2025年3月5日無料公開記事
クラウド船舶融資の個人会員6000人
日本マリタイムバンク、3年で185億円・22隻
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個人投資家から小口資金を募り、船舶向けの融資を行うクラウドファンディングを展開する日本マリタイムバンク(東京都中央区)の個人会員数が、事業開始から3年間で6000人に達した。この間に法人と個人から185億4000万円を集め、計22隻の中古船に融資を実行している。同社の代表取締役の昼田将司氏は今後の展望について「個人会員数1万人を目標とし、より利便性の高いサービスの提供を目指す」とコメント。また、「法人と機関投資家向けの投資プラットフォームの強化にも注力する」と語った。
― 日本マリタイムバンク発足の経緯は。
「このビジネスの構想は2018年頃にさかのぼる。当時、私はシップブローカー業のオーシャントラストとオペレーティング・リース業のMIPを経営していた。そこに加え、クラウドファンドを活用して船舶融資を行う専門会社として20年に日本マリタイムバンクを設立した。金融商品取引業・貸金業登録などの準備を経て、22年3月に事業を開始した。その際、オーシャントランスとMIPが担っていたシップブローカー業務とオペレーティング・リース業務を日本マリタイムバンクに集約した。ただしブローキングといっても純粋な売買船仲介は行わず、セール・アンド・リースバックに特化している」
― クラウドファンドによる船舶融資を始めた理由は。
「2018年当時は今とは事業環境が大きく異なり、海運市況は低迷し、欧州を中心に金融機関の船舶融資が消極的になっていた。また、日本国内ではノンリコースローンも浸透しておらず、投資家にとっては魅力的な環境だった。そのため、銀行が融資しない案件に対してクラウドファンドを活用して資金調達を行い船舶融資するビジネスが成立すると考えた」
「クラウドファンドは2015年頃から注目され始めたが、当初は信頼性も低く、世間の認知度も低かった。しかし18年頃には投資対象としての認知が広がり、しっかりとした業者による良い商品であれば個人投資家も投資するという土壌ができていた。不動産クラウドファンドと同規模(3~5億円程度)でも、小型中古船を対象にした船舶融資でビジネスが成立すると考えた。大手が手を出さない、小規模案件にこそビジネスの機会がある。それが私のビジネス哲学だ。ただ、われわれに船舶ファイナンスの経験はあっても、個人から資金を集めるのは全くの未経験だったので、時間をかけて体制をしっかりと整えた。それでも本当に個人会員が集まるのだろうかという不安の中で始めた事業だ」
― 船舶融資とクラウドファンドの体制は。
「融資審査は通常の金融機関と同様に営業部から独立した審査部が融資稟議書を精査し、審査会議で承認するプロセスを採用している。ただし、決算書だけで融資判断をしない独自の審査体制を構築し、船舶の価値と市場性を重視するのが特徴だ」
「人員は全体で27人。クラウドファンド事業は5人で、審査担当者はリース業界出身者が中心だ。また、Webマーケティングの専門家も採用し、SNS広告などを活用した集客を行っている。個人投資家の管理とファンドの管理は、自社システムを活用し自動処理で管理している。お客さまの個人情報を扱っているので、情報については非常に厳重に取り扱っている」
― クラウドファンドのこれまでの運用実績は。
「出資規模や求めるリターンの水準が異なるため、個人向けと法人向けに分けて募集している。これまでのファンド組成件数は進行中のものも含めて34件で、1隻を2~3回に分けて募集するケースもあるため、融資隻数は計22隻。全て中古船で、船齢15年以上の小型船を主な融資対象にしている。一般的に日本の個人投資家は現状では定期預金に近い感覚で投資されていると思うが、そのような感覚に当社の商品は合っている。日本の多数の個人が海外の海運会社にお金を貸すという表現が分かりやすく、貸出先は欧州・アジアの海運会社だ」
「募集金額は個人が一口10万円からで、法人が一口1000万円から。ただ、個人が複数口購入するケースが多いため、1回の出資額は平均40万円程度。個人向けの案件は総額5000万円単位で募集しており、法人向けの案件は総額5億円以上の募集になる。継続的に出資を行う会員が増加し、1人当たりの投資額も増加傾向にある」
― これまでの運用リターンの実績は。
「個人向けの利回りは3~5%の範囲。当社の融資型ファンドは、船舶の運航収益に依存するのではなく、企業への貸し付けによる金利収入が主なリターンとなる。そのため、貸出先がデフォルトにならない限り安定したリターンが確保される。万が一デフォルトになった場合には通常の金融機関と同様に、担保となる船舶を差し押さえて回収するという手順を踏む。融資審査の段階で、船舶の担保価値や市場流動性を十分に精査し、回収の蓋然性を見極めた上で融資を実行している」
― 個人・法人への営業をどのように行っているのか。
「個人向けの営業は基本的にWeb広告のみで展開している。この分野のノウハウを海運業界で持っている企業は少ないので、当社の強みになっていくと思う。会員登録者は6000人に達しており、個人投資家の船舶投融資に対する認知度を高める役目を担っている。対象は日本国内の投資家に限定しており、最も多い年齢層は30代後半から40代。1人当たりの投資額は50代以上が多く、逆に20代では一口だけの投資もある。女性会員も多く、30~40代では25~30%を占めるなど、多様な投資家層に支持されている」
「法人営業は対面とWebで展開しているが、現在は当社のオペレーティング・リースとブローキングの取引先が中心となっている。法人向けは基本的に6カ月以内の超短期融資案件に絞っており、金利は個人よりも高めに設定している。定期預金の延長線上という形でご紹介させて頂いている」
― 今後の目標は。
「ホームページを個人向けサービスと法人向けサービスに明確に分け、それぞれの投資家層に最適な投資プラットフォームを構築する。特に法人・機関投資家向けの投資プラットフォームを強化し、より大型調達の場としての役割を充実していく。個人向けについては、大台である会員数1万人を目指しつつ、より利便性の高いサービスを提供したい。ホームページのアップグレードに加え、現在のように資金が3年間固定されるような融資型ファンドだけではなく、より流動性の高い運用サービスの提供も今後検討し、より良い個人の船舶投資のあり方を考えていきたい」
(聞き手:深澤義仁、日下部佳子)