2025年4月23日無料公開記事スタートアップハブ

《連載》スタートアップハブ:シンガポール④
投資家はスタートアップこう見る
海事産業ベンチャーキャピタリスト座談会

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大手海運会社をはじめとした海事関連企業がこの数年、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)などを通じてスタートアップへの投資を積極化している。シンガポールで開催されたマリタイムウィークでは、商船三井や港湾運営大手PSAなどのCVCの投資担当者らによるパネルディスカッションが開かれ、投資家の立場からの注目点や課題、スタートアップに求めることなどが議論された。船舶の環境系やデジタル関連のスタートアップが増える中、最適な規模の資金調達の必要性や、海事産業のプレーヤーの関係性の理解などのアドバイスを示すとともに、人工知能(AI)を活用したソリューションなどへの期待が示された。議論を再録する。


■投資戦略とリスクシェア


パネルディスカッションでは、シンガポールの港湾運営大手PSAインターナショナルのCVC「PSAベンチャー」、船舶管理大手シュルテ・グループのCVCのイノポート、商船三井グループのCVCのMOL PLUSのほか、CVCは持たず直接スタートアップへの投資を行うウィルヘルムセン・グループ、ベンチャーキャピタルのリーフノット・インベストメントの担当者らが議論を交わした。

各社とも海事関連と物流関連のスタートアップに特化して投資を行っており、最近の投資先としては自動化やデジタル化、環境技術を展開するスタートアップのほか、船員のウェルビーイングにフォーカスした企業への投資がみられるのが特徴だ。

スタートアップへの投資の課題の1つは、投資リスクをどう見るかという点。ウィルヘルムセンで投資を担当するナクル・マルホトラ氏は、「その資金調達ラウンドに誰が参加しているかを重視している。VCだけなのか、われわれの同業が入っているか。また、意識しているのは、そのソリューションを単なるユーザーとして捉えるのか、あるいはわれわれと共創していけるのかという視点。この点を詰めることでリスク軽減手法も見えてくる」とし、「当社と似た立場の企業と連携することで、そのスタートアップが解決を目指す課題が当社固有のものなのか、業界全体の課題なのかを検証できる」と説明した。

PSAベンチャーの投資担当のマシュー・ウェブスター氏は「当社は新技術へのリスク許容度が比較的高いが、われわれの港湾で実際に使えるかどうかという現実性を重視している」とし、「港湾技術、グリーンエネルギー、サプライチェーン、デジタルのいずれかにフィットし、将来性が見えるスタートアップに投資する」と語った。
 

■環境とデジタルの投資


海事スタートアップの多くがテーマに取り組むのが、脱炭素をはじめとした環境技術だ。環境系スタートアップの動向について、MOL PLUSの阪本拓也CEOは、「最近、調達額がかなり大きくなってきている印象。資金調達ラウンドが延長されることもある」とし、「海事産業の脱炭素化は大きな挑戦であり、スタートアップ側も希薄化を受け入れて大きな金額を調達すべき。十分な資金を確保しておかないと、次のステップで生き残るのが難しい」と指摘。ウィルヘルムセンのマルホトラ氏もこれに同意し、「当社内で投資承認プロセスを通してようやく投資を実行した数カ月後に、スタートアップから追加資金が必要と言われることもある。資金調達を繰り返すのは非効率。最初に大きな金額を集めて資金余裕期間を確保すべき」とした。

一方、シュルテ・グループのハイモン・シナピウス氏は「環境技術の開発には大規模な資金が必要なのは理解できる」としつつ、「いくつかのテーマはスタートアップ向きではないとも思う。たとえば代替燃料はエンジンメーカーなど大企業が主導する分野。スタートアップが注目すべき領域は、既存船の環境対応。燃料消費を減らすためのデータ型ソリューションなどは比較的少額の投資で開始できるのでスタートアップに適している」との見解を表明。リーフノットのマーク・ドラゴン社長も「資本集約的な領域やR&Dに時間がかかる分野は、VC以外のメカニズムの方が適している場合もある。海事産業はデジタルでやれることがまだあり、スタートアップ的アプローチも効く」と同意した。

AIをはじめとした船舶のデジタル化やロボット化も多くのスタートアップが手掛ける重要テーマ。PSAベンチャーのウェブスター氏は今注目している技術として、コンテナのツイストロックの自動化を挙げ「これまで十分に機能するものがなく、港湾完全自動化を目指す中でこの分野のスタートアップを探している」としたほか、「AI活用で船舶の到着を高精度に予測できる技術を持った企業もあれば投資したい」と語った。

またシュルテのシナピウスは「人手不足が深刻化し、効率化が必須。AI活用により、これまでオペレーター1人で4隻の船を担当していたのが10隻対応できるようになるかもしれない。こうした分野で有望なスタートアップが次々と現れており、彼らを支援することが業界にポジティブな変化をもたらす」と語った。MOL PLUSの阪本CEOは「当社は、安全対策でAI技術を活用しており、いま注目しているのは音声AIのスタートアップ。船上でのミスコミュニケーション解消に取り組みたい」とした。
 

■スタートアップへの提案


投資家サイドから、海事スタートアップに対するアドバイスも送られた。シュルテのシナピウス氏は、「まず顧客を知ること。海事産業のステークホルダー間の特殊な関係性を理解しないと、技術が良くても売れない。例えば、燃料削減ソリューションは、船主ではなく用船者に売り込むべき」としたほか、適切なパートナーを選ぶことの重要性と「自社のビジネスがVC向きかを見極めること。VCには魅力的ではなく、SME(中小企業)として健全に成長する方が適している場合もある」とした。

PSAベンチャーのウェブスター氏は「競合の捉え方も重要。多くのスタートアップは自社の強みだけを語り、競合に触れないが、投資家としては競合との比較で語ってくれると投資しやすい」と投資判断の視点で助言。また、リーフノットのドラゴン社長は、「市場構造を理解し、その構造の中で、自分たちのビジネスモデルが適合しているのかを見つめてほしい。また、可能な限りグローバルで考えてもらいたい」との希望を語った。

(連載おわり。対馬和弘が担当しました)

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