2025年6月13日無料公開記事シップリサイクル

《連載》シップリサイクル③
条約対応、日本船主の準備進む
解撤時はヤードの遵守状況の確認を

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シップリサイクル条約発効により、外航船主にまず求められるのは船内の有害物質などの情報で構成されるインベントリ(IHM)の作成だ。解撤時、リサイクルヤードはIHMを参照しながら船舶リサイクル計画書(SRP)を作成する必要があり、IHMは労働者の安全確保や環境に配慮した解撤に重要なものとなる。船舶の解撤に関する欧州規則(EU-SRR)がシップリサイクル条約に先行して開始されていたことから、日本の外航船主はIHMの作成が進んでおり、ひとまず大きな混乱はなさそうだ。主要解撤国では安全・環境に配慮したヤードの整備も進むが、船主は解撤時には船舶が条約に適合したヤードでルールに従って解撤が行われているか、注視する必要があるとの声も聞かれる。
 

シップリサイクルの要となるIHM


総トン数500トン以上の船舶は第1~3部で構成されるIHMを作成する必要があり、新造船は建造時に船舶の構造と設備に含まれる有害物質が記載された第1部を作成し、IHM証書の交付を受けなければならない。既存船は条約発効後5年以内か、解撤時のいずれか早い時期までに作成することとなっている。この第1部は運航中に常に最新の状態となるよう維持管理が求められるほか、証書交付後は5年ごとに更新確認が必要となる。

日本船主のIHMの準備状況については、EU-SRRの欧州に寄港する非EU籍船への適用が2020年末から開始されたことを受け、欧州地域で船を運航する船主を中心にすでに整備が進められてきた。近海船などシップリサイクル条約の発効を受けてIHMの作成を新たに行う必要がある船ももちろんあるが、国内ではひとまずは大きな混乱はなさそうだ。

一方で、他国の状況について、日本船主協会海務部の山上寛之副部長は「アジアではまだシップリサイクル条約の未批准国が多く、中小外航船社における認識がまだ進んでいない国々が少なくないと感じる」と語る。「未批准国であっても、新造船は発効直後から批准国に寄港する際はIHMの保持が求められるほか、批准国で解撤する際はIHMが必要となる。主要解撤国はほとんどが批准していることから、未批准国においても理解促進が必要となる」(山上副部長)
 

内航船も建造時のIHM作成推奨


日本ではシップリサイクル条約の6月26日の発効に伴い、担保法としてシップ・リサイクル法が同日に施行される。基本的な内容は条約と同じものだが、条約では外航船のみが対象となる一方で、国内法では内航船も対象となる。なお、船舶は自航・非自航問わず、バージや台船などでも総トン数500トン以上であれば対象となる。内航船は外航船と異なり、解撤時にIHMを保持していればよいとされるが、国土交通省は建造時にIHMを作成することを推奨している。また、日本籍船のまま総トン数500トン以上の内航船を海外で解撤する場合は、1度だけであっても海外向けに航海することとなることから外航船とみなされ、IHMが必要となる。外国籍に変更して海外売船する場合は転籍先のルールに従う必要がある。

キャッシュバイヤー大手のウィラナは「船主は時間を節約し、有利なオファーを得るためにも、解撤売船する前にIHM第1部の準備を整えておくことを推奨する。解撤の際に旗国から再資源化解体準備証書(IRRC)を取得することは売主が留意すべき重要な条約の要件だ」と指摘する。同社を含むキャッシュバイヤーなど、条約準拠に必要なサービスを提供する企業も出てきている。
 

売船後も船の行く末を注視


シップリサイクル条約の発効により、締約国籍の船は条約に適合していることが承認されたヤードでしか解撤をすることができない。また、承認された解撤ヤードは条約不適合の船舶の受け入れができない。解撤ヤードは自国の政府から5年ごとに更新が必要な船舶リサイクル実施許可を取得したうえで、解撤船ごとにSRPを作成する必要がある。解撤直前までに船主はIHM第1部に加え、第2部、第3部を作成し、IHMを完成させて、解撤ヤードに提供。解撤ヤードはIHMをもとにSRPを作成し、解撤国の承認を得たうえで解撤を行うかたちだ。

船主はこれまで以上に船の行く末を注視していく必要がありそうだ。日本の船主は一般的な解撤船齢に達する前に生き船で売船することが多く、解撤売船は限定的だが、仮に海運市況の急落などにより生き船で売船された後に解撤され、その解撤が不適切だった場合、旧船主にも責任が追及され、レピュテーションリスクとなる恐れがあると指摘する声がある。

また、条約発効が迫る中での課題について、日本船主協会解撤幹事会の岩佐久美子幹事長は「主要解撤国における体制整備の遅れは気がかりなところである」と指摘する。条約発効前は船級などが解撤ヤードの認証を行ってきたが、発効後は解撤国の政府が認証を行うこととなる。「インドはNKの認証ヤードなどを参考とする方針だと聞いており、懸念点は少ないが、バングラデシュやパキスタンなどは認証基準についてまだ方針が定まっていないと聞いている(2025年5月時点)。当協会としては、シップリサイクル条約の実効性担保の観点から、各解撤国に対し、条約発効に伴い適正な認証をはじめとする体制整備がきちんと行われるよう働きかけており、日本政府も専門家派遣等によりこれを支援していると承知している。発効後に政府の認証が無いために船を受け入れられなくなる事態は避けたい。一方で、拙速に認証を増やすことも避けて欲しい。サステイナブルな体制の維持のため、ヤード側も政府もしっかりと基準を守ってもらいたいし、売船側の船社は、これまで以上にヤードのレベルの見極めが必要になると考えている」(岩佐幹事長)

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