員、保険会社だけでなく、海事産業全体にとっても大きな価値がある。ガードが目指しているのは、シンプルに言えば『より安全な運航』と『損失の低減』だ」
 ― 共同で提供する安全文化測定サービス「SafeMind」の特徴は。
 後藤「これまでの調査・研究から、組織の『安全文化の成熟度』と『事故の発生率』には高い相関があることが分かっている。心理測定サーベイである『SafeMind』は、抽象的でつかみどころのない組織の安全文化の状態を、40万人以上の回答から成る業界最大のデータベースと比較し、測定・可視化できる点が大きな特徴。組織に潜むリスクや課題が明確になり、具体的な改善行動計画への落とし込みが可能となる」
 シェパード「本サーベイは回答者が特定されない完全な匿名方式を採用しているため、組織構成員の率直なフィードバックを得られる仕組みになっている」
 ― 利用企業からはどのような反応があるか。
 後藤「組織の安全文化における強みと弱みが可視化されることで、それまで感じていたモヤモヤが晴れるケースが多く見られる。特に、現場で働く船員(含む部員)の声を直接聞くことが少なかった経営層にとっては、大きな気付きの機会となっているようだ」

■「失敗の連鎖」断ち切る

 ― 多くの事故を見てきた立場から、近年の海難事故に共通する課題は何か。また、安全文化の向上によって何が変わると期待しているか。
 鈴木「規制や手順、SMS(安全管理システム)が大きく進化した現在でも、多くの事故は単なる機器故障ではなく、人的・組織的要因に起因している。われわれが事故対応を通じて感じている共通の課題は、安全文化の未成熟さ、失敗から学ぶ仕組みの不足、コミュニケーション不足、そして組織内の『見えないリスク』への気づきの欠如だ。特に、根本原因を理解するよりも責任追及に重点が置かれてしまう組織では、同様の事故が繰り返される傾向がある。一方で、オープンな組織文化、学習、継続的な改善を重視する組織は、事故リスクを低減し、安全パフォーマンスを向上させる傾向がある」
 シェパード「安全文化が向上すれば、単にルールを守るだけでなく、現場でリスクを早期に察知し、船員同士が率直に意見を交わせる環境が生まれる。その結果、重大事故につながる前に問題へ対処できるようになり、より安全な運航の実現につながると期待している」
 ― 安全文化を改善する上で、最も重要なポイントは何か。
 後藤「安全文化とは、『失敗を活かす組織文化』と言い換えることができる。ここでいう失敗とは、悪いことや恥ずかしいことではなく、『期待されることや基準からのズレ』という中立的な捉え方だ。現場で生じる小さなズレを放置せず、誰もが安心して指摘・共有・報告できる心理的安全性の高い職場環境をつくれるかどうかが最も重要なポイントになる。このような組織文化では、同じ失敗の再発を防ぐだけでなく、放置すれば重大事故へとエスカレートする『失敗の連鎖』を断ち切ることができる」
 ― 日本の船主・船舶管理会社の安全文化についてどのような印象を持っているか。
 後藤「安全文化の構築において、船舶管理と配乗へのアプローチは極めて重要だが、日本の船主・船舶管理会社の経営層における意識格差は大きいと感じている。1つ目のアプローチは『人財投資型』であり、船員のキャリアパスを明確にして長期定着を促す仕組みづくりを最優先する考え方。2つ目は『コスト重視型』であり、船舶管理のコスト競争力など営業面のメリットを重視する考え方だ。これら2つのアプローチが、船員のモチベーション、エンゲージメント、組織に対する帰属意識に及ぼす影響の差は明らか。『失敗を活かす組織文化』の構築において、親和性が高いのは前者のアプローチだ。もちろん、厳しい市場環境において後者の経済合理性も理解できる。しかし、深刻化する船員不足、新しい技術やルールへの対応、企業の存続を揺るがす重大事故のリスクを鑑みれば、今後は前者のような視点を持つ経営者が増えるのではないか」
 ― 安全文化をさらに高めるために伝えたいことは。
 鈴木「組織の安全文化を構築する第一歩は、その現状を測定・可視化することであり、そのためには『SafeMind』の活用が有効。安全文化は、自然に醸成されるものではない。確かな仕組みと継続的なアプローチが必要だ。ガード/セイファーと共に海難事故を一件でも減らし、日本、そして世界の海運業界の持続可能な発展へ貢献していこう」
 ― ありがとうございました。

シェパード氏

鈴木氏

後藤氏

  • フュージョンフォース
  • 増刊号地方港特集